アチーブメント
酒月うゐすきぃ
アチーブメント
「博士、やりましたね!」
かなり小規模な研究所の一室で、若い研究員風の男は興奮気味に喜びを露にした。
「ああ、これも君が協力してくれたお陰だよ」
そう答えたのは、長年この研究に心血を注いできた、同じく研究員風の白い口髭を蓄えた男である。
この2人が時間をかけて成し遂げたのは『人類が達成した実績を閲覧する』という技術だった。
複雑なプログラムを何層も積み重ねてようやく完成したソレは、手元の端末で簡単に確認できるようになっていた。
「早速、見てみましょう!」
「そうだな」
はやる気持ちを抑えて、年配の男はプログラムを起動した。
🏆蒸気機関を発明
🏆有人飛行を達成
🏆産業に電力エネルギーを使用
「人類による輝かしい進歩の歴史だ」
「こうして見ると、随分と色々な発明をしてきたんですね」
2人は続けて、人類史の実績を確認する。
🏆100万種類の動物を発見
🏆水深1万mに到達
🏆高度1万mに到達
「発見や到達系は、言われてみないと気づかないものも結構ありますね」
「この情報を使って、新たな発見や研究もできるかもしれん。見てみたまえ。『🏆呼吸による酸素使用量が1兆ℓを超える』これも、人口や平均寿命と照らし合わせれば、健康状態や運動量の推移を算出できそうだ」
「我々の発明も、未来のために有効活用できるってことですね!しかし、すでにこれだけの実績を達成しているとなると、未達成の物はもうほとんど残っていないのでは......」
どこか寂し気に呟く研究員を見て、年輩の男は叱責ともとれる語気で返す。
「そんなはずはない!我々がまだ見つけていない技術やエネルギー、到達していないものは数知れずあるはずだ。この発明は、それらの片鱗を知るきっかけにもなるだろう。そら、まだまだ見ていない達成済みの実績がこんなに残っているじゃないか。ヒントを探すつもりで、しっかり吟味させてもらおう」
「おっしゃる通りですね!」
2人はさらに、実績を読み進めた。
と、若い研究員が突然大声を上げる。
「博士、これを見てください!『🏆ナビエ–ストークス方程式を完全に証明する』これはまだ、解かれていないはずの未解決問題ですよ!?」
「まさか......世界のどこかで誰かが証明完了したばかりで、発表の準備段階なのかもしれん。そうか、この発明はまだ公表されていない最新の発見や秘匿されている技術についても、知ることができるようだ......ん?」
博士の顔色が変わる。
🏆エニオットエネルギーを利用した兵器を発明
博士の指さした実績を見て、若い研究員はけげんな顔をした。
「エニ......オットですか?聞いたことがありませんね。心当たりがあるんですか?」
「いや、私も初耳だよ。だからこそ、恐怖しているんだ。これは、今までにない新しい技術によるものだろう。威力や被害を想像することもできない。一体、どの国がそんなものを作ったんだ!?」
2人は半ば強迫的に、その先の実績を求めた。
しかしそこには、さらに驚愕する情報が数知れず載っていた。
🏆異星人と接触する
🏆異星人と貿易を行う
「こんな......ことが?秘密裏に、宇宙人の技術を享受している国があるのか!?だとするとさっきのエニオットエネルギーも、他の星の技術なのかもしれん。これは、急いで政府に掛け合う必要がありそうだ」
「待ってください、博士!これを」
🏆異星人との戦争に勝利
🏆他の惑星への移住に成功
「これだけのことを、世間に知られずに成し遂げるのは不可能です。もしかすると、我々の発明品が故障したか、あるいは失敗だったのでしょうか......?」
「いや......。これはあくまでも仮説だが、もしかするとこれは過去に"別の人類"が達成した実績なのかもしれん。我々は自分たちが最初の人類だと思い込んでいるが、そうではなかった。実際は別の星で生まれ、栄枯盛衰の果てに一度滅亡してしまった。そして長い時間をかけて、もう一度文明をここまで発展させたのではないだろうか?」
「さすがに、そんなことにわかには信じられませんよ」
「しかし、この先の実績も見てみたまえ。我々のあずかり知らぬ技術や実績が、数多く記載されている。こうしてみると、人類が滅亡したのは、一度だけとは限らないかもしれん。もしかすると我々は100回目や1000回目、あるいは1万回目の人類であっても、不思議ではない」
博士がそうつぶやいたまさにその瞬間、発明品の末尾に新しい実績が追加された。
🏆人類が999回滅亡していることに気付く
アチーブメント 酒月うゐすきぃ @sakazukiwhisky
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます