3話 我輩、転生!
まるで溶けていきそうなまどろみの中、我輩の意識は猛烈な勢いで覚醒へと向かう。
「うわあぁぁっ!!!」
「キャアァァァッ!!!」
聞き覚えのある――いや、さっきも聞いたばかりの声が響く。
考える間もなく確信する。
我輩は死んだのだ、と。
「ロ、ロ、ローゼンさん!?」
先ほどまでのクリエラはまるで別人のように、両目を見開き幽霊でも見るように我輩を凝視している。
まあ、実際幽霊みたいなものだが。
「やあ、クリエラ殿。ご機嫌麗しゅう」
「う、うるわしゅう……」
「さて、貴女に是非伝えておきたいことがあるのだ。今、お時間よろしいか?」
「は……はい……?」
我輩は、ヴァンパイアの成り立ちやルーツ、何より太陽との関係について熱弁した。
我輩の状況を理解したクリエラは、遂に泣き崩れてしまった。
「いやいや、貴女を責めたいわけではない。むしろ、我輩の方こそ大事なことを伝え損ねていたのだ」
「だ、だってえぇぇ、私のせいでぇぇぇ……」
涙と鼻水で顔を歪めるクリエラ。
話が進まぬと判断した我輩は、ひたすらにクリエラの涙が収まるのを待った。
小一時間ほど経ち、ようやく彼女は落ち着きを取り戻し、嗚咽混じりに会話できるようになった。
「――というわけで、どうやら我輩は死んでしまったようだが……これからどうしたらいいのだ?」
「はい……本来ならば魂は輪廻へ還るのだが、こうしてここにローゼンさんがいる以上、再度転生する可能性があるかもしれない」
「それが可能なら、是非お願いしたい!」
「分かりました。それでは――」
クリエラは目を閉じ、祈りの体勢に入ろうとする。
「ち、ちょっと待った!」
「はい?」
前回の転生の痛みが脳裏に蘇る。
「転生って、ものすごく痛いんだけど、そういうものなのか?」
「痛い?戻ってきて感想を言う人はいないので、分かりません」
「そ、そうか……」
「でも手順は間違いないはずです」
「あの『異世界転生っ~~~』って掛け声も理由があったのか」
「いえ、あれはオリジナルです」
「はっ?」
「無言で送りだすのは味気ないので、規定にも一言何か言うようにと書いてありました」
まあ、そうだろうね。
しかし――
「あのセリフはいただけないな」
「ええ、そうですか?」
クリエラは信じられない顔で目をまん丸くしている。
「ああ、果てしなくダサい」
「そんなこと、初めて言われました」
「戻ってきて感想言うやつがいないからだろう」
「……」
黙り込むクリエラ。
しばらく考え込んだ末、
「ローゼンさんは、どういう言葉だったら気分が上がりますか?」
「我輩?そうだな……端的に言うとカッコいい言葉とか、聞いてワクワクするようなものか?」
「そう言っても色々ありますよ?」
「例えば、地球ではビジネス用語で英語がよく使われている。カッコよくてキマっているから広まっているのだろう?」
「それはカッコいいというより、カッコつけたいんじゃ……ワクワクする言葉ってどんなものですか?」
「ワクワク……つまり異世界への興味や好奇心、これから世界が変わる楽しみの言語化じゃないか?」
しばらく取り留めなく話し合っていると、突然謎のファンファーレが流れ出す。
「いけない、次のお客さんが来る!」
そういうシステムなのか。
しかも“お客”って。
「すみませんローゼンさん、とりあえず転生させますね。転生場所は調整します」
「え、ま、心の準備が――」
クリエラは祈りの姿勢をとり、猛烈な力の渦が我輩を包む。
光が収束し、遂にあの時間が来てしまう。
クリエラは我輩を見ると、にっこり笑った。
「ローゼンさん、アドバイスありがとうございます」
自信に満ちた表情は、我輩を気分よく転生させようという意気込みの証だ。
「それでは聞いてください。Change the World You Enjoy!!」
「そういうことじゃな――」
激痛に囚われる我輩の耳に、流暢な英語が反復して残った。
enjoy enjoy enjoy…………
我輩、転生! スギセン @sugicentury
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