第49話 一発じゃ撃ち足りない!!

 鷹見の怒号がビル中に響き渡ったその瞬間、表口が破壊されるような音と共に、黒装束の精鋭たち――火影と元しろさぎ高校の暗殺者たちが、一斉に雪崩れ込んできた。


 その気配に呼応するように、あんこと夜街も飛び出した。


「今ッ!!」


 あんこが叫ぶと同時に、夜街が拳銃を構え、目前の敵に向けて引き金を引いた。

 乾いた銃声が廊下に響き、弾丸が標的の肩を撃ち抜いた。


「うあっ……!」


 その隙に、あんこは気配を消すように背後へと回り、別の団員を絞め落とした。

 不意を突いた初撃で数人を仕留めたものの、さすがは暗殺事務所の中枢。すぐに敵も態勢を立て直してきた。


「くそっ……! 次から次に!」


 夜街は壁際に身を寄せながら、リロードする隙をうかがった。

 あんこは低く構え、足音を殺しつつ、敵の包囲を裂くように跳び込んだ。


 だが――


「数が……多すぎる……!」


 あんこが歯噛みするほど、敵の増援は途切れなかった。

 いくら訓練を積んだ彼女たちでも、二人きりでは数に勝てなかった。


 銃声と怒声が飛び交うなか、夜街の肩が弾け飛ぶように弾丸をかすめた。


「夜街ッ!」


「大丈夫……でも、このままじゃ……!」


 まさにその時だった。


 ガシャンッ!!


 頭上の窓ガラスが、何かに打ち破られるように炸裂した。


「っ……あんこ、下がって!!」


 夜街が反射的にあんこの腕を掴み、強引に床へ引き倒した。

 次の瞬間、窓を突き破って飛び込んできた黒い飛来物が、彼女たちの頭上をかすめて床に叩きつけられた。


 それは閃光弾だった――!


 キイィィィィンッ……!!


 爆音と光が一帯を包み、敵も味方も一瞬、視界と聴覚を失った。

 煙の中、誰かの影が飛び込んできた。


「待たせたわね。こっからが本番だよ」


 スーツ姿に黒髪をなびかせながら、その影――園田が優雅に着地した。


 そのすぐ後ろには、身長180センチ近くの、筋肉質な女が続く。

 長く鋭い爪のような指先を構え、鋭い目つきで敵を睨んでいた。


「シャチ女……!?」


 あんこが驚きの声を漏らした。

 そこには、人格矯正プログラム前の暗殺者のシャチ女がいた。


「……なんで、あんたたちが……?」


 夜街も、呆然とした声で尋ねた。


 園田は微笑みながら、肩に担いでいた特殊ライフルを構えた。


「夜街さん…私たちが、あんこ一人で死なせるわけないでしょ?

  ヒーローは、仲間がいてこそ成立するのよ」


 背後でシャチ女が歯を鳴らしながら唸った。


「こっちは久しぶりの喧嘩でうずいてんだ。

 暴れさせてもらう……!」


 そして、彼女たちは煙の中へと飛び込んでいった。


 閃光と共に現れた園田は、まるで舞台に降り立つ主役のように、冷静に敵陣の中央を歩いた。


「さて……せっかく新作を持ってきたんだ、試させてよね?」


 彼女が腰のホルダーから取り出したのは、奇妙な形の銃器。

 見た目は拳銃に似ていたが、先端に小型のプロペラが取りつけられている。


バシュッ――!


 発射された瞬間、小型ドローンが飛び立ち、敵陣を旋回しながら煙幕と閃光を撒き散らした。

 続いて、園田の手元から飛び出した爆音弾が、敵の一角を吹き飛ばした。


「なに、あれ……っ!」


 あんこが呆然とつぶやいた。


「園田さん、いつの間に新兵器を……?」


 夜街も目を見張る。だが、その驚きは、まだ序章だった。


 その後ろ――


「おらあああああああああ!!」


 地響きを伴うような怒声とともに、シャチ女が突撃してきた。


「久しぶりだねぇ……しろさぎ高校のクズども!」


 その叫びに、敵陣の一部が一瞬怯んだ。


「シ、シャチ女!? まさか、生きてたなんて……!」

「無口だったのに、饒舌で、かつ口が悪くなってる…!!」


 かつて同じ釜の飯を食ったしろさぎ高校の元同僚たちが、戸惑いの声をあげた。


「いまさら泣きついたって遅ぇんだよ! あたしの背中を見て、あんたらも目ぇ覚ませ!」


 叫ぶと同時に、シャチ女は敵の一人を持ち上げ、壁に叩きつけた。


 その気迫に圧倒された数人の暗殺者が、次第に手を止めた。


「シャチ女さん……! あんたがそこまで言うなら、俺たち、やるぜ……!」


「昔みたいにさ、悪党潰しに戻ろうぜ!」


 情熱の殺意が、次々と連鎖していった。


「こりゃ……勝てるな」


 夜街が思わず笑みをこぼした。


「うん……あたしたちもやりますよ!」


 あんこが頷き、再び銃を構えた。

 ふたりは背中を預け合いながら、残る敵に対して駆け込んだ。



 ――数十分後。


 硝煙の漂う事務所には、静寂が戻っていた。


 倒れた団員たちは動かなかった。

 武器はすべて床に散らばり、そこに立っているのは勝者たちだけだった。


 夜街とあんこは、肩で息をしながら、互いを見た。


「……終わった、ね」


「うん。終わったよ」


 ふたりは微笑み、手を上げて――


 パシッ。


 血のにじむ手と手が、高く打ち鳴らされた。


 ハイタッチの音が、戦いの終わりを告げた。

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