第25話 脇役


 僕と彼はその後も図書館で会う約束をした。

彼は僕に勉強を教えてくれる。でも僕は彼に何もできていない。


申し訳なさから僕は彼に何か困っていることはあるか、と尋ねると彼は決まって


「そんなものはない」なんて言う。


困っていることがない人間なんていないと思ってた。いや、彼が嘘をついている可能性がないわけじゃない。でも彼には本当に何も悩ませる問題はなさそうだった。



彼はある時、尋ねてきた。


「家族は好きか」と。


僕は素直に答えた。


「ううん。あまり好きじゃない」って。


すると彼は一瞬だけ悲しそうな目で僕を見た。

僕はそれが辛かった。

でもすぐに顔を切り替えて「そうか。いつか……出会えるはずだ」とだけ呟いた。


何に出会えるのか分からないし、僕には出会えそうにもなかった。


僕はそれに出会う前に死んでしまうだろうから。





そんな彼が今日、姉さんといた。

姉さんは普段着ではないそれを着ていて、彼も見た目が変わっていた。


二人を見た瞬間、胸がきつくなった。

「ああ、きっと羨ましいんだ」って自分でも思った。好きな二人が楽しそうに過ごしていたから。


僕は傍観者で、もうすぐ消えて、二人を最後まで見れない。そんな悲しいところにいるんだ。


でも嬉しかった。

姉さんは楽しそうだったし。

二人は付き合ってるのかな。


僕は姉さんと二人で帰っている途中に聞いたんだ。「先輩と付き合ってるの?」って。


そしたら姉さんは「どうだろうね」と恥ずかしそうに笑いながら答えた。


僕は不思議な生き物だと思う。

それを見て嬉しさと悲しさがやってきたのだから。


姉さん、あんな服持ってんだ。

姉さん、あんな顔するんだ。


僕は全然知らないみたいだった。


「どうしたの?口元に何かつけてるけど」


僕は急いで近くのトイレに駆け込んだ。

口元を見ると赤いものがついていた。


完璧に落とし忘れたんだ。

今朝、また吐いたから。


「ちょっと!?どうしたの?!」

「ううん。ちょっとお腹痛くなっただけだよ」


僕は血を人差し指で拭って水に流す。


「長くなりそう?それなら先に帰ってるけど……」

「うん。長くなるからお願い」

「気をつけて帰ってね」

「はーい」


僕はしばらくの間、トイレから動けなかった。

体も心も今日は疲れたみたいだ。


もし、神様が僕を見ているなら。

お願いです。


僕を________。


涙がポロポロとこぼれ出した。

僕は自分が分かってる。


いや、姉さんを幸せにしてください______


僕は僕の人生を生きるよ。

たとえ脇役でもなんでも良い。

好きなものが、好きでいられるのなら。













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