第10話 「ぱぱってよんでもいいですか?」

2122年 1月8日


■■県■市緑町大学病院 11時25分 9秒 現着




「ここが、ぱぱのにゅういんしている…ばしょ?」




真央は周囲を見渡しながら不安そうに歩く。




「201…201…みつけた!ここ…だよね?」




真央が部屋につくと扉の向こうでは何やら声が聞こえる。




少し幼い子供の声と男の声が聞こえる。




いーちにー、さん!はっぴばーすでーとぅーゆー、


おめでとう!…の!3歳の誕生日!大きくなったね!


…の…成長……うれ…ジジッ




「このおと…ビデオのろくが?かな?」




真央は静かに音を立てないように扉を開くと、


液晶テレビに映っていたのは幼い真央だった。




真央は歯を食いしばった。


でないと涙が溢れてしまうと思ったからだ。


あぁ、ダメだ。溢れてしまう、涙が止まらなくなる。




この記憶は確かに覚えている。忘れるわけが無い。


両親が離婚する前の日の最後の誕生日会。


プレゼントに大きなクマのぬいぐるみを貰ったんだ。


後々に知ったけれど、あの時の真央の父親は経済的にあまり余裕が無い状況だったと聞いた。




あぁ、本当に…




「だれか、きたのかい?すまないね、いまおきるよ」




何年も会えていない真央でもわかる。




…あぁ、だめだ…もう。パパはだめなんだ。




「うん、いるよ。」




病室のベットへゆっくりと近づく。


白いカーテンを開けると、そこに居たのは記憶にいた父親とは変わり果てた姿だった。




「あぁ、もしかして。


というか僕の願望なんだけどね。真央、君だね?」




「うん。真央だよ。貴方の娘の真央だよ。」


「あ、あのね、その、ずっとね、会えなかったけどね。その…だからね。」


「うん、ゆっくりでいいよ。ここまで来るのは大変だったろう、すごいなぁ真央。うれしいなぁ、ありがとう。」




真央は泣きじゃくりながら言葉を探す。


父はその姿を優しく見守る。




「その、だからね、あのね、ききたいの。」


「うん、言ってご覧、可愛い真央。」


「わたしね、もうね、ずっとあえなかったけどね、


まだね、わたし、あなたの…かぞくですか?」




「ぱぱって、よんでもいいですか?」






「あぁ、いいよ。もちろんだ。ずっと家族だよ。」


「不安にさせてごめんね。僕は君のことが大好きで、


いつも君の幸せを願ってる。どうか神様が君に微笑むように、辛い目に会いませんようにってずっと考えてたんだ。あのね、これだけは覚えていて。」


「パパは君を愛してる。」


「うぐっ、ぐすっ…」






真央は泣いた。泣いて泣いて、泣きじゃくった。




「ぱぱにね、さいごにあいたかったの。」


「そっか。ありがとうね。最高の思い出だよ。」




そういうと真央は父の手をぎゅっと握る。


大きな手。真央より大きい優しい手。


この手がずっとそこにあると思っていた。


でもそうじゃなかった。




運命はいつも意地悪で、いつもいきなりやってきて、


大切な物をいとも容易く奪っていく。




真央はそんな運命が許せなかった。


でも今日はそんな運命に初めて勝ったんだ…




運命よ、見ているか。


これがお前への微かな仕返しだ。








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過現歪曲〜時間旅行の先で何を見る〜 七執亜郎 @aro_0123

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