シロクロ

おる

モノクロ

「……本日は記録的な大雨になるでしょう。」

テレビのリモコンの電源ボタンを押す。一発で消える。今日は運がいい。黒いハンガーから黒いコートをとる。するりととれる。やはり今日は運がいい。コートを羽織りビニール傘を片手に靴を履く。行く手を阻むような驟雨である。運がいい。歩き出す。


歩道がないため気をつけて歩く。気を抜くと手をひかれる。傘で振り払う。コートを引っ張ってくる。振り払う。その間も『私』を隠そうとしてくる。歩き続ける。


今日で11日連続の土砂降りだ。最後に██を見たのはいつだっただろうか。周りを見ても歩いているヒトはおろか自転車、オートバイ、乗用車も見ない。たまに『黒猫』と『にうびさ』を見る。蝉の声が聞こえる。歩き続ける。


元の姿が分からない状態の田圃を見る。もはやどこに道があったかも分からない。本当に田圃であったのだろうか。今年の米は過去にない不作かもしれない。せっかく今年████を見れたというのに。歩き続ける。


ふと上を見上げる。ビニール傘越しに漆黒の雲が落し蓋のように迫ってきている。もう少しで触れられるかもしれない。フィルターのない遠くの空を見ると眼前にあるものよりは薄くて軽そうな雲が延々と続いている。██を最後に見たのはいつだろうか。もう2ヶ月は前かもしれない。もしかしたらまだ2週間かそこらかもしれない。わからない。気にする必要も無い。歩き続ける。


『テクラムレプス』にて。ここには『あれ』が居る。今日は13月の6のつく日。手袋のそれぞれ3本の指のところに字を詰める。『あれ』の所へ向かう。


「「「「「「「久しぶりだね」」」」」」」

「「「調子はどうだい」」」「「「「「楽しんでるかい」」」」」「「それでいいのかい」」「「「「見えたかい」」」」「またね」

✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂


変わらず雨は降っている。水たまりには絶えず波紋が広がり、木々の緑は負けるものかと葉を重ね、軒先では燕が身を寄せ合っている。町内会の掲示板に貼ってあるチラシは字が滲み、どこかへ発ったものも多いようだ。歩き続ける。


雨音をBGMにゆっくりと歩く。遠くで救急車のサイレンの音が聞こえる。見上げると青い人間がいる。歩き続ける。


カギを差し込み、回す。ノブに手をかける。戸を引く。戸が開く。ビニール傘の雫を落とし、部屋に入る。靴を脱ぎ、コートをハンガーにかける。服を脱ぎ、洗濯機に放る。シャワーを浴び、寝巻きになる。


外は、雨が降っている。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シロクロ おる @orukaikou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ