第2話 キツネ、王女誘拐犯になる

「つっても、別に魔法を見たわけじゃないんだよなぁ…便利な術ってわけでもないみたいだし」


 俺たちの世界で言う拳銃みたいな…俗にいう物騒なものに分類されるらしい魔法は、それこそ有事の際にしか拝めないのだろう。

 いや、訓練とかもあるか?


「んなことより元の世界に帰る方法を探さねぇと」


 並行してカゲも探さないといけない。一緒に扉を通ったんだ、この世界にきている可能性は高い。

 そういえば、邪馬の盾はどこにいったんだろう。思い返すと、この世界に来たその瞬間にはもう俺の手から離れていた気がする。


「あぁいたいたスード」


 邪馬の盾…あの逸話からして無関係とは思えないんだよなぁ。第一目標だなこりゃあ。


「スード?聞いてるのか?」


「スード・エナメル‼」


「ッ⁈」


 背後からの大声に肩を震わせて振り返ると、額に青筋を浮かべた綺麗な衛兵さんが立っていた。

 うん、怒ってるのは確定だな。この男の名前、スードっていうんだな。


「上司を無視するとはいい度胸じゃないか。貴様、懲罰を受けたいのか?」


「滅相もございません!少々、考え事をしていたものでっ!」


「私情は後にしろ。今は式典の成功だけを考えていればいいのだ」


「ハッ!」


「分かったならいい。それで、コレが貴様の持ち場だ。確認しておけ」


 そう言って渡された用紙には式典におけるそれぞれの持ち場が記されていた。なるほど、俺は城下町凱旋の歩道警備か。

 まぁやる気はないからどうでもいいが、警備の詳細を知れたのは大きい。


「最近は北の勢力がきな臭い。抜かるなよ」


「……はい」


 やけに話すな。

 コイツはただの見張りのはずだ。念には念を…ということか?


 去っていく上官様の背中を見送ると、上の階へ繋がる階段を見つめる。

 この姿なら動き回っても違和感はないだろうが、今は緊張感が違う。好き勝手に動くのはよしたほうがいいだろう。

 が、石板の行方は気になる。


「宝物庫はこの先か」


 二階の最奥。

 そこに宝物庫がある。なんでも王都に捧げられた貴重品を保管している部屋らしいが、そこまでの値打ち品はないとの話だ。

 もしかすると石板があるかも…なんて淡い期待を抱いたりもしたのだが、まぁ予想通りだった。


「ないよなぁ」


 漁ってみたがそれらしきものは見当たらない。それに言われていた通り、あるのは趣味の悪い壺や絵画だったり…高価ではあるんだろうが欲しいとは思えないものばかりだ。


「仕方ない。見つかる前に退却するか……うん?」


 部屋を出ようとした時、一枚の絵画が目に入った。

 女性の肖像画だ。どこかで見たことがあるような女性がそこに描かれていた。


「どこで?」


 ここは俺の元居た世界とは違う。

 そんな世界で見つけた絵画に見覚えのある女性が描かれている?そんなことがあるだろうか。

 もしかするとこの王城内ですれ違った女性の中に似ている顔があったのかもしれないが、だとしてもどうして絵になっているのか。


「っ!」


 色々と思案していると、近づいてくる足音に気づいた。部屋から出ると気づかれてしまう、咄嗟に宝物の山に隠れるとその数秒後に二人の衛兵が入室してきた。


「この中から探すのか?」


「探すって言うか…ほら、アレだよ」


 衛兵の一人が指さしたのは天井近くの棚に置かれた水晶だった。梯子を使ってその水晶を取り出すと、衛兵は二人してため息をついた。


「しかしパンドラ様もお気の毒に…聖導院から戻ってきた頃には抜け殻だぞ」


「言うな。それがこの国の王女の宿命というものだ」


 抜け殻?

 そもそも聖導院ってのはどういう場所だ?修道院みたいなものか、人によってはかなりキツイと聞くが…。


「でも本当なのか?魔人って」


「事実、だそうだ。俺も詳しくは知らないが」


「ひぃおっかねぇ…!でも勿体ねぇよなぁ、あんな将来有望を」


「しゃべりすぎだぞ。聞かれたらどうする」


「俺たち以外に誰がいるんだよ!」


 衛兵が出ていったのを確認すると、例の水晶があった棚を調べてみる。

 他の物は埃を被っているのに、ここだけ嫌に綺麗だった。さっきの水晶を取ったときに埃を払ったにしてもだ。


「魔人…魔法があるならいてもおかしくはねぇか?」


 話の内容を繋げると、王女様であるパンドラは魔人の生贄にでもされるということだろう。そしてその儀式場が聖導院であると…どう考えてもプラスな話じゃない。

 なのにこの盛り上がり用ってことは表には事情を知らせていないってわけか。


 さっきの衛兵二人もあの美人上官と同じ腕章を付けていたから立場は上のはず…一般に知らされていない事情を知っていても不思議はない。


 ともあれ、少し興味が湧いてきた。

 遠巻きに見物する予定だったが、直接会ってみるのも悪くないかもしれないな…パンドラ王女に。


 王女の部屋を探すのに手間はかからなかった。

 あとは折を見て侵入するんだけど、今はマズいかな。待女たちが忙しなく出入りしている。その内の一人に変装しても思うように接触を測れないだろう。

 だが焦る必要はない。式典の1時間前には王女一人になる…そこがチャンスだ。


「さぁて、ご対面だ」


 王女が一人になるタイミング…俺は衛兵の姿のまま、部屋の扉を開け放った。





「うん?」


「衛兵さん⁉た、たす……!」


 黒ずくめの人物が、王女様らしき少女をかついで窓から身を乗り出している場面だった。

 明らかに誘拐現場だ。


 部屋に入ってきた俺を見た少女が「助かった!」という表情を見せたのはほんの一瞬…すぐに絶望の顔色へと変わっていった。


 黒ずくめは俺を一瞥すると、すぐに窓から飛び降りていった。

 すぐに後を追って窓の外を確認すると、奴が遠くに確認できた。もうあんなに遠くに…あれが魔法ってか?


「動くなッ!」


「……あ」


 気づけば、部屋の扉を塞ぐように衛兵たちが剣を構えていた。その先頭に立っていたのはさっきの美人上官だ。


「貴様がスードではないことは分かっている。侵入者!」


「アレ、もうバレちゃった?」


「妙な皮を被せての目くらまし…それに貴様が被っている皮。一体何者だ⁉」


「何者かって…ただの通りすがりなんだけど。それよりいいのか?王女様、連れていかれちゃったけど」


 今は俺のことよりそっちのほうが大ごとだろうと、開いたままの窓を指差す。


「ふん、すでに手は回してある。仲間の心配より自分のことを気にするんだな!」


「仲間ぁ?…あ、待て待て!俺は王女様誘拐とは無関係だって!」


 どうやら衛兵たちは俺が誘拐犯の一員だと思っているらしい。まぁ状況だけ見たらそうなるだろうが、普通に冤罪だ。俺の罪状は不法侵入だけで、やってもいないことで罰せられるのは御免だ。


「そんな虚言が通じると思っているのか!さぁ、正体を明かしてもらうぞ賊め!」


「あぁもう!分からないなコイツら!……仕方ないか」


 懐からキツネの面を取り出すと、顔の前に掲げる。


「無駄な抵抗は」


「この程度で俺を捕らえられるとでも?」


 面を付けると同時に変装を解いて、『キツネ』としての正装を見せる。

 

「くっ、囲え!生け捕りは考えなくていいッ!」


 窓の外を見ると、下にも衛兵が集まってきている。あくまでも逃がさないってことか……好都合だ。


「じゃあな美人な衛兵さん!」


「馬鹿め!下には部下が」


「ハハッ…!」


 窓から飛び降りて、下に落下していく。その最中、スーツのポケットからビー玉サイズの煙幕弾を取り出し、地面に叩きつける。


 着地した時にはすでに辺りは煙幕…この中でさっきまで来ていた衛兵の制服に着替えて幕が晴れるのを待つ。すると……。


「っ、何処に消えた!」


「まだ遠くへは行っていないはず…探せ!」


 近くの衛兵が消えた賊の行方を追って散っていく。俺もそれに混じってその場を後に……。


「おい貴様」


「…なんでしょうか上官」


「下手な芝居はよせ。私の部下に貴様のようなヤツはいない」


 マジか。部下の顔全員覚えてんのかよ、ちくしょう元の世界にもいたっけなそういう部下想いな奴。

 窓から飛び降りてきたのか、いつの間にか至近距離で切っ先を突き付けられた状態で凄まれる。


「御見それしたよ上官さん。お名前をうかがっても?」


「賊に名乗る名はない。ふんっ!」


 突き出された切っ先を避けて距離を取る。


「その身のこなし…只者じゃないのは分かった。コチラも全力を出そう」


「ッ⁉」


 剣を構え、ジッとコチラを見据える上官様。


 何か来る。


 地面を蹴りながらビー玉煙幕を取り出す。


「失せろ」


 振り上げた剣が振り下ろされた。





「逃がしたか」


 土煙が晴れ、剣を鞘に戻したリーンは舌をうつ。


「リーン隊長!」


 駆け寄ってきたのはパンドラ王女奪還に向かわせた部下の内の一人だった。だがその表情から、結果が芳しくないと理解する。


「申し訳ございません!王女を攫った賊を取り逃がしましたッ!」


「分かった。…そう怯えるな、我々も賊の一味を逃がしている」


 そのリーンの言葉に、青かった部下の顔色が幾分かよくなった。

 今、自分たちを処断すると王都の兵団は回らなくなる。無論、何らかの処分は下るだろうが、それは先の話だ。逆に言うと、挽回できなければ皆纏めて打ち首すらあり得るのだが…。


「すぐに網を張れ、決してこの城下町から出すな」


 報告によると王女誘拐の実行犯は人体強化系の魔法を使う。空を飛んだり姿を消したりでないのならコレで閉じ込められるだろう。

 問題はさっき取り逃がした可笑しな面の男だ。奴は魔法を使わなかった…一般人モブだったのか使う場面がなかったのか…どちらにせよ油断ならない。

 いともたやすく包囲網を脱し、この国を出ていくような気さえする。のだが同時に、このまま姿を消す男とも思えなかった。


「リーン隊長。国王代理がお呼びです」


「分かった。すぐ行く」


 だが今はコッチだ。

 賊確保のために動ける人員と時間を確保する…そのためにあの嫌味な国王代理との口喧嘩に勝たなくてはならないのだ。

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闇社会のキツネ、異世界の暗部を満喫する 濵 嘉秋 @sawage014869

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