生徒会室の大作戦

シャーペン

図ったな!!!

「「………………………」」

その部屋はとても静かだ。

音を立てるのは今もなお針を進め続けている少しズレた時計と、灯油を燃やし部屋を暖めるストーブ。そして

死んだ目で作業を進める少年と少女2人がペンを走らせる音だけ。

ここは学校。

2階の東側にある生徒会室。

少年は視線を上げ壁にかかった時計を確認する。

(6時30分…37分くらいかな)

ズレを考慮しながら時間を確認する。

真横にある窓に目をやると太陽の姿はとっくになく、青色から黒く変色してしまった空が広がっている。

机を通して向かい合っている少女に目をやる。

こちらには全く目もくれず下を向いて書類に文字を書き殴っている。

まるで取り憑かれているようだ。

だが、突然少女はバン!とペンを机に叩きつける


「死刑」


「…会長」


「死刑だ」


突如として発した言葉に少しの困惑を覚えながらも正気を取り戻させるために相手に呼びかける少年


「会長」


「死刑だ!」


勢い良く顔を前に向け、少女は少年と向き合う。

こちらの呼びかけに対して応じることもなくどんどん声を荒げていく。


「なんで!どうして!私と高良しか!来てないんだ!」


机をバンバンと叩きながらどんとん捲し立てる。


「これでは仕事が進まないに決まっているじゃないか!」


「仕方が無いじゃないですか。そんな事愚痴っても仕事は終わりませんよ。」


諌めながら仕事に戻るよう進める高良。

だが相当ご立腹のようでこちらの話など何一つ届きはしない。椅子から勢いよく立ち上がり天を仰ぐ少女。


「こんなに仕事を押し付けてくる奴も!仕事があるのに来ない奴もみんな!みんなみんな死刑だ!極刑だ!打首獄門だ!

磔の刑だ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


耳を劈く叫び声をあげる少女。さすがの元合唱部、声量が半端じゃない。高良は思わず耳を塞いでしまう。

正直言いたい事はとてもわかる。

山のように積み上がった書類に、居るはずのもう2人がいくら待っても来ない。しかもこの仕事は今日終わらせないといけないという三重苦。こっちも頭がおかしくなりそうだ。

だがここで愚痴を吐いたところで何にもならない事が分からないほど理性は失ってはいない。ここにいる2人には分かっている。分かっているが、あまりに仕事が多すぎる。

我慢の限界が来てしまうのも納得というものだ。


「会長、気持ちは痛いほど分かりますけどうるさいです。

さっさやらないと終わりませんよ。」


「……たかくん」


少女は項垂れながら力なく椅子に座り込みこちらをみる。

目を潤ませながら助けを求めるようにか細い声でこちらの名前を呼んでくる。


「はぁ…ひとみちゃん」


相手が愛称で呼んでくるのでこちらも合わせて愛称で返す。

昔からお互いが呼び合っていた愛称で。


「早く終わらせちゃおうよ。俺もひとみちゃんも考えてることは一緒でしょ。でもこの仕事終わらないと帰れないでから

さ、ほらさっさとペン持つ!」


「うぅ〜あ〜」


「会長!!」


「うっ……」


幼児の様な声で喚いてみても仕事は終わらないのだ。

仁美には悪いがここは我慢してもらうしかないと思いそうして高良は強く言葉を投げかける。可哀想ではあるが。


「ひどいよ…彼氏なのに…」


「うっ……」


潤む目と震える言葉は思わずこちらが悪いと思ってしまうほど庇護欲をそそってしまう。

高良と仁美が付き合い始めたのは数日前のことである。

「まだ付き合ってなかったの!?」と友達にも親にも驚愕された事はまだ記憶に新しい。

いわゆる幼馴染というものだった2人は、長い年月を積み重ね、覚悟を決め、そしてようやっと告白という確認作業を終わらせたのだ。


「……今は仕事中だから。今は君は会長なんだから。それにこの仕事は今日終わらせないといけないから。早く終わらせよう。そうじゃないと…その…そういうこともできないじゃん。」


「!…」


お互いに頬を染めて俯いてしまう。この後でやることが決まっているからだ。とても好きな相手の前で言葉にできない事を。


「「…………………」」


心がドキドキと鼓動を速めていく。改めて、相手を意識してしまったから。今目の前にいる相手がどんな人で、どれだけその人の事を思っていたかを。

少しの沈黙で静寂がこの場を支配する。


ダッダッダッ!!


「「!?」」


静寂を打ち破って何者かが走り去る音が廊下からこちらに響き渡る。2人は反射的に急ぎ入り口に近づき扉を勢いよく開け廊下を見渡す。だがもう誰の姿もそこにはなかった。


「今のは、もしかして。」


高良は思い当たる人物をすぐに頭に思い浮かべる。

そして、何が目的なんなのかも気付いた。

成る程、恋愛ドラマ好きな奴らの考えそうな事だと。


「最初から、それが目的でわざと…」


「…じゃあ今の会話も全部!」


聞いていたのだ。あの恋愛脳2人組は。

ふつふつと怒りが湧いてきた。今すぐ見つけ出してぶん殴りたくなる。だが


「「…………………」」


2人だけだから気にする事なく、言う事が出来た事が、誰かに聞かれていた。羞恥心が怒りを凌駕する。更に鼓動が速くなる。今度は耳の先まで真っ赤にしながら。

追いかけるのも時間の無駄なので2人は、仕事に戻った。

また静かな部屋になった。

音を立てるのは今もなお針を進め続けている少しズレた時計と、灯油を燃やし部屋を暖めるストーブ。そして

お互いを意識しながら目をチラチラと相手に向ける少年と、少女がペンを走らせる音だけだった。





「いや~~~〜やっぱり"ホンモノ"は違うねぇ!!結ちゃん!!」


「ほんとほんと!!あの砂糖たっぷりのトークは五臓六腑に染み渡るねぇ!!たまらんわ!アオハルーーー!!」


この少女、いや、とても形容しがたい醜い珍獣2匹は狙っていた。あの部屋で高良と仁美を2人にし、大量に仕事を押し付けることで意図的にイチャイチャさせる。

目的はもちろん己の欲望を満たすためである。


「ドラマもいいけどさ!!たまには"ホンモノ"を摂取しないとね!!咲ちゃん!!」


もう日も沈み電柱のライトがついているような時間になんとも近所迷惑なほどの声を出す獣2匹。

帰り道を歩きながら今見た映画の感想を言い合うように語り合う。


「このためだけに数日かけて仕事増やした甲斐があったというものだよ!ぐへへへへへ〜」


「思えば長い道のりだったよ〜。でも!!2人が付き合ったという情報を掴んだときから!!私たちにはこの計画を成功させるという強い意志があったのだ!!」


2人が付き合ったという情報を聞いた瞬間、電撃が走ったように計画が思いついてしまったのだ。それはもう天命でも課されたのかと言うほどに。なんとも恐ろしい害獣どもである。


「次はどうする?」


「どうしよっか!」


またも計画を立て始める2人。もはやあれは恋愛中毒者。

もはや咲と結を止められるものは何もないだろう。

なんとも楽しそうに家に帰る2人

さて、明日の学校はどんな日になるだろうか。

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生徒会室の大作戦 シャーペン @nitobe

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