第3話

 短冊にはこう書かれていた。

『おおまめさんの奥さんがぶじ赤ちゃんをうめますよーに』

 手にとって、紙の裏側の盛り上がった筆跡を指でなぞってみる。

「でもさあ、これと何の関係があるわけ」

 母は重大な罪をざんする人みたいに、

「あのとき、ヒロちゃん。ぜえぜえしながら部屋に入ってきて『これ食べて。早く』って。小さなてのひらを広げて見たら、だいが一粒乗っかってて。お母さん、笑っちゃった。ごめんね……でも嬉しかった」と静かに言った。そして、「お母さん元気にしてもらえたから、ヒロちゃんもきっと」と微笑んだ。

 小鉢の中の大豆を箸でつまんで口に運ぶと、我慢していた一切が溢れ出て、短冊を濡らした。


(終)

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ひろ子の短冊 遠野 歩 @tohno1980

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