最終話「ここからはじまるラブコメディ」

 あれから、2度目の春。

 リュシアと、ティアナと一緒に地球へ戻ったあの日。

 滑走路に降り立ち、クラスメイトに囲まれたあの日は、すぐに世界中で話題になる。

 だけど、あの出来事は、それだけでは終わらなかった。

 俺たちの決断は、後に“最初の”帰還と言われるようになる。

 地球での生活で、新たな“心”を知ったセレーネ人留学生たちが、後を追うように、次々と地球への帰還を遂げたのだ。

 リュシアたちセレーネ人が求めたのは、俺たちと“共に生きる”という未来。

 セレーネの技術は、地球にとって必要だった。

 けれど同時に、セレーネのAIは、このまま地球人が技術を得れば、火星と同じ“滅亡”という結末を迎えると回答する。

 そして、エリオを筆頭とした地球保全機構アルケイオンは、地球を正しく“導く”ことを主張した。


 宇宙にたった一つ、同じ祖先を持つ人類が、未来を、希望を繋ぐために、出した答え。

 それが、太平洋のど真ん中の租借区域。


――通称『セレーネ・バンド』だった。


 すべての地球人類から最も遠い場所、ポイント・ネモに作り出された人工島。

 人と人が、違いを理解し合うための場所。

 リュシアとティアナは、そこへ移住することになった。

 物理的な距離で言えば、上空に浮かんでいた中継船よりも、はるか遠くに引き離されたことになる。

 逢いたいと思っても、すぐに逢える距離じゃなくなってしまった。

 でも、不思議と不安はない。


 なぜなら――


“この想いはきっと、また未来でつながる”


 そんな予感だけは、いつまでも消えずに、ちゃんと胸にあったから。


 ◇


 そして、今日、4月1日。


 シャトルが、静かにランディングする。

 真っ青な空に、白いドームが浮かぶ。

 ガラスと金属の街並み、人工の湖、緑地に囲まれた大学キャンパス。

 ここが、俺たちの次の舞台。

 俺とケンゴは、セレーネ大学への“留学生”第一号として、ついにバンドに立つことができたのだ。


「なぁユウリ、緊張してるか?」


「まぁ、な」


「ちゃんとセレーネ語マスターしたか?」


「は? 日本語通じるって話だったろ」


「おれは練習してきたぜ! ワレワレハ、チキュウジンダ!」


 喉をポコポコと手刀でたたきながら、アロハシャツ姿のケンゴが、またバカなことをやっている。

 おかげでほどよく緊張も解け、入国の審査も無事終えた。

 ゲートをくぐった瞬間、聞き覚えのある声が飛びだした。


「ケンゴーっ!」


 突風みたいに駆けてきたティアナが、迷いもなくケンゴの胸に飛び込む。

 少し身長も伸び、大人びた彼女を受け止めて、ケンゴは笑った。


「ちょ、ティアナちゃん!」


「バカケンゴ! 迎えに来てあげたんだから! お礼くらいいいなさいよね☆」


「おっす! あざーすッ!」


 再会のキスに、周囲の学生たちがちょっと引いてるのもお構いなし。

 こっちまで顔がゆるみそうになった。

 そして――俺は視線をその向こうへ向ける。


 銀色で、貴金属のような光沢がある長い髪。

 白磁のようになめらかで白い肌。

 そして、澄み切った青空に、ライラックの花が咲いている瞳。

 視線が合った瞬間、胸の奥が、音を立てて飛び跳ねた。


「……リュシア」


 声にならないくらい、懐かしくて。

 名前を呼ぶだけで、喉が熱くなる。


 テレビ電話で顔は見ていたが、やはり実際にその姿を見ると、月の光をそのまま人の形にしたようだと思った。


「……おかえりなさい、ユウリさん」


 かわらない笑顔。

 かわらない涼やかな声。


「……ただいま、リュシア」


 手を伸ばせば、すぐそこに。

 ずっと遠くに思えていた未来が、俺の胸の中に駆け寄った。

 この数年、離れていた日々も、すべてが今ここに繋がっている。


 ここは地球にある、セレーネの土地。

 だけど、地球でも、セレーネでもない、新しい世界だ。

 20万年の時を超えて、今ひとつになろうとしている、人類の物語。

 ともに未来へ、いつまでも一つになって笑い合える、そんな日常。


 それは、ここからはじまる、ラブコメディ。


――了

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【完結】タイムリミットまであと1年!宇宙から来た銀髪少女と俺の、ラブコメ・クロニクル 犬河内ねむ(旧:寝る犬) @neru-inu

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