運命に抗え
めそぽた瑛琉
『Unknown』とある凡人の話
中学の頃の話。
『なあなあ、俺たち神じゃね?』
『それな!!アカデミー賞取れるわ、いや宇宙行けるわコレ』
『まじかwww』
『じゃあ、大人になったら俺らで
『おk、男に二言はないんだからな!!』
『『約束な!』』
きっかけは、そんな会話だった。
二人で、クリエイターになると、そう、誓った。
でも、お前は先へ行ってしまった。
おたがい、社会人になって。
『そういや、お前どんな感じ?上手く行ってる?俺、ネットにあげたのがちょっとバズった!』
__ううん、まだまだかな。まずは知名度のために、俺も頑張らないとな。
それから半年。
『俺さ、新人賞と特別賞同時受賞だって!10年ぶりの快挙らしい!あと、授賞式でめちゃ有名な人に褒められた!!まじえぐい!!』
__そりゃおめでとう。俺も嬉しいよ。親友として。でも、俺はまだバズれてすらないんだ。
また、半年。
『あれ?お前まだ連載持ってなかったっけ?』
__お前が連載してる間に、俺はまだ賞すら取れていないよ。
一月後。
『聞けマイフレンド!!初めてのファンレターが来たんだ!「絵柄が好きです。ずっと応援してます!」だってさ!』
__そうか、俺も嬉しいよ。でも、そんなお前の友人が
1年後。
『アニメ化した!俺の作品見てくれよな!いい声優さんもいる!!』
__俺はアニメ見る暇なく漫画描いてるってのに。やっぱりお前は、俺なんかと違って凄いよな。あ、そうだ。俺もやっと連載取れたよ。
2年後。
『映画化と劇場化!!同時!!まじでやばい!!!』
__幸せそうでなにより。でも、俺は本当にお前の隣に立っていいのか?
**
幸せな報告をしてくる度、お前はどんどん笑顔になっていって。
怖かった。
そして、嫌だった。
俺の方がすごいのに、本気を出せばもっと売れる、そんな思いが肥大化していって、いつしか俺は漫画が書けなくなっていた。
いつかの俺達の夢見た世界__『二人で最高の作品を作る』ことはできそうになかった。
**
『先輩、また酷い顔してますよ。
また
せっかく昨日あんなに寝るよう言ったのに?なんで??
今月はまだ始まったばかりですよ。なのにもう10日は見ましたよ、先輩のその表情』
後輩が言った。
『俺は漫画を描かなきゃいけないんだ、あいつに追いつくために。』
『先輩、一回漫画は諦めて、ちゃんと生活しましょう。
3食食べてます?
僕は心配なんですよ。
あなたに漫画を描いて欲しいんだ。
このままだと、漫画を描く前に死にますよ、先ぱ__』
『やめてくれ、気をつけるから。頼むから君は君の作業をしてくれよ。君の方が、俺より才能あるんだから』
『言いましたよ…僕は言いましたから。』
この後輩は、何もわかっていない。今の俺が生きている理由。それはひとえに、あいつを、あいつとの夢を叶えたいと云う執念なのだ。漫画を諦めると云うことは、俺の死を意味する。
俺は、あいつの隣に立つために、もっと、もっと、もっと描き続けなきゃいけないんだ。
**
はあ、もうこの出版社で持ち込みは10社目だ。
また落ちた。
俺のこれまでって、なんだったんだろう。
学校を留年したことも無かった。
まあまあ器用な自覚はある。
模試の全国ランキング。
お前は、あの後の模試から、お前なりに成績を伸ばしたよな。
中学のときの生徒会の立候補。
お前のほうが投票数が少なくて。
結果発表の時。
お前は俺に、『今度は勝つ!イキんなよ
お前は強いよ、本当に。
||全部。
だが、俺が1番勝ちたかったのは、『漫画』だったんだ。
全部を突き抜けることができない
不器用、だけど一つを極めたお前とじゃ、天と地の差がある。
そうだろ?カミサマ。
なんで俺には才能をくれなかったんだよ。
そう思った俺は、初給料で買った液晶タブレットを、乱雑に押入れの奥に投げ捨てた。
**
もう35歳だ。狂ったように昼夜漫画描いていた20代の頃が懐かしくなってくる。
漫画なんてものをなぜ俺が描いていたかは、もう思い出せない。
毎日上司に頭を下げて、俺を舐めてる後輩にイライラして、そんな1日を送っている。
不満はない。
ただ、何か足りない。
何か足りないんだ。
ふと、駅に向かう足が止まる。
アイドルの早朝ライブのようだ。
出勤まで時間はある。
少し聞いてみるか。
「〜♩〜♬」
ふーん、なかなかいい声。
そんなことを思っていると、ふと視線を感じて顔を上げる。
「そこのお兄さーん!!おはようございまーす!!暗い顔してるね!ウチのライブはホントの笑顔以外禁止!貼り付けた笑顔は可愛くないの!!!わかった??」
お兄さんなんて歳じゃないんだよな、俺。でも、ちょっと元気出たかも。口角がフッと軽くなる。
「サンキュー、ちょっと元気出た」
彼女自身は、なんのために__。
いや、こんなことを考えるのは不毛だ。
そうこうしているうちに、会社の最寄り駅に着いてしまった。
今日はいつもよりミスが少なかった。
**
最近の俺は、もっぱらアイドルに専念している。
あの子__ルカちゃんの虜である。
ついに俺も、ドルヲタになってしまった。
して、同僚から言われた『雰囲気良くなった』というのも、きっとルカちゃんのおかげだろう。
**
**
あの日__初めてライブを見た日から、半年が経ったその月曜日。
__
その日、彼女が言ったのは。
『本当にやりたいこと。
それは、「
そして、これまでのアイドル活動は下積みだったこと。
アイドルと兼業して、配信もやっていた。
そして、一週間前。声優として応募していた企業のコンテストに受かった。
これまでの活動は無駄じゃなかった。
ファンのみんな、ありがとう。
みんな、ウチがいなくても大丈夫だからね!
これまで、本当に、ありがとうございました』
こんな内容だった。
**
彼女自身は夢である__『声優』になると決めた。
対して、俺は?
一度選んだ漫画の道を諦めた。
でも、彼女も同じだ。
思えば、俺があの子を推し始めたのは、彼女が一度『声優になる夢を諦めたアイドル』だと知ってからだった。
俺はあの子ほど強くない。
でも、もう一度ぐらいやってみてもいいんじゃないか。
その日の夜、俺はかつての後輩__今はアニメ化した有名漫画家である『
彼が言うのは、
・今から漫画家は厳しい
・連載をとれたとしても売れるかはわからない
・ブランクはかなり重いこと
だの、俺が分かりきったことばかりだった。
『先輩は、どんな漫画を描くんですか』
一分ほどたっぷり間を開けて、俺は答える。
『一回夢を諦めたおっさんが、もう一回夢を追い始める話、かな』
榛がクスッと笑う。
『先輩のまんまじゃん、いいんじゃないですか。僕、編集さんに先輩を紹介しましょうか』
使えるものは、全部使う。
押入れの中に突っ込んであった液晶タブレットとマウスを引っ張り出す。
充電している間は、漫画の感覚を戻すために白い紙に背景とキャラクターを書いてみる。
年単位で書いていなかったのにわりと書ける、そう思った俺が書いていたのは、ルカちゃんだった。
後輩とカメラ通話しているのも忘れて書いてしまった。
『先輩、月末の土曜日朝九時、僕が連載持ってる「羽川出版」にネーム持ってきてください。話は僕の担当をしてくださってる中神さんに通しておきます。』
『え、お前そんな、いいの?俺なんかのために、そんな、』
『使えるものは、全部使うんでしょ、先輩。これでも僕、羽川の代表作家なんですよ?』
顔が熱くなる。声に出ていたとは、社会人失格だ。
よし、幸い俺の会社はかなりホワイトだ。
今週は飲み会も全部キャンセルして定時帰宅せねば。
**
もう週末だ。
この一ヶ月俺なりにいい作品が描けたと思う。
明日の朝、俺の人生が決まるんだ。
**
スーツを着て、ワックスをつけて、羽川出版に行く。名刺もネームもバッチリ準備したし、できることはこの一ヶ月でやりきった。
久しぶりに思い出した。
『お前』こと『正体不明の有名漫画家・
俺の親友であった、俺の
お前が兎なら、俺は亀。
でも、
いつのまにか、羽川出版の前に着いていた。
実は、この羽川出版、俺が初めて漫画を持ち込んだ出版社でもある。
さっきから手汗が止まらない。
持ってきたハンカチで汗を拭う。
今の俺はきっと汗ばんだ怪しいおじさんに見えることだろう。
意を決して足を踏み出す。
顔にひんやりとしたエアコンの空気が吹き付ける。
えっと、榛が言うには6Fだったはず。
エントランスを通り抜け、エレベーターに向かう。
足がずんと重くなる。まるで鉛でもついているかのようだった。
「先輩、少しはマシになってますね。僕は安心しましたよ。髪ボサボサで来ると思ってたのに」
そんなとき、背後から軽薄な声が聞こえてきて、思わず振り返る。
「うるせぇよ、後輩。俺はずっと変わってねぇっつーの。」
社会人になってからは長らくご無沙汰していたこの言葉遣いすら懐かしい。
「俺は少年心を忘れない男だからね」
こんな掛け合いを誰かとするのも、親友と疎遠になってからかもしれない。
もしかしなくても、俺ってボッチだった…。
「僕の顔に泥を塗ったら怒りますよ、まあ先輩に関してその心配は無用だと思いますがね。…頑張ってくださいよ」
「……ああ、やれるだけのことはやったからな。まあ、頑張るさ。」
ちょうどエレベーターが着いたみたいだ。
__ついに、始まる。
**
どうやら、俺の力作は編集さんのお眼鏡に適ったようだ。
自分の作品を編集さんに、それもプロの人に。
『すごくいいですね、これは連載用に取っておいて、読み切りで賞とってこれを連載しましょうか』
『!!はい、ありがとうございます!』
中神さんが俺の顔を見て納得したような表情で言った。
『彼__
私も、この作品には正直驚きました。数年間のブランクがあったにしても、かなりのクオリティですよ、これ。作品の趣旨も羽川の方針に合っています』
**
そんなやりとりをしてから、一週間。
今俺は、本業と兼業で漫画のコンテスト応募用の執筆をしている。
いうなれば、漫画家もどき、漫画家の卵、ではあるが。
応募する漫画の主人公は、アイドル志望の女の子。
幼馴染の女の子と二人でアイドルを目指していたが、主人公はオーディションに落ち、もう一人は受かってしまう。
そこからの友情のあり方や、主人公の在り方を描いた作品になった。
そして最後は、二人の夢だった『二人でドーム公演』を実現させる__
ちなみに読み切りなので、ハッピーエンドはマストだ。
ちなみに編集さんに出したものも、『才能がなかった魔法使いが努力で成り上がる』みたいな話なので、つくづく自分の諦めの悪さに呆れる。
そういえば、来週の『月刊羽川』で結果発表だったな。
連載できるレベルだといいなあ。
**
一週間後〜
ついに、その刻が来てしまった。
今は、
最近俺は後輩に頼りっぱなしだな。今度会う時は菓子折りでも渡さねば。
そんなこんなで家に着いてしまった。
マイホームである1LDKに書斎の机やら食卓は無いので、愛用のソファに体を預ける。
覚悟を決めるために、後輩とカウントダウンだ。
「『3、2、1、』」
あらかじめ指を挟んでおいたページを勢いよく開く。
そこには__
**
『ありました!!先輩!!やりましたね!!僕、信じてましたよ!!!応援して、よがった、、』
「ああああああ、、、、あるっ!!!!俺の、俺の漫画が乗ってる!!まじで??俺明日死ぬかもしれないよ、後輩、幻覚じゃ無いよな?これ、、え、俺酒飲んで無いし、ホント…?ピギャアアアアア」
二人の声はほぼ同時だった。
そして、泣き出すのも同時だった。
して、この男はいずれ、
**
『今回、
第76回羽川青年漫画賞大賞受賞者である、原点先生、今1番伝えたい言葉、今すぐ会いに行きたい人はいますか?』
若干スーツに着られている感のある男に、司会がマイクを手渡す。
「あ、ありがとうございます。尋那先生、桐ヶ谷先生、ルカ__今は声優のカナタさん。この人達の影響がなければ、僕は今も会社勤めの冴えないリーマンだったと思います。僕の作品を支えてくださったファンの方々、関係者の皆様には感謝してもしきれません。
完結まで付き合ってくださり、本当に、ありがとうございました!」
####
あとがき
拙い文章ですが、実はこの作品は自己投影して描いています。
これ以上語ることはできませんが、読んでくださり本当にありがとうございました!
感想や評価をもらえると躍り狂います。
https://kakuyomu.jp/users/airisu_eiru/news/16818792435712490623
運命に抗え めそぽた瑛琉 @airisu_eiru
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