幽玄幻想詩抄

幽玄幻想詩抄

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　朧月（おぼろづき）こそ　我（われ）を呼（よ）びけり

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　振（ふ）り向（む）け見（み）れど　燃（も）へし山寺（やまでら）

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　首（くび）の塚（つか）をも　燃（も）ゆては消（き）えゆ

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　ふりさけ見（み）れど　月（つき）も消（き）へしか

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　枝垂（しだ）れし藤（ふじ）の　匂（にほ）ひに揺（ゆ）るれ

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　指（ゆび）を惑（まど）へど　塵（ちり）の舞（ま）ふのみ

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　踏（ふ）み入（い）り鳴（な）りぬ　朽（く）ちし檜（ひのき）や

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　蔵戸（くらど）引（ひ）けども　音（おと）も聞（き）こへぬ

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　虫（むし）のさざめき　夢（ゆめ）と消（き）ゆりて

狐火（きつねび）の　先（さき）に見（み）へしは　苔（こけ）の戸（こ）か　残（のこ）りし雫（しずく）の　音（おと）ぞ聞（き）こへゆ