Outro 僕の夢の達成の始まり

 ア・カペラのグループを結成し、同じ目標を持った僕らは、もはやそれぞれの学部の同級生を差し置いて、グループのメンバーと一緒に過ごす時間が長くなっていた。練習、大会やライブへの出場、それからプライベートで飲んだり食べたり遊んだり他愛たわいのないことを喋ったり、随分グループとしての活動が板についてきたような気がする。


 グループ名は、『Quintetteクインテット Chantantシャンタン』に決まった。

 このグループ名は、決定までに侃々諤々かんかんがくがく、かなりの議論が交わされた。

 何と言っても、僕らには驚くべきほど共通点が少ない。それこそ、同じ大学ということくらいなもの(しかも1人は大学院だし)で、個人個人の特徴はあっても、特徴それぞれバラバラな方向に向いているのだから。

 そんな、一見バラバラのようでも、ア・カペラを通じて同じ夢に向かっているのだから、発起人の僕としても不思議だと思うけど、だからこそグループ名は本当に困った。


 いっそのこと、無特徴なグループ名にしたらどうだとか言って、『Quintette Chantant』に落ち着いた。直訳すると『歌う五人組』または『歌う五重奏』。フランス語だから格好良く聞こえるだけで、僕はあまり気に入っていない。何一つ僕のアイディアは採用されていない。

 けど、不本意ながら、僕のネーミングセンスがあまりにも酷すぎるとか壊滅的とか何とか言われ、途中から蚊帳かやの外に追いやられてしまったのだから、仕方がない。

 

 そんな、個性のないグループ名だが、自分たちに『名前』がつくと、不思議なことにみんなに結束力が生まれ、歌の練習にも精が出た。チームとして、『ア・カペラ・インカレ』に出るんだと言って、日々練習はしては、足りないところを互いに補完するかのように、ディスカッションした。時には飲み会という形で。

 もっとも、合法的にお酒を飲めるのは、そ~一郎さんと祷さんだけだけど、それでもみんなで集まってあーでもないこーでもないと、個性の垣根を越えて話し合うのはこの上なく楽しかった。そ~一郎さんさんは、大学院の研究を犠牲にしてまで練習にも飲み会にも参加して、論文とか大丈夫なのか、と心配されている。祷さんは声楽でこの先食っていくのなら、焼酎は飲みすぎないほうが良さそうだけど、敢えて口には出さないでおいた。


 結果として、この結束力の固さは幾多ものレパートリーを生んだ。

 僕らに共通することとして、とにかく何でもチャレンジする姿勢があった。どんなジャンルも、まず試してみる、できなければやめればいい、っというのが信条だ。

 

 加えて、リードボーカルもコーラスもボイパもベースも固定しないようにしようというのが、僕らの挑戦だった。歌のジャンルがバラバラだと、適性のあるリードボーカルも変わる。当然ながら、男性の低音を響かせる歌は、いくら歌が上手でも祷さんには無理がある。逆もまた然り。その分、男性ボーカルでも女性ボーカルでも対応できる強みがある。


 女性曲のバラードは、祷さんの右に出る者はいない。ロックは、力強く時にはまで駆使する響歌ちゃん。テノールの歌は、言わずもがな小原くん。ラップが主体の曲は僕がリードボーカルを務める。

 そして、ボイパのそ~一郎さんは、驚いたことに、歌わせるとびっくりするくらい甘くてしなやかな美声を奏でることが分かった。失礼ながら、禿げかかった頭からは想像できないほどに。これは、ボイパだけやらせるのはもったいない。


 おかげで、レパートリーは、バラード、R&B、ボーカロイド、ヘビメタル、昭和歌謡曲に至るまで、何でもあり。ア・カペラの『コンビニ』状態である。もちろん、そこにたどり着くまで、練習量は並々ならないものだけど、不思議と楽しくやっていると、上達も早かったのではないかと思う。


 そして、いよいよ結成して1年半が過ぎようとしたときだった。

 ア・カペラ・インカレの激戦の予選会を勝ち抜き、僕ら『Quintette Chantant』は、ようやく、全国放送というひのき舞台に立つ権利を得た。


「Bグループ3試合目は、日暮里大学から初出場の『Quintette Chantant』です!」

 司会のタレントが僕ら5人を自己紹介する。相手は、学生ア・カペラ界でも大人気を博している手強い相手だ。


 リーダーである僕が披露する曲を紹介する。テレビでの披露は当然初めてだ。

 5人とも緊張の面持ちだ。最初に披露する曲はロック調の曲。リードボーカルは響歌ちゃんだ。僕らの中でも5本の指に入る、自信のあるナンバーだ。


「1! 2! 1、2、3、4!」

 僕の掛け声でコーラスが始まる。そして、澄み切っていながらも力強い声で、響歌ちゃんが第一音目を奏でた。

 ア・カペラを審査する性質上、手拍子や掛け声は禁止されていて聞こえてこないが、一曲やりきった後で、会場全体から立ち上がった観客による歓声と拍手が鳴った。スタンディング・オベーションは、僕に鳥肌を立たせるほど心地良いものだった。


 そうだ。これが僕が追いかけていた夢なんだ、と再認識した。と、同時に、僕に協力してくれた4人と、この合縁奇縁に感謝しなければならない、と思った。

 ありがとう、みんな、という言葉を心の奥底にしまった。まだ口に出して言うには、ちょっと早いような気がしたからだ。


 そう。僕の夢の達成はこれから始まろうとしている……。


(了)



【作者より】

 関川二尋さまの企画『ハーフ&ハーフ5』としての作品は、ここまでとしますが、私の中でまだここから先の続きの構想があり、さらには書ききれなかった舞台設定がありまして、『完全版』として執筆し、どこかでお披露目できないかと画策中です。


 まだ、書き始めたばかりなので、完全版を書き切る保証はありませんが、大げさな言い方をすれば、これを書き切ろうとする銀鏡の夢もまだ始まったばかりなのです。


 完全版を公開できた暁には、ハーフ&ハーフ版は読んだよ、という方も、温かい目でもう一度お付き合いいただけると幸いです。


                                     銀鏡 怜尚

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クインテット・シャンタン【関川二尋さま企画『ハーフ&ハーフ5参加作品』】 銀鏡 怜尚 @Deep-scarlet

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