第一章 ホイップとチョコレートの白と黒

第一話 確執

「はぁー」

 甘屋の大きなため息にクラスメイトたちが大きく反応する。甘屋は目つきも体格も相手を恐怖させるのに十分なものを持っている。大いに恐怖することだろう。そうしないのは担任の教師である「やっくん」ぐらいだろう。

「どうしたんだ、クロヤ。なんか悩み事か?」

 甘屋にビビりながら、元原カンヤが彼に尋ねる。

「そうだよ、なんか元気ないよね。僕らが朝来た時にはこんな感じだったけど」

 カンヤに続いて、飯野ハジメが声をかける。

「いや、なんでもねぇよ。大丈夫だから」

 甘屋の返答になんとも言えない表情を浮かべる甘屋の友達たち。

「そうか?なんか話聞いて欲しくなったら言いなよ。俺ら話聞くから」

 最後にそう甘屋に伝える神田ゴウ。

「んじゃあ、飯食いに行こう。そのうち席埋まっちまうだろ」

「そーだな、行くか。食いに」

 甘屋も一緒に昼食を食べに行く。

 しかし、向かった食堂はすでにぎゅうぎゅうに詰め込まれており、ようやく見つけた空席は白服、エリートの隣だった。白服の女子たち数人はこちらを見て、「え?」と怯えるような声をあげる。そのうちの一人、渋木さんは「あ!」と若干嬉しそうな声をあげる。その声に甘屋は咄嗟に顔を背ける。女子たちは渋木さんの声に反応し、ゴウは甘屋の態度に反応する。互いに訝しむような表情であった。

 白服の女子たちはこっちを小さな抵抗とばかりに睨んでいる。

「ごめん、ここで飯食っても良いかな?」

 カンヤはそう言って、女子に声をかける。

「最悪、もう行こう?みんな」

 声をかけられた女子は本当に迷惑をかけられたと言いたげな声色で友達に話しかける。二者間(白服と黒服)の関係は火を見るより明らかであった。

「どうぞ、お好きに使ってください」

 もう関わらないでくださいと言った風に聞こえる発言をする白服の女子。その発言に渋木とゴウが反応する。ハジメはゴウを諫めている。

 そんなときだった。立ち去ろうとしている白服の女子の一人のポケットからハンカチが落ちた。それをカンヤは拾ってあげる。

「おーい、落としたぜ」

「っ、捨てておいてください。もうそれ触りたくもないので」

 そんな言葉に「そ、っか」となんと言ったら良いのかというように口がぱくぱくしているカンヤ。その後ろからゴウが突っかかる。

「あーあ、拾ってもらっといてそんな言い草とか、白服の方は、特待科のエリート様は勉強する脳みそばっかりで人間性を捨ててきちゃったんですかね」

 ゴウの言葉に今までの仕返しとばかりに棘がいっぱいに刺さっている。投げる自分が痛いほどに。その態度に白服の方も一人突っかかってきた。

「本当に友達想いなんですね。お仲間意識の人間性ばかりで社会性は捨ててきちゃったみたいですけど」

 甘屋の感想は、二人とも頭が良いんだろうなというものだった。実際、ゴウは白服でもおかしくないほどに頭が良いし、白服は言うに及ばずといった感じであった。

「言ってくれるねぇ。数秒前の行動思い返せば、社会性とかどの口がって感じなんだけど。もしかして頭も悪かった感じかな?」

「やめろ!」

 甘屋がゴウを止める。

 その行動に女子だけでなく、甘屋の友達ですらそれにびっくりしている。

「神田、お前はかっこいいやつなんだからそんなカッコ悪りぃこと言わなくていいよ」

 ゴウは俯いてしまう。何か言いたそうではあったが、ハジメが引き留めてくれている。

「あんたたちも、あんたたちもすごいのはわかっているから今日は痛み分けってことにしておいてくれないか?」

「は?あなた何言って…」

「わかったわ、こちらもごめんなさい。それじゃあ」

 女子は何人かこちらに敵意を未だ示していたがゴウに突っかかっていた長身の女子は静かにその場を去ろうと提案していた。

 そんなことがあったので、昼食は急いで食べることになり、結局授業には遅刻した。その上、カンヤが先生に全部事情を説明してしまったので、後々授業終わりに怒られることになった。やっくん先生はそんなにカンカンと言った感じではなかったが「特待科の先生にこのことがバレたらたいへんだぁ」とぼやいていた。

「甘屋、お前、さっき俺のことをかっこいいやつって言ってくれたけど俺からしてみればああ言って俺を止めてくれるお前の方がかっこいいやつだよ」

 ゴウが改めてクロヤに謝ると同時に感謝を伝えていた。


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