第22話:烏の導き

ネストの格納庫かくのうこは、夜の静寂せいじゃくに包まれていた

ブラインは、一人、ファルシアの機体「ヘブリン」の前に立っていた


その機体は、ファルシアの死後、一度も動かされていない

ほこりかぶり、まるで深い眠りについているかのようだ


ブラインは、ヘブリンの機体にそっと触れた

冷たい金属の感触が、彼の指先に伝わる


「ファルシア……」


彼の口から、小さな呟きが漏れた


ファルシアの死は、ブラインにとって、あまりにも突然だった

彼は、ファルシアから多くのことを学んだ

ネストの理念りねん、アダリズとしての生き方、そして、この荒廃こうはいした世界に希望を見出すこと


ファルシアは、ブラインにとって、師であり、友人であり、そして、導き手みちびきてだった

その彼を失った喪失感そうしつかんは、未だにブラインの心を締め付けている


しかし、ブラインは、いつまでも悲しみに暮れているわけにはいかない

ネストのリーダーとして、彼は立ち上がらなければならない


ブラインは、ロケットを強く握りしめた

姉ウェナがのこした、唯一の手がかり


そのロケットには、座標ざひょうが刻まれている


「希望の場所」


ファルシアもまた、その場所を目指していた

彼の緑化活動の根源こんげんも、そこにあったのかもしれない


ブラインは、ロケットを見つめながら、深く息を吐いた


「俺は、ファルシアの夢を継ぐ」


彼の心の中で、新たな決意が固まる


翌朝、ネストの会議室に、ブライン、イオロ、リース、ギャレスが集まっていた

彼らの顔には、まだ疲労ひろうの色が残っているが、その目には、確かな光が宿やどっている


「昨夜、ブラインから話があった」


イオロが、口火くちびを切った


「ブラインは、ファルシアの意志いしを継ぎ、ネストのリーダーとなることを決意した」


リースとギャレスは、ブラインに視線を向けた

ブラインは、彼らの視線を受け止め、ゆっくりと頷いた


「俺は、ファルシアの夢を継ぐ

そして、この世界に、希望を取り戻す」


ブラインの言葉に、リースとギャレスは、力強く頷いた


「俺たちは、あんたについていく」

「ファルシアの夢を、一緒に叶えよう」


ブラインは、心からの感謝を込めて言った


「ありがとう」


ブラインは、本題に入った


「まずは、敵がユーライドらしきものを保持している可能性についてだ」

「回収した残骸ざんがい、あれは、自己修復じこしゅうふく能力を持っていた

そして、エフニスの機体も、これによって強化されていた」


イオロが、頷いた


「そうだ

あの残骸は、確かにユーライドの特性とくせいを示していた

だが、それが本物かどうかは、まだ断定だんていできない」


「俺の姉が遺したロケットには、座標が刻まれている」


ブラインは、ロケットを取り出し、テーブルに置いた


「ファルシアも、その場所を目指していた

姉とおぼしき人物とファルシアが話していた内容から、そこが『希望の場所』だと推測すいそくできる」


リースが、興味深そうにロケットを見つめた


「希望の場所……

それが、ファルシアの緑化活動の根源だったのか?」


「その可能性が高い」


ブラインは言った


「だから、俺は、ネストでその場所を目指してみようと思う」


ギャレスが、腕を組んだ


「危険な旅になるだろうな」


「ああ、だが、俺たちは、ファルシアの夢を継ぐんだ」


ブラインの言葉には、迷いがなかった

イオロは、ブラインの決意を、静かに見守っていた


「わかった、その場所を目指そう」


イオロの言葉に、ブラインは、安堵あんどの表情を浮かべた


「ありがとう、イオロ」


会議は終わり、ブラインは、一人、格納庫に戻った

ヘブリンの前に立つと、ブラインは、再びロケットを握りしめた


その時、格納庫の天井から、一羽の黒いカラスが舞い降りてきた

カラスは、ブラインの肩に止まり、彼の顔をじっと見つめた


ブラインは、カラスの目を見つめ返した

その目には、どこか、ファルシアの面影おもかげが宿っているように感じられた

カラスは、一鳴きすると、ブラインの肩から飛び立ち、格納庫の扉へと向かった

ブラインは、カラスの後を追った


カラスは、格納庫の扉を開け、夜空へと飛び立った

ブラインは、カラスが飛び去った方向を見つめた

その先には、満月が輝いている


ブラインは、静かに頷いた


「わかった、俺は、行く」


彼の心の中で、新たな旅への決意が固まる

カラスは、ブラインを導くかのように、夜空を舞い続けていた

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