第26話 初恋話
またあの声が聞こえる。
俺を呼ぶあの声が_____
「……!」
悪い夢から逃げ出すようにベットから起き上がると寝ていた部分には汗がびっしょりとついていた。
「逃げれないのか」
額からも汗が飛び出ている。
窓を見ると今が夜中なのは分かる。が眠気などは一切起きてこなかった。
俺は気を落ち着かせるために外に出かけることにした。静まり返った外が今は心地いい。
一人になりたかった。
空を見上げるとよく、親父に言われたことを思い出す。
「アルフ。大事なことは手元にあるものではない。見えないもの、遠くにあるもの。それらは普段、気がつけないものだ」
今になってその言葉がわかる。
皮肉なことに失ってから分かるものなんだな。
「星に名を刻め____」
父はよく言っていた。
俺は一番大きく光っている星を探す。
(あれに名前を彫ったとしても……誰も分からないよな)
父が言いたいのはそう言うことじゃないんだろうけども。
「こんな時間にロマンチストモードか?」
その声に思わず振り返るとそこには服のところどころが焦げたベルフが立っていた。
「そんなお前も大はしゃぎキャンプモードか?」
「かもな」
彼は「俺らに大事なもんを取ってくる」と言って急いでどこかに向かって行った。
しょうがない。一人時間はお開きにしよう。
ベンチで腰掛けて待っていると彼はお酒の入った瓶を2本、嬉しそうに持ってきていた。
「これがなきゃな」
「そうだな」
互いの瓶を当てて喉に流し込んでいく。
「で、何か悩みなのか?」
「悩みなんてねぇよ。ただ目が覚めただけだ」
「そうか。男は生きづらい生き物だからな」
「お前がか?」
「馬鹿にすんなよ。俺にだって悩みは抱えてるんだ」
グイグイ飲んでいく彼を横目に俺は聞きたかった質問をする。
「まだ恋しいのか?クレアが」
「……まぁな」
「俺が協力してやるよ」
「はっ。いらないな。あいつを分かってるのは俺しかいない」
「確かにそんな性格じゃないとクレアとは付き合えなさそうだな」
「褒めてんのか?」
ベルフの髪が夜風になびいている。
「なぁ、付き合うってどんな感じだ?」
俺は温めていた質問を彼にする。
彼ほど適切な人はいない。
「嫌味か?」
「ちげぇよ。ただ……」
「なるほどな。良い感じの子がいるんだな」
彼のニヤニヤが気に食わない。
「付き合った後、ベルフはクレアのことを好きなようにしてたか?」
彼はお酒を吹き出す。
「どう言う意味だよ」
「言葉の通り。例えば魔法見せてくれって頼んだら見せてくれるのか?」
「はぁ?なんだその質問。気持ちが悪いな」
「そうか?それは置いといて。できるのか?」
彼は飲み終わった瓶を足下にゆっくりと置く。
「もしアルフがそいつを思い通りにさせたいなら___惚れさせるしかないだろうな」
「そうか」
「ただ恋人っていうのはそう言うもんじゃないぞ。助け合うもんだ」
「なおさら都合が良いかもな」
「都合?お前なんか付き合うを勘違いしてないか?」
「勘違いでも構わないさ」
彼は笑いを我慢した口で
「まさか今まで付き合ったことがないのか?」と尋ねてくる。
「悪いか?」
「いや、まぁ、不思議だな。お前ならモテそうなのに」
「無駄なフォローありがとうな」
「嘘じゃねぇよ」
俺はまだ少し残っている瓶を彼に渡す。
彼は一気に飲み干すと
「クレアの方が好きなのか?」と真剣な眼差しで尋ねてくる。
「違うな」
「それは助かったぜ。アルフをここで殺すことになってたからな」
「お前って……重いんだな」
「キングスライム並みには重いかもな」
(微妙な例えだな)
「ま、まじな話。お前ならクレアと付き合っても良いと思うぜ」
「悪いがクレアと付き合おうと考えてない」
「それが正解だ。あれはめんどくさいからな」
彼は俺から貰った瓶をどこか遠くに投げる。
すると遠くからは割れる音だけが聞こえた。
「停学期間終わったのか?」
「ああ。アルフもか?」
「ああ。でも俺は依頼リストで単位を稼ぐことにしたよ。もう今さら授業に出ようと思ってないしな」
「俺も、だ。あいつらの話は長いだけだからな」
「気が合うな」
彼は俺が先ほど見ていた一番輝いている星を見つめながら
「なぁ、誰が好きなんだ?」と話を恋話に戻す。
「
「へぇ。変わった趣味だな」
「クレアを好きなやつが言えないと思うぞ」
「で、何がベースなんだ?」
「フェンリルらしい」
「変わった趣味だな」
彼は面白そうに笑っている。
俺もつられて笑ってしまう。
「先輩として忠告しておく。付き合ったんなら一生をかけてそいつを守れよ」
「酔ってるのか?」
「ああ。自分にな」
ベルフと話していると頭が空っぽでいても心から話せている気がする。
「ま、何かあれば俺がアルフもその恋人も守ってやるよ」
「言ったな」
「ああ。俺は冗談は言うが嘘はつかねぇ主義なんだ」
「懐古主義派のやつらの多くがその主義を採用してる」
「古臭いって言うな」
彼は立ち上がると「お子様は寝る時間だぜ」とだけ言い残して歩いていく。
「おい。ミルクがなくても大丈夫か?」と去り行く彼に聞くと
彼は「ミルクよりも最高なもんがあるから大丈夫だ」と笑いながら去って行ってしまった。
さて、俺も部屋に戻るとしようかな。
ただ後ろにいる奴は潰さないとな。
「……?!」
俺はベンチの後ろにいた一羽の黒い鳥を素早く掴む。
「お前、何者だ。どうして俺らの会話を聞いていた」
羽のあたりに見慣れない紋章がある。
これは魔法で動物を従属させている証拠だ。
「クェ!!」
爆散するように羽が舞い散り、その鳥はピクピクと小さな痙攣を起こしたかと思うと全ての動きを止める。
どうやら殺されたらしい。
そしてそこから誰かが現れる気配もなく、その死骸を取りに来る未来も見えなかった。
「……チキンは好みじゃないのか」
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魔法学院に通う俺は片腕の無能と蔑まれているらしい 酩蘭 紫苑 @meiran_shien
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