第2話 魔法の科学的批判
愛知県小牧基地。航空自衛隊第401航空隊や404航空隊を擁する基地だ。
「ふむ。ここが騎士団の基地か。あんなに軽装でいいのか?」
「いやいや航空隊が重装備してたらおかしいでしょ」
「コークータイ?なんだそれは」
「はぁ...空を飛ぶ部隊だよ。」
「空を......飛ぶ...だと......?」
(...何?飛行魔法は最近魔導王国で開発されたばかりと聞いている。消費MPが大きすぎて実用性がないはずなのに...)
「そうそう。...あっほらっ!」
世界最高の輸送機との呼び声高いC-130が輸送任務のため離陸していく。
レオニスは,その巨体がうなりを上げて空へ飛び立っていく様子に,圧倒された。
「これが......この国の...騎士団...」
「いや違うからね」
――気を取り直したレオニスは,自分の力を見せるため魔法を披露しようとしていた。
勿論,自衛隊から許可を取っている。
「よくみておけ,これが全属性魔法持ちのレオニス様だ!」
「フレア・キャノン!」
巨大な火の玉が飛んでいく。
「お~君ってマジシャンだったんだね。」
「は?なんだ?驚かないのか?」
「いや,ただの火でしょ?火自体は熱エネルギーしかないからくらっても熱いだけだよ?」
「どういうことだ?」
「まぁ,よく見ててよ。」
男は黄土色の服を着始めた。
「そんなものでフレア・キャノンが防げるかよ!」
「まぁ,撃ってみてよ」
「いいんだな?...フレア・キャノン!」
レオニスが生み出した巨大な火の玉は男へ向かっていき,そのまま男を飲み込んで,消滅した。
「そら見たことか!あんな服で防げるわけがないんだよ!」
しかし,男はぴんぴんした状態で出てきた。
「え?なんで?」
「いやだって消防服だからね。1200℃くらいなら40秒は耐えられるよ。一瞬ならそうそう溶けないって。」
「なんだと!この国には凄腕職人までいたのか!」
――それからも,レオニスは諦めきれずに様々な属性の魔法を撃ち込んだ。
氷魔法はエアロゲル断熱服で防がれ,「液体窒素」なるMPを消費しない兵器に威力で負け,
アイス・キャノンはただのバリスティック・シールドに防がれ割れ,
水魔法は何のダメージも与えられず「高圧洗浄機の代わり」として掃除様に扱われ,
風魔法で竜巻を起こしてみれば「台風なんて慣れっこ」と言って建物に避難され防がれ,
地属性魔法で地震を起こしてみれば「地震大国日本をなめるなよ?」と何の被害も出せず,
幻覚魔法を使ってみれば,「毒キノコの下位互換」と罵られ,
今度は剣術で挑んでみれば訓練用のゴム銃で抜刀する間に負け,
......レオニスのメンタルはズタボロになった。
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「それにしても,あの勇者とか言うやつ,どんなマジックをしてたんでしょうね。」
「さあな。まぁ何といっても魔法なんて大したことなかったな」
「マジックなんだから当たり前でしょ!先輩。」
「いや,俺はさ,子供の時から思ってたんだよ。「水魔法って水の塊ぶつけてるだけだから普通に戦車の榴弾の方が強くね?」って」
「...言われてみれば,そうですね。」
「ああいうのはさ,文明が中世までしかないから強く見えるんだよ。
どれだけファンタジーの中で魔法が作られて行っても,核爆弾より威力が高いものってないだろ?ICBMより射程が長くて威力もある物ってないだろ?」
「まぁ,確かに。」
「まぁ,現代兵器なんて触ったこともねぇ中高生が魔法にあこがれる気持ちはわかるんだけどさ,あの中二病勇者みたいにね。」
「彼は成人してますけどね」
「それは一回置いとくんだよ。」
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次の日も,勇者は現れて魔法で挑んだ。
「これは爆発魔法エクスプロージョン!」
「それってさ,自分が巻き込まれないように威力下げないといけないよね。
この世界ってさ,自分がいないはるか遠くで国ごと消し去る爆発を起こす兵器があ
るのよ。」
「岩魔法パレット!」
「それって重機関銃より威力と連射力ある?」
「ファイヤーソード!」
「火で出来た剣とかなにも切れないじゃん。退化してんじゃない?」
「ウインドカッター!」
「あかぎれじゃん。あかぎれよりは威力高いけど正直風は風なのよ。乾燥してないと碌に切れないよ?」
「じゃぁこれならどうだ!探知魔法!」
「現代のレーダーなら普通に100kmは届くのよ」
「ヒール!」
「......でもさ,そのヒールってやつ。それは使えるよね。」
「え? まじか!それは本当か?」
「そうだよ。どうしても現代医術じゃ即効じゃないからね。」
「ついにっ俺の強さが!」
「でもそれって血は直るの?」
「血?血なんてほっといても大丈夫だろ」
「あー,これは欠陥アリだな。」
「どういうことだ?」
「あのね,けがは大丈夫でも血が出すぎたら人って死んじゃうのよ。」
「そうなのか?」
「それに癌とかも逆効果になりそうだしな。」
「ガン?」
「体の一部が異常な物に侵されちゃうんだよ」
「だったら回復魔法で...」
「でもがん細胞って細胞だから回復したら余計成長しちゃうよ。」
「なっ!」
「同じ理由でウイルスとか細菌もダメっぽいね。免疫は治るけど細菌の方も治っちゃうから。」
「病気?病気なんかは教会で祈って信心が足りてたら治るだろ」
「はぁ,...病気は神が治すんじゃなくて医者が治すの!」
「医者?」
「まぁ所詮回復魔法は軽傷の治療用だね。あとは骨折かな?」
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日本南海に,巨大なモンスターが出現した。
その姿はさながらゴジラ。
それは北進をしていた。
「あれは魔王四天王の一角,巨獣アブレウ!」
「なんだ?知り合いか?」
「あいつはその巨体から繰り出す高威力の攻撃と強靭な肉体が誇る防御力を兼ね備える強敵だ!あんなやつ俺が丸一日戦わないと倒せない」
「お前に倒せるなら大丈夫か。」
「なっ!」
……日本政府は即刻未知の生物に対して自衛隊による駆除を開始した。
ヘリコプターのUH-60Jにより空からM2重機関銃の12.7x99mm NATO弾がアブレウの皮膚をやすやすと傷つけていく。
01式軽対戦車誘導弾が内臓をえぐっていく。
ミサイル護衛艦「まや」から放たれた数々のミサイルがアブレウの体に穴をあける。
もがみ型護衛艦が17式艦対艦誘導弾とMk 32 短魚雷で打撃を与える。
――それは,レオニスからしたら衝撃の一言だった。
自分が苦労してようやく倒せるような化け物を,被害なしでボコボコにできるなど,
これまで自衛隊の強さを頭でしか理解していなかっために思っていなかった。
徹底的な格の違いを悟った。
……かくして、アブレウは自衛隊によって迅速かつ確実に討伐され、日本国民の生命と財産は守られた。
被害は沿岸部の一部に留まり、人的被害はゼロ。だが、政府はこの事態を「想定外の事象」として記録し、内閣官房危機管理センターは“異常存在対処班”を新設することを決定した。
むしろ本当の混乱はその後だった。
「未知の生命体」という一大センセーションが巻き起こり,
SNSは憶測であふれかえり,陰謀論者が活発に動き始めた。
ゴジラ説,地底生命体説,異世界説,某国の生物兵器説...
いずれにしてもSNSは阿鼻叫喚。中国やロシア,北朝鮮に韓国は日本への出国を一時強制停止し,全ての航空・海上便をストップさせた。
そして日本からは北海道へと避難する人々の群れで羽田・成田国際・中部国際・関西国際など主要空港は満員。主要機能が停滞した。
新千歳・帯広などの空港は到着ターミナルが大混雑し周辺の鉄道は混乱に陥った。
そしてそんな中,一人の男に脚光が集まった。
「あれは魔王四天王の一角,アブレウだ!」
「俺はブランカ王国の勇者で...」
「転移魔法で異世界まで...」
数々の”異世界人”発言が,政府の目に留まった。
実際に未知の生命体が出現したことでレオニスが言う「異世界」というものが真実味を帯びてきたのだ。
これを内閣情報調査室は重要な意見として政府に報告。
政府は彼を保護する命令を出した。
即刻彼は自衛隊によって「重要参考人」,「要注意人物」として保護。
防衛省市ヶ谷本庁の地下区画に隔離され,毎日尋問と観察を受けた。
数々の発言は全て記録に残され,全てが政府に報告された。
その結果見えてきたのは、次の三点だった。
魔王は既に討伐済みであること。
アブレウは“四天王”の中でも最も強力だったこと。
だが、そのアブレウ級の脅威が今後も出現する可能性があること――。
この報告に、政府は安心と危機感を同時にたぎらせた。
安心――アブレウ級であれば、自衛隊の通常戦力での迎撃が可能であるという現実。
危機感――一度でも“未知の怪獣”が現れたという事実が、観光業の冷え込み、海外からの避難・孤立、経済の冷却といった「日常の不安定化」に直結するという予測。
すぐさま、政府は事態を「軍事問題」から「政治的問題」へと再定義した。
アジア諸国への安全性周知、各国航空路の再開交渉、アメリカ主導の共同監視網参加への可否といった現実的な対応が、次々と動き出した。
そして、その動きの中で、レオニスという存在は静かに“役割を終えた”。
「確かに、彼の供述は役に立った。だが、今となっては“完了情報”だ」
「現場の保安上、彼を外に出すことはできない。かといって処理もできない」
「保護、という建前のまま、終生監視でいい。あとは寿命を待てばいいだろう」
英雄の末路は、あまりに静かだった。
かつて「異世界の勇者」として世界を救い、こちらの世界でも“救世主”たりうると思われた男は――
日本の郊外、旧防衛庁管理下の匿名の医療施設で、誰にも知られることなく78歳で息を引き取った。
死因は大腸がん。
初期の腹部不調を「疲労」と思い込み、無理に回復魔法で対処し続けたことが、発見を遅らせ,病状を急速に進めさせたとされる。
魔王を討ち、異世界を渡り、命を賭して人々を守った男の死は、新聞にも載らなかった。
そして,彼の最期の言葉は内閣情報調査室の資料の片隅にひっそりと記録された。
「俺は最強のはずなんだ。魔法が弱いはずがない。魔法は、強いんだよ……」
マジック・アンチテーゼ 太田道灌 @OtaSukenaga
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