逃げろ!今の私を追うものに、愛はない

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 逃げろ、勝気な私!あのオヤジが、私を追ってくる!そうして私は、オヤジにつかまり…今度はアレに追われている私

 逃げろ!

 追って追われる大人の世界は、 9回の裏のように気が休まらない。

 「まいったなあ…。勝ち気で生きてきたから、きらわれた?」

 そんな、まさか。

 とにかく逃げろ!

 追ってくるのは、あのオヤジだ!

 オヤジといっても、父親のことではなく、入社した先の先輩社員。

 先輩は、きびしく、ちょっといやな男だった。

 「君は、今の子として生きて幸せか?追われて逃げるだけの日々で、幸せか?」

 言われたっけ。

 「…」

 「良いね、君のゆるゆる顔。君たちは、だれかに追われる生活をする必要がなかったんだろう?オレたちシューショクヒョーガキ世代とちがって、幸せだな」

 「…シューショクの、何ですか?」

 「すまない。どうせ、君にはわかるまい」

 いやな思い出だ。

 「コラ~!」

 先輩からは、追われ続きだった。

 先輩は、こうも言ったっけ。

 「君はこれまで、いろいろな人を追いかけてきた。楽しかったか?」

 「う…」

 「だが、これからは、追うのはやめて追われる側になってみろ」

 学生のころ、こちらは、コンサート会場などで一流芸能人などのスターを追う「出待ち」が大好きだった。

 「オヤジは、先輩は、それを知って言っていたのかな?」

 先輩は…あのオヤジは、何を言いたかった?

 今になっても、歯がゆい。

 そんな先輩だが、急に会社を辞めてしまったんだっけ。

 「…追うのはやめて追われる側になってみろ、か」

 先輩のことを思い出し、とりあえず、スマホを取り出してみた。

 「先輩の言った通り、追われてみよう!」

 こういうときは、SNSの力に頼るのが一番良い。

 新しい逃走のため、ブログを更新。

 「問題です。こちらは今、どこにいるでしょう?逃げて…ぎゃっ!」

 「やめろ!」

 「…せ、先輩?」

 頭を引っぱたいてきたのは、もう会えないんじゃないかと思っていた、急に会社を辞めた先輩社員だった。

 「これだから、この世代は…」

 先輩は、こちらを心配し追ってきたのか?

 「お前は、逃げのマナーも、SNSの危険性もわかっていない」

 「え~」

 「だが…、お前に素質がないわけじゃない」

 「?」

 「後輩よ?逃走ゲームの会社を、はじめたんだ。うちの会社にこないか?」

ちゃっかりしているよ。

ついに、つかまりました。

今は、「締め切り」に追われています。

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