第二話 ケーキ屋

 放課後、散々やっくん先生から注意をされたので、白服と関わらないように帰る事になっていた。正直、学校で彼女に会えたことが嬉しくそれでいて彼女とはこれ以上関わるわけにはいかなくなったので悲しみに暮れている授業中であった。

「甘屋、今日もバイトか?」

 みんなには実家の手伝いのことをバイトだと言って秘密にしてある。なぜなら、自分の容姿や雰囲気とのギャップに常々悩んできたからである。

「頑張れよ〜、あと空いた時間があったらまた遊びに行こうな」

 カンヤは昼のことなど忘れてしまったかのように屈託のない笑みで話してくれる。

「お〜、また明日な」

 彼ら曰く、甘屋は孤高ではあるが孤独ではないらしい。なぜなら自分たちがいるからだと。

「クロヤって、いつも俺らとの間にちょっと壁があるよな。別に敬遠しているってわけじゃなさそうだけど」

「そうだねぇ、いつか胸の内を一つの突っかかりもなく語ってくれたら嬉しいけど、それは傲慢なのかな?」

「大丈夫だろ、あいつが言って俺が思ったことだけど、甘屋はかっこいいやつだからさ。今のままでもいいし、もしも変わったのならそれはそれでもっとかっこよくなるだけだろ。気長に待とうよ」

 場面は移って、甘屋の実家のケーキ屋に至る。時間はクロヤが教室を出た頃だろう。

「はぁ、あの子いつになったら帰ってくるのかしら。渋木さんも来ないし」

「彼女もあいつも今学校が終わったところなんじゃないのか?そもそも毎日来る場所でもないだろう。そういや、彼女はどこの高校に行っているんだ?」

 返答したのはクロヤの父親である甘屋セイヤである。このケーキ屋、「シャトーブラン」(白い城という意味)の店長兼パティシエである。この店のあらかたのお菓子は彼による力作であった。時折、後輩というか部下というかの店員パティシエたちの作品もあったりする。

「そう言えば、私もしらないのよね。彼女優秀そうだし、案外白黒学園だったりして」

「ケイネ、あれだけ学校の話を聞いておいて知らなかったのか」

「あらどこで聞いたの?」

「キッチンからでも聞こえてくるんだよ。ケイネは声大きいから。あと彼女はいつも本当に美味しそうにケーキを食べてくれるから時折見させてもらっているんだよ。彼女の食べる時の表情は励みになるよ」

 そう語るセイヤの顔は真剣といった表情そのものだった。シャトーバランのキッチンはオープンキッチンなので、中からお客さんの表情がよく見るのである。その時が、セイヤの一番その仕事をしていて良かったと思う瞬間だった。

 そのうち、時間が経って渋木さんがお店にやってきた。その元気な笑顔の裏側にある陰りに甘屋の両親は勘づいたようだ。

「ケイネさん、今日も来ちゃいました」

「あら、渋木さん。今日も来てくれたのね」

「あ、毎日来ちゃまずかったですか?」

 「そんなことないわよ」と答えながら焦った表情を見せる彼女に大爆笑をしてしまうケイネ。

「そう言えば、今日学校で甘屋くんにお会いしました。甘屋くんって白黒学園の生徒だったんですね。黒服だったんでびっくりしました」

「もしかしてがっかりした?うちの息子に」

「いえ、確かにびっくりしましたけど、同じ学校で嬉しかったです。学校でもお顔を見れるなんて嬉しいですから」

 会話も弾んでいた頃にクロヤも帰ってきた。飲食店の倅にしては派手なオレンジの髪を掻き上げながら店内に入ってくる。

「ただいまぁ」

「遅い!渋木さん待っていたのよ。お客さん、待たせてどうするの?」

 甘屋はこの店の従業員ではないのだが、なぜか叱られている。その様子に渋木さんはどうしたものかと甘屋親子を左右で見比べている。

 彼女の方をケイネが見つめる。

「そんな顔をしなくても渋木さんは大丈夫よ。ただの親子のじゃれあいだから。きにしないで」

「母親とじゃれあうなんて嫌なんだけど」

 カッと視線をこちらに向けるケイネ。

「反抗期かしら?」

「照れているんですよ。可愛いじゃないですか?」

 クロヤは顔を伏せてしまう。気恥ずかしかったのだろう。両手で隠れた顔は赤く染まっている。甘屋にとって、渋木さんと会えた事の嬉しさと可愛いといわれたこそばゆさから来たものだろう。

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ケーキ屋の倅〜甘い香りのする方へ〜 四季織姫 @shikiorihime

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