第4話

 彼のドタキャンから、私はもう連絡に対して期待しないようになった。

 あんなに楽しみにしていたのに、あんなに用意したのに……。

 彼から理由について何か説明があればまだ違っていた。彼は結局理由については誤魔化すばかりで納得が出来なかった。

 その日から連絡頻度も落ちている。やはり、私が好きになった途端にこんなことになってしまう。 彼は本当に私のこと好きだったのか疑問になっていた。

 結局彼もほかの男性と変わらなかったのだ。私はそう思うことにして、自分の心を守った。



 あれから数日が経つが、彼から追加で連絡が来ることはない。もう彼のことは忘れよう。そして今まで通り私は都合のいいセフレと過ごせばいい。 彼と会わなくなってから何人とも寝たが、彼と過ごした普通なデート以外で満たされなくなってしまった。

 こんなことになるのなら、普通なんて知りたくなかった……。虚しさだけが募り、腕に傷が増えていく。

 もういっそのこと死んでしまいたいぐらいだ。 私の方から彼に連絡を入れてしまえばいいのだが、余計なプライドとあの日の怒りがそれをさせてくれない。

 彼に会いたい。でも、会ってしまえばきっと私は彼を怒りのままに罵るのだろう。

 そんなこと本当はしたくないのに、私はすぐにヒステリックを起こしてしまう。

 もう会わないのが私たちのためなんだ、と私は自分に言い聞かせて彼のLINEをそっと削除した。 これで終わり。結局誰も信用できないし、私を愛さない。



 あれから何ヶ月経った。私は相も変わらず男性にはヤリモクをされ、女性にはマウントの標的にされていた。

 自分がない私は男性に愛想を振りまきながら股を開き、女性のマウントにはニコニコと気づかない馬鹿のフリをしている。

 こんな生活、きっと死ぬまで続くのだろう。もういやになってくる。

 ピロンっとスマホが鳴り、私はポケットからそれを取り出し、送り主を見て固まった。

 『信司』と彼の名前が表示されている。今更、なんで? と動悸が速まった。

 

『久しぶり。元気にしてるかな? 美月ちゃんが良ければ久しぶりに会いたい』


 そんな内容に嬉しさと共に怒りがわき上がる。 どの面下げて私に会いたいとかぬかしているのだと。

 しかし、あの日の真相がどうしても知りたかった私は


『久しぶり。いいよ』


 と返事を返していた。正直何を言われるのか怖いし、きっと私は惨めにもわめき散らすのだろう。 予定が決まり、連絡が止まる。ちょっと前だったら彼から色んな話題を振られて時間が許す限りLINEをしていたのに……。

 そんな事実に気づきたくもなかった。もう私を好きだった彼はいない。私だけ彼を好きなまま。 


 彼と約束していたカフェに着き、私は大きく深呼吸をする。

 絶対に怒鳴らない、でも、一発ビンタはお見舞いしてやるんだと心に誓っていた。

 席に座り、適当にソイラテを頼む。まだ彼は来ていない。

 前までだったら私が待たせていた側だったなと思った。待つのってこんなに心が落ち着かないのかと、そこで初めて知った。


「久しぶり。待たせてごめんな?」


 久しぶりに聞いた彼の声に私は急いで振り返った。

 そこにいたのは、最後に見たときよりもやつれた彼の姿だった。


「え……?」


「はは、びっくりしたよな? 俺、病気になっちゃったんだよ」


 彼の発言に私は言葉を失った。病気? いつから? どうして言ってくれなかったの? そんな疑問がぐちゃぐちゃと頭の中を駆け巡る。


「……俺、癌になったんだ。今日は外出許可もらってさ。連絡も病室だとなかなか出来なくって……。でも、いいわけだよな。本当にごめん」


 弱々しげに笑う彼に、私はなぜだか涙が溢れた。 こんなに自分勝手に振り回していたのに。勝手にキレて困らせたのに。

 気がついたら私は彼を抱きしめていた。


「私の方こそごめん……! あのね、今更だけど聞いてほしいの。私、アンタのこと、信司のこと好き……」


 涙を流して、化粧も落ち始めている私はきっと可愛くなかっただろう。

 それでも今伝えたかった。

 信司は困った表情で私を見つめる。その目は動揺でゆらゆらと揺れていた。


「でも、俺……、癌になっちまったし、いつ死ぬか分かんねぇよ?」


 信司は声を震わせそう言う。私は抱きしめている力を強めた。


「そんなこと関係ないよ……。だって、信司は初めてちゃんと私を見てくれた人だもん! ねぇお願い……、この先私を信司の隣に居させて?」


 信司は静かに涙を流し始め、何度もうなずいた。 

 これが私たちの始まりだった。

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闇夜を照らす太陽は 酒本ゆき @yuki4795

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