国王陛下は人形を愛する
@komugiinu
第1話
“大好きな鹿狩りで思わず深追いしすぎた”
そう気づいた時には遅かった
国王は深い谷底へと落ちて行った。
重傷を負った国王は
そこに住む魔女に救われた。
魔女は優しく美しかった
彼女の隠れ家で世話になるうちに
やがて彼は魔女を愛するようになった。
城に帰った国王は皆に宣言した
「この者を王妃とする」
臣下たちは猛反対した。
「思いとどまってください
魔女はダメです
あれはいけません、
あれは国を滅ぼします!」
「誰がそんな事を言ったのだ?」
「昔からの言い伝えです、
しかし
滅ぼされてからでは遅いのです。
魔女以外なら文句は申しません
どんな娘でも結構ですから。」
こうして皆の反対に会い
魔女は追放された。
“何故だ、
私たちは愛し合っているのに
何故私たちを引き離すのだ。”
国王は傷心のあまり
塞ぎ込むようになった。
暫くしたのち国王は嬉しそうに言った。
「私は妃を娶ることにした。」
そう言って臣下に紹介したのは
見た目は少し魔女に似ているが、
決して良くできているとは言い難いカラクリ人形だった。
「陛下、これは人ではありません!」
「魔女以外なら文句を言わんと言ったのはおまえたちではないか、
急拵えだったからな
少々作りは悪いが
ドレスを着せ美しく着飾らせてくれ。」
侍女たちは渋々、人形に化粧を施し、ドレスを着せた。
人形は急に喋った
「アリガトウ」
ヒエーッ!
侍女たちは驚いて、尻餅をついた。
国王はついに頭がおかしくなったのだ
おいたわしい事だ
しかし、それ以外は
何も異常はなかった。
むしろ人形を手にしてから、国王は嬉々として公務に励むようになった。
結婚式は厳粛に行われた。
「では誓いのキスを」
国王が新婦のベールを上げ、顎をグイと持ち上げると
首が抜け、頭がゴロンと床に落ちた。
「いや、これはすまんな、
司祭、気にせず続けてくれ」
国王は頭部を拾って首に挿げ直したが
司祭は口から泡を吹き気を失っていた。
ひっくり返っていた大臣は、
「これはかなわん
おい人形師を呼べ
もっと丁寧に作り直させろ。」
と命じた。
来賓から握手を求められると
人形は手を握ったまま
相手をグーで殴り付けた。
「これはダメだ
人形師を呼べ
もっと穏やかに動くようにしろ。」
「王妃はウ○コ座りしない」
「王妃はガニ股で歩かない」
大臣はその度に職人を呼び寄せて、
人形はだんだん人間のように動くようになっていった。
ある日
大臣が謁見の間で
緊張しながら王妃の前に跪いていた。
「大臣、苦しゅうない、」
王妃は優雅に右手を差し出すと
大臣はその手の甲に恐る恐るキスをした。
王妃はにっこり微笑むと
「ご機嫌宜しゅう。」
周りから歓声が上がった。
やった! エレガンス!
もうこれで、どこから見ても王妃だ、
どこに出しても恥ずかしくない、
来客があっても心配することはないんだ。
皆手を取り合って喜んだ
「国王陛下バンザイ!」
「王妃様バンザイ!」
王室主催の夜会の席で
国王と王妃は軽やかなステップで踊っていた。
その微笑ましい様子を見て、臣下たちは皆安堵していた、
これでこの国は安泰だろう
宮殿の長い廊下を、ふたりは寄り添いながら歩いていた。
「それにしても、気付かれないものですね、途中から入れ替わっても、
私は追放された魔女の姿ですのに、」
「キミの演技が上手かった事もあるが、
人は少しだけ変化したものに対しては
無意識に前と同じ物だと思い込むからね、
人形職人が来るたびに、少しずつ顔を削って変えて貰えば
今のキミのことを彼らには
最初のポンコツ人形の最終形態だとしか考えられないのさ。」
国王と魔女は幸せそうに微笑みあった。
その後、この国は滅びることもなく
皆んな幸せに暮らしましたとさ。
国王陛下は人形を愛する @komugiinu
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