マジック・アンチテーゼ
太田道灌
第1話 異世界勇者,現代へ転生す。
ここは異世界。
世界一の大国「ブランカ王国」の王宮前にて,
魔王を討伐したばかりの勇者の凱旋パレードが行われていた。
「キャー勇者様ー」
勇者の耳に聞こえるのは鼓膜を破らんとする大きな歓声。
「みんな,ありがとう!」
――そんな歓声にこたえるのが,魔王を討伐した英雄、全属性魔法と剣術を極めた史上最強の魔法剣士――レオニス=アル=グランフォードその人だ。
その凱旋ともなれば,この大観衆にも頷ける。
王都を埋め尽くす人々。
王国騎士団が必死に交通整理しているのを尻目に,パレードは王宮へと到着した。
これから王宮にて国王直々に魔王討伐の感謝状とその報酬が下賜される。
その光景を一目見んと既に王宮の観客席は既に満員を超えている。
そんな中に,勇者とその護衛である近衛騎士,王国側文官が入ろうとしていた。
しかし,突如,観客の一人が立ち上がり,レオニスへと駆け出して行った。
「おいっ。無礼なるぞ!」
近衛騎士が制止するのも聞かず,観客は鬼気迫る形相で勇者に向かう。
これは致し方ないと近衛騎士が抜刀したとき,その人が叫んだ。
「おい勇者!よくも我らが主君を倒してくれたな!」
かの者は魔王直属の臣下として,古より魔王に仕えてきた忠臣である。
「残党が生き残っていたか,ここで討伐してやる!」
勇者が攻撃しようとしたとき,突然勇者の足元に紫色に発光する魔法陣が浮かび上がった。
「俺の力じゃお前を倒せないことは分かってる!せいぜい見知らぬ世界で孤独に暮らせ!」
――そう,その魔法陣は転移魔法陣。一度魔法をかけられると術者を殺したとしても魔法は実行される。
慌てて魔王軍残党を切り殺した勇者だったが,その顔に冷や汗を垂らし,絶望の表情になった。
慌てて文官たちが駆け寄るのも制止して,勇者は言った。
「俺は絶対に帰ってくるぞ。待っていろ!まだこれが異世界に行くとも決まってないんだ!」
そして,そのまま勇者は稲光のごとき眩い光に包まれ,消えていった。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
ここは現代日本。愛知県の名古屋駅がある中村区。
大通りから少し逸れた小道に,スタングレネードかのような激しい閃光が現れた。
そして,その光が収まった先にいたのは,かの勇者レオニスだった。
「ここはどこだ?」
周囲を見渡せば,高層建造物の数々。
ブーブー音を立てて進む鉄の塊。
道行く人が手に持っている薄板。
レオニスは視界に入すそのすべてに圧倒された。
そして,激しい閃光とともに現れたレオニス自身も,周囲に珍し気な目で見られていた。
「ここはどこだ?」
「え?どこったって...メイニシだよメイキの西。
ほら,セントラルタワーが見えるでしょ。」
「ここは…」
「ここ?ここはニッポンのドマンナカ,ナゴヤだわ。」
「ここって...」
「ここはツバキチョーだよ」
道行く人に場所を尋ねても,見知らぬ地名しか出てこない。
自分がどこにいるのかは諦めて,レオニスは尋ねる人皆が持つ薄板の事を聞いた。
「その薄板はなんだ?」
「何?いきなり...スマホだよ。知らんの?」
「スマフォに決まっとるじゃろ」
「それはスマホに決まっとるだがね。もしかして見たことにゃーの?」
「アイフォンだよ」
「アンドロイドだけど,なんか悪い?」
(......一致した回答が得られない。スマホとスマフォならまだわかる。アイフォンとアンドロイドは何だ?自分のスマホとやらに愛称でもつけているのか?)
「......それは,アンドロイドと言う名前なのか?」
「そうそう。俺アンドロ派だから。」
(...アンドロ派?愛称に更に略称もあるのか?”派”とは何だ?愛称をつけるときに流派があるのか?)
「おいっ」
「はい,御用は何でしょうか」
「何っ?板が喋った?」
「そんなに驚くなよ。オッケーグーグルって知ってるだろ?」
(...オッケーグーグル?魔法の呪文か?魔法陣を使わず詠唱だけだし詠唱も短縮されている。さてはコイツ凄腕の魔術師だな。)
「お前,魔術師ランクはいくつだ?何級魔法まで使える?」
「は?なんだよチューニ病かよ...」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
凄腕魔術師に別れを告げたレオニスは,自分たちの街よりはるかに発展しているように見える街を散策していた。
「ウワッ!扉が勝手に開いたぞ!」
「ガタンゴトン」
「なんだ?地属性魔法か?こんなところにも凄腕魔術師がいるなぁ」
「何だ?音楽が聞こえてくるぞ?宮廷音楽団でもいるのか?」
――勇者には,ナゴヤの街はどれも新鮮だった。
「おっ?また新しいものだ!......何やら塔の上が赤く光ってるな。近づいてみるか。」
「プー」
「キー」
「ほうほう,塔は金属でできているな。あの光は高位の光魔法か?それとも...」
「君,君,ほらそこの君だよ」
突然,紺服を着た男に話しかけられた。
「なんだ?何用だ?」
「いや,何用だって。ドーコーホーイハンだよ。アカシンゴウムシしたでしょ。」
(...ドーコー=ホーイ=ハンにアカシンゴウ虫?なんだそれは?)
「なんだそれは?この国の騎士団と蔑称かなんかか?」
「は?......もう,道路交通法違反で赤信号無視だって。
赤の時には渡っちゃいけないって習ったでしょ?」
「何?するとあの塔の明かりが赤い時には渡ってはいけないのか?」
「そうだよ!何?常識だよ!」
(...何?最高位魔術師が常駐する必要のある機構を「常識」だと言うのか?
この国は何て言う魔導国家なのだ!)
「なに?黙っちゃって...あ,そうそう。ミブンショー出して。違反は違反だから。」
「ミブンショー?なんだそれは?」
「ん?外国人かな?じゃぁビザ出して」
「ビザ?」
「あれ?もしかして君,不法入国?」
「いや,断じて違う!俺はブランカ王国の勇者だ。魔王の残党による卑劣な攻撃を受けてここまで転移させられたのだ!」
「いやいや,チューニビョーでもあるまいし。とりあえずショに連行ね。」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
(...ここがこの国の王城か?随分とみすぼらしいがこのくらいの国家になると城も必要ないということか?)
「はい,じゃぁまずお名前と,職業を言ってください。」
「あぁ,名乗ろう。我が名はレオニス=アル=グランフォード。ブランカ王国の勇者にしてかの悪逆非道の魔王を打ち滅ぼしたその人なり!」
「あー。ヤバい奴きちゃったな。」
「ふっふっふ。そうだろうそうだろう。何てったって我は勇者なのだからな!」
「いやいやそうじゃなくて...」
「だったらなんだ?ブランカ王国の威光に恐れているのか?」
「それでもないけど...まあいいや。じゃあ年齢は?」
「年齢?たしか24歳だったはずだが。」
「24?そんな身なりして君すっかり大人じゃん。」
「そんな身なり?炎龍サラマンドラの素材をふんだんに使った特注の鎧だ。軽々しく馬鹿にするなよ?」
「いやいや,完全小学生のごっこ遊び衣装だから困ってるんだよ」
「ごっこ遊びとはなんだ!魔王の攻撃も防いで見せたんだぞ!」
「はいはい。...こりゃ精神病院に丸投げかな?」
「セイシンビョーイン?ふっふっふ。ついに我の実力に気づいたか!」
「はいはい。」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「脳波に異常は見られませんでした。心の底から信じ切っているようです。」
「まじか...極度の中二病ってことですね?」
「まぁそうなります。いくつか療法を試しましたが効果がありませんでした。」
「は~。大変だな。もうどっかほかっときたいんだけどな。」
「しないんですか?」
「それがさー。身分証明書もないし戸籍登録もないから不法入国だろうし,出身国をかたくなにブランカ王国とか宣うし。しょーじき面倒くさいんだよね」
「あー。心中お察しします。」
「何の話をしてるんだ?それよりさっさとこの国の騎士団を見せろ!」
「騎士団?...あー自衛隊か。...いいや。自衛隊に押し付けてこよっ!」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「と,言うわけで,そちらに異世界の勇者だと思い込んでる中二病患者が見学に行きまーす」
「はい?面倒ごとを他機関に押し付けないでもらっていいですか?」
「見学は一般客でもできるでしょ?拒否権はないよ~」
「警察が不法入国として拘留しろって言ってんだよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます