第20話 水谷由佳
――1週間後、西山家、朝。
「お兄ちゃん、桜さん、おはよう!」
蘭がドアを開けて、いつものように僕を起こしに来た。
「おはよう、蘭ちゃん」
すぐさま、桜が挨拶を返す。
チュンチュン……。
窓のカーテン越しに小鳥の囀りが聞こえてきた。暖かな朝日が、隙間から差し込んでいる。
……あー……朝か……。
「おはよう、良い朝ね」
桜がきびきび言ってくる
……あーあ、良く寝た……。
ゆっくり目を開けて、カーテン越しの朝日を見つめる。
まったく、良い朝だなぁ……。
「祐輔、ポケッとしてないで早く着替えて学校よ」
「わかってるよ、うるさいな」
僕は着替え始める。
そしていつものように下に行くと、蘭が食卓に座っていた。
テーブルには、ポーチドエッグとアボガドが上に乗ったトーストが置いてある。
「今日はこれ、作ったの?」
僕は指さして尋ねた。
「うん、そだよっ」
蘭がニコニコして答えると、桜を見た。
「おとつい一緒に作ったんだもんねー」
「おいしそー、私も食べたいわー」
桜が残念そうに言う。
そういや、夕方に何かやってたな。 奴と蘭が料理本見ながら仲良くやってたから、僕はずっとスマホで動画を見ていた時だ。
……桜が来てからもう10日くらいか……なんかもう仲良しだな、こいつらも……。
僕は左手の目と口を見つめる。
「お兄ちゃんに食べてほしくてっ。ねっ食べて食べてっ」
蘭が僕をキラキラした目で見てきた。
「ああ、そう……」
僕はトーストをかじる。
「……まずくはないよ」
「ははは、ちょっと何それー。聞いた? 蘭ちゃーん」
桜が笑った。
「お兄ちゃん、ひどーい」
「……嘘だよ、すっごくおいしいよ」
それから僕はいつものようにリモコンを手に取り、リビングのテレビをつける。
「1週間前、五重県桜坂市に出没した翼を持った怪人は、全力を挙げて捜査をしているものの、いまも行方が分からず、災特課が昨日一連の不備を謝罪しました。翼を持った怪人は、子供一人を含む6人の命を奪い……」
アナウンサーが、ニュースを読み上げていた。
……すごい勘違いされてちゃったな、飯島さん……。
とスマホが鳴る。
「……あ、マスターからだ」
「初仕事ね、何を調べろって言ってるのよ」
桜の目が右手に移動して、スマホを覗き込んできた。
「……県大会で妙な記録を出している高校生がいるらしい、それを調べて来いってさ」
「お兄ちゃん、また戦ってくるの?」
と蘭が僕を覗き込む。
あの時、怪我してきたのが相当ショックだったみたいだ。
「ああ。でも大丈夫だよ、新人には危険なものは割り当てないってさ」
言いながら、トーストをかじる。
「うん……」
蘭が俯いた。
……僕は捜査員を続ける事にした。千代島さんの穴が開いたからだ。
ちゃんと埋めたいと思った。
それにスカレミトスレカコ、と言われる怪人たちにも良い奴悪い奴がいる事を知った。
僕は……大層な事だけど、これを何とかしたい。
人間と怪人の、今みたいな敵対関係を失くしたい。
……なんか、そんな風に思ってしまった……。
「蘭ちゃん、私がついてるんだから安心してよっ」
「……うん、よろしくね桜さんっ」
桜が得意げに言ってる中、僕はスマホをポケットにしまう。
「続いてのニュースです、行方不明になった水谷由佳さん17歳が、2年ぶりに両親の元へ帰ることができました」
アナウンサーが次のニュースを読み上げた。
僕はトーストをかじろうとして、止まってしまう。テレビに目が釘付けになってしまった。
ん!? この人って……!?
「ああああっ祐輔!? テレビ見てっ! この人って千代島さんよ!」
桜が声を上げる。
僕らはテレビにくぎ付けになった。
テレビ画面には、『水谷由佳さん、2年ぶりに両親の元へ』とテロップが書かれている。
「水谷さんは2年前、両親との不仲から家出をした後、行方が分からなくなりました。この2年間は五重県桜坂市に、記憶喪失の女子高生として暮らしていたそうです。それが1週間前、奇跡的に記憶がよみがえり、昨夜、両親と対面しました」
テレビ画面には、満面の笑みで笑う彼女の顔が映し出されていた。
僕が好きになったあの笑顔だ。
……両親と抱き合っている……友達もいっぱい囲まれて、お帰りと言っている。
きっと、ずっとこの娘は、この笑顔で生き続けるだろう……。
「あー良かったわっ」
桜が微笑む。
僕も思わず笑みがこぼれた。
……今度、この事をお墓に報告しに行こう……きっと千代島さん、喜んでくれるだろう。
僕は、蘭の作ったトーストにかぶりついた。
スカレミトスレカコ ミーナ @akasawaon
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