第12話王と神と作家 神は紙に宿り―作家は神をも創造する
気付くと、僕は荘厳な飾りつけの施された部屋にいた。
真っ赤なカーペットの先には
王座にような椅子に雄大に腰をかける
王のような存在がいた。
「あなたは王様なのですか」
「ふふふ。面白い子供だな。たしかに私は王だ」
王は僕の顔を目を細めて眺める。
あごひげを触りながら
不敵な笑みをみせる。
唐突に王は口を開く。
「そもそも王というのは誤解を受けやすい職業だ。
それは作家もそうだろう。
民衆のためを思ってした施策が
愚策と罵られ
意図せず行った施策が
賢策だと賞賛される」
王はなにかに憤るように激しく拳をにぎる
「人というのは、自分の人生にも他人の人生にも
口を出したがる。
それが作家がうみだした1キャラクターだとしても
数という力
民主主義という名の力で
空間を捻じ曲げ
作家に干渉する。
彼らは表面上しか見ていない
その後にどんな布石があるか
どんな伏線が張られているかが
理解できない
こういった課程で
ある種
暴君
ワンマンが
うまれるのだと
そう思ったときもあった」
王の瞳には悲しみの影がさしていた。
「つまり
王や作家―――神もであるが
ある種
愛されるということについて
あきらめにも似た感情を心にもつべきかもしれない。
もし愛されることに諦めがつかないのであれば
王さえもあらがえない
絶対的な存在を作ることだろう
たとえば法がそうだ。
法を制定すれば
そうすれば…
王が悪いのではない
法が問題なのだ
しかし法が悪いわけでもない
ただ今回は運が悪かっただけだと
そう言い訳が効く」
王はグラスに赤ワインを注ぎ
それを口に含む。
「世の中の参謀は。そういう悪者に自ら望みなることも多い
それは絶対的な象徴である王を守るためであって
自らが悪役に徹するのは、究極の計略でもあるのだ。
冷徹に見える参謀が
計略決行の直前、手の震えが止まらず、夜も眠れず苦悩する。
そんなことはよくある事だ。
お前が愛されることを望むなら、そういう参謀役を置くのも
いいだろう」
彼にもそんな参謀がいたのだろか…。
目にはよき友でも失ったかのような深い悲しみがあった。
「もちろんそれは架空でも構わない。
僕の守護霊がとか…
そういうのでもよい。
ある種の天啓やアイデアの多くは
現実を超えた。彼岸からくるものなのだから…」
王は窓辺に近づき
空をあおぎみた。
「執筆とは孤独な作業に思えるかもしれない。
その孤独から筆を折ることも多いだろう。
しかし孤独というのは反面正解で反面不正解だ。
一流の作家だったとしても、編集、校閲、広報、印刷、流通、販売
そして読者
様々な人の力を借りなければ、1冊たりとも売ることはできないのだ
つまり表面上孤独だとしても、その実…深い深いつながりがあるのだ。
それは経済的なつながりであるが、それはたいした問題ではない
時には血のつながりがある家族よりも、経済的なつながりである
彼らのほうが、心底頼りになることもあるのだ
そうやって、執筆は実は孤独ではなく、人と人をつなげる作業なのだと
認識してみたまえ、多少は孤独感は消え
ぎゃくに自らの内容物をさらけだすことが、人々とのつながりを
強靭にするものだと理解できるだろう」
王は僕に近づき
肩をその大きな手でつかんだ。
「さぁ書け そして己の内なる毒を吐き出すのだ。
本当は繋がりを欲する臆病な魂たちよ」
その圧倒的な圧力に
僕は
僕の臆病さは
圧倒され
大きく変容しようとした。
ぐにゃりと
空間がきしむ音がする。
バキバキバキバキと
体中の関節がきしむ音がする。
――――――――
「ニャー。ニャー」
僕の顔を何かが舐める。
黒い毛並みのいい猫だ。
気が付くと
僕は魔女の家にいた。
あーこれが試練だったのか。
僕は試練を突破できたのか…
無性に創作意欲が沸く。
言葉が浮かんでくる。
魔女の顔を見ると
「どうやら魂を取り戻したようだね」
と少女のような屈託のなく笑い。
僕に原稿用紙とペンを渡してくれた。
僕は僕の中のドロドロしたなにかを…
原稿用紙にぶつける。
銀行家のように
ただ連ねる。
言葉を
いや言葉にもならない未成熟な感情の塊を
ただぶつける。
ようやく落ち着いたところで
魔女に訊ねた。
「あれからどれくらいたったの?」
「そうだね。3時間といったところかね」
僕の冒険は
すべては夢の中での出来事だったのだ。
たったの3時間か…。
「お昼過ぎにはお前さんの親御さんが迎えに来るから
それまでチェリーパイでもおあがり」
と
魔女はチェリーパイを差しだしてくれた。
グー
お腹がなる。
僕はようやくチェリーパイにありつけた。
チェリーパイは少し冷めていたが
その少し冷めたところも
僕には最高に思えた。
いままで色んなパイを食べた。
アップルパイやポテトパイ、クランベリーパイも
たぶん8種類くらい食べたと思う。
でも今日のチェリーパイが最高だった。
作家は
真っ白の空間に、黒いインクで、世界を紡ぎ出す。
パイ職人は
真っ白い小麦に、チェリーや砂糖で、世界を紡ぎ出す。
異なるもの同士がぶつかって…
世界が生まれる。
これから、僕は様々な感情と、世界の情景をマリアージュさせ、世界をうみだすのだろう。
そう思うと心が高鳴った。
今日が始まりだ。
END
創作という名の病~書かなければ終わる世界で 坂本クリア @clear-sakamoto
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