第21話:結束

ネストの格納庫かくのうこは、いつもより重い空気に包まれていた


ファルシアの死から数日

悲しみと混乱が、まだ皆の心に影を落としている

リースとギャレスは、他のアダリズたちと向かい合っていた

彼らの間には、無言の問いかけが横たわっている


「誰が、ネストを率いるのか」


その問いは、誰もが口にしたくない、しかし避けては通れないものだった

リースが、静かに口を開いた


「ファルシアは、あたしたちの光だった

彼がいなければ、ネストは存在しなかった」


ギャレスが、それに続いた


「あいつは、この荒廃こうはいした世界で、唯一、希望を信じていた男だ

そして、その希望を、俺たちに示してくれた」


他のアダリズたちも、それぞれのファルシアとの思い出を語り始めた


彼の優しさ、彼の強さ、彼の信念


彼がどれほど、ネストにとって大きな存在だったか

そして、話題はブラインに移った


「ブラインは、ファルシアが連れてきた男だ」


リースが言った


「最初は、組織の人間だって警戒したけど

あいつは、ファルシアの夢を、誰よりも理解しようとしてた」


ギャレスが、頷いた


「カイの仇討ちの時も、あいつは冷静だった

ファルシアの言葉を、誰よりも真剣に聞いてた」


彼らは、ブラインがネストに加わってからの彼の行動を振り返った

組織からの脱走者でありながら、ネストの理念を理解し、ファルシアの個人的な活動にも理解を示したこと

カイの死に際しても、感情的にならず、ファルシアの言葉を受け入れたこと

そして、何よりも、ファルシアの最期を看取みとったのはブラインだった


「ファルシアの最期を、一番近くで見ていたのは、ブラインだ」


リースが、皆の目を見て言った


「彼こそが、ファルシアの意志を継ぐに相応ふさわしい」


他のアダリズたちも、リースとギャレスの言葉に同意した

彼らの間には、満場一致まんじょういっちの空気が流れていた


「ブラインが、ネストのリーダーになるべきだ」


その声が、格納庫に響き渡った

しかし、その時、イオロが口を開いた


「待て」


イオロの声は、静かだが、その場にいる全員の注意を引いた


「ブラインは、まだ若い

そして、彼は、ファルシアを失ったばかりだ」


イオロは、ブラインの方を見た

ブラインは、黙ってイオロの言葉を聞いている


「ファルシアの死は、彼にとって、あまりにも大きすぎる

これ以上、彼に重いせきを負わせるべきではない」


イオロの言葉には、ブラインへの深い配慮が感じられた

彼は、ブラインがこれ以上傷つくことを望んでいないのだ


「イオロ、あんたの気持ちはわかる」


リースが言った


「でも、今、ネストにはリーダーが必要だ

そして、ブライン以外に、適任はいない」


ギャレスも、イオロに詰め寄った


「ファルシアの意志を継ぐのは、ブラインしかいない

あんたも、そう思ってるはずだ」


イオロは、目を閉じた


彼の脳裏のうりには、ファルシアとの出会いが蘇っていた


イオロは、かつて、組織の技術者だった

ユーライドに関する旧文明の文献を研究し、その危険性を誰よりも理解していた

しかし、組織の非道ひどうなやり方に疑問を抱き、脱走を決意した

荒野を彷徨さまよっていたイオロを救ったのが、ファルシアだった


「あんたの知識は、この世界に必要だ」


ファルシアは、イオロにそう言って、ネストに誘った

イオロは、ファルシアの言葉に、希望を見出した

彼の知識が、この荒廃した世界を救うために役立つかもしれない

そう信じて、彼はネストに参加した


ファルシアは、イオロにとって、ただのリーダーではなかった

彼は、イオロの人生に、再び意味を与えてくれた恩人おんじんだった

だからこそ、イオロは、ファルシアの死を受け入れられずにいた

そして、ブラインに、同じような悲劇を繰り返させたくなかった


イオロは、ゆっくりと目を開けた


「ブライン」


イオロは、ブラインの名前を呼んだ


「お前は、ファルシアの夢を継ぐのか」


ブラインは、イオロの目を見つめ、力強く頷いた


「ああ

俺は、ファルシアの夢を継ぐ」


ブラインの言葉には、迷いがなかった

彼の目には、新たな決意が宿っている


イオロは、ブラインのその目に、ファルシアの面影おもかげを見た

そして、彼の中に、ファルシアの意志が確かに息づいていることを感じた


「わかった」


イオロは、静かに言った


「あんたの決意を、信じよう」


その言葉に、リースとギャレス、そして他のアダリズたちは、安堵あんどの表情を浮かべた


ブラインは、ネストの新たなリーダーとして、皆の前に立った

彼の背中には、ファルシアの夢と、仲間たちの期待が乗っている

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