『俺達のグレートなキャンプ48 ドキュメンタリー!心霊スポットに塩をばら撒いていけ!』
海山純平
第48話 心霊スポットに塩をばら撒いて周る
俺達のグレートなキャンプ48 ドキュメンタリー!心霊スポットに塩をばら撒いていこう!
第一幕 今日のグレートな作戦発表!
梅雨明け直後の蒸し暑い朝、「あざみヶ丘キャンプ場」の空気は重く淀んでいた。セミの鳴き声が耳障りなほど響く中、石川の大音量な声が森に木霊する。
「おーーーーい!みんなぁ!集合だぁぁぁ!」
その声に驚いた隣サイトのお父さんが、淹れたてのコーヒーを盛大にこぼして「あちちち!」と飛び跳ねている。奥さんが呆れ顔で「また始まったわ...」とため息をつく音まで聞こえてきた。
千葉が寝癖だらけの髪をぼさぼさにしたまま、パジャマ姿で駆けつける。その勢いでテントのロープに足を引っかけ、「うわぁぁぁ!」と派手に転倒。砂埃が舞い上がった。
「痛った〜...でも石川くん、おはよう!今日も張り切ってるね!」
一方、富山は既に身支度を整え、几帳面に洗顔まで済ませていた。しかしその表情は曇り空のように暗い。昨夜から嫌な予感がしていたのだ。
「また今日も何かろくでもないこと企んでるんでしょ?」富山が眉間にシワを寄せながら近づく。「昨日の『焚き火でマシュマロタワー建設大会』で管理人さんに『火災の危険があります!』って怒鳴られたばっかりなのに...」
石川がニッと歯を見せて笑う。その笑顔があまりにも胡散臭くて、富山の不安は最高潮に達した。
「富山ちゃん!そんな後ろ向きじゃダメだよ!キャンプは前向きにポジティブに!」
「前向きすぎて崖から落ちそうなのよ、あなたは!」
千葉が砂を払いながら立ち上がり、目をキラキラさせて手をパンパンと叩く。その音が妙に乾いていて、朝の静寂を破る。
「わくわくするなぁ!今日は何するの?石川くん!」
石川がリュックをガサゴソと漁り始める。中から出てきたものを見て、富山の顔が見る見る青ざめていく。それは業務用の塩袋だった。ドサッと地面に置かれた重量感に、近くにいたリスまで逃げ出した。
「じゃじゃーん!今日のテーマは『心霊スポット塩まき浄化キャンプ』だぁぁぁ!」
石川の得意満面の表情とは裏腹に、千葉の頬がピクピクと引きつり、富山は完全に固まっている。
「「「えーーーーーっ!?」」」
三人の驚愕の声が周囲のキャンパーたちの「え?」という困惑の声とハーモニーを奏でた。遠くで鳥がバサバサと逃げていく羽音まで聞こえる。
富山が震え声で問いかける。
「ちょ、ちょっと待ってよ石川...それって、キャンプですることなの?」
第二幕 塩まき大作戦、開始!(みんなでビビりながら)
富山の顔は土気色になっている。朝の光が差し込んでいるにも関わらず、なぜか彼女の周りだけ薄暗く見えた。
「心霊スポットって...このキャンプ場のどこに?まさか本当にあるの?」
声が上ずっているのを隠そうと、富山は必死に平静を装う。しかし手がブルブルと震えているのがバレバレだった。
石川がスマホを振りかざす。画面の明かりが彼の顔を下から照らし、まるでホラー映画のワンシーンのようだ。
「調べたんだよ!このキャンプ場から徒歩圏内に、なんと三つも心霊スポットがあるんだって!『心霊スポット関東近郊まとめサイト』に載ってた!」
千葉がゴクリと唾を飲み込む音がやけに大きく響いた。
「ど、どこどこ?」
声が裏返っているが、好奇心の方が恐怖に勝っているようだ。しかし足はガクガクと震えている。
「まず一つ目!」石川が森の奥を指差す。その先は朝霧で霞んでいて、なんとも不気味だ。「キャンプ場裏の『呪いの大木』!木の根元で夜中に白い影がうろついてるんだって!」
「し、白い影って...」富山の声が震える。
「二つ目!」今度は川の方向を指差す。古い石橋がうっすらと見える。「川の向こうの『幽霊が出る古い橋』!明治時代に身投げした女性の霊が...」
「やめてよぉ〜!」千葉が石川の腕にしがみつく。
「そして三つ目!」石川が振り返って指差したのは、管理棟の影になった一角。「管理棟の裏にある『夜中にうめき声が聞こえる倉庫』!」
「それ絶対に管理人さんのいびきでしょ!」富山が必死に現実的な説明を探す。
「細かいことは気にしない!」石川の強がりにも、若干の震えが混じっている。「と、とにかく、この三箇所に塩をばら撒いて浄化してくるんだ!き、きっと心霊現象もなくなって、みんなハッピー!」
千葉が震えながらも拍手する。パチパチという音がやけに空虚に響いた。
「す、素晴らしい!僕たち、キャンプ場の守護神になれるね!」
「なれるわけないでしょ!というか、なりたくないわよ!」
しかし富山の制止も虚しく、石川は震える手で塩袋を三つに分けて小さなビニール袋に詰め始めている。塩がサラサラと音を立てて、妙にリアルな効果音を奏でる。
「よ、よし!作戦名は『ソルト・オブ・ピース大作戦』!塩で平和を呼ぶんだ!」
声は大きいが、明らかに強がっている。
「ネーミングセンスもどうかと思うけど...というか、本当に行くの?」富山の声が小さくなる。
第三幕 第一の心霊スポット『呪いの大木』(震えながら突撃)
三人は塩袋を持って、キャンプ場裏の森へ向かった。朝の森は湿気が立ち込め、足音がぺちゃぺちゃと湿った音を立てる。葉っぱに残った夜露が時々ポタリと落ちて、三人をビクッとさせた。
「あ、あった!あれだ!」
石川が指差した先には、確かに古くて太い大木がそびえ立っている。幹には苔がびっしりと生え、朝霧の中でぼんやりと浮かび上がるその姿は、確かに不気味だった。枝が複雑に絡み合って、まるで巨大な手のように見える。
「う、うーん、確かに雰囲気あるね...」千葉の声が震えている。
「で、でも普通の木よね?ただの木よね?」富山が自分に言い聞かせるように呟く。
三人とも足がすくんで、なかなか近づけない。
「い、いいんだよ!雰囲気が大事!」石川が塩袋を震える手で開ける。「そ、それじゃあ、浄化の儀式開始!」
「え、えい!」
石川が塩をパラパラと撒き始める。しかし手が震えているので、塩が明後日の方向に飛んでいく。
「や、やー!」
千葉も真似して撒くが、やはり狙いが定まらない。塩が自分の足に落ちて「しょっぱい!」と叫ぶ。
「は、はぁ...」
富山もしぶしぶ参加するが、塩を少しずつそろそろと撒いている。
すると突然、木の上から声が聞こえた。
「何してるんですか、あなたたち!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
三人が抱き合って震え上がる。千葉は石川の後ろに隠れ、富山は目をギュッと閉じている。
「出た出た出た!本物よ!」富山が半泣きで叫ぶ。
しかし見上げると、木の上に鳥の巣箱があり、そこから顔を出しているのは...キャンプ場の管理人さんだった。作業着を着て、双眼鏡を首からぶら下げている。
「あ、あ、管理人さん!?」石川の声が裏返る。「お、おはようございます!」
「おはようじゃありません!その木は貴重な野鳥の営巣地なんです!塩なんか撒いたら生態系が!」
管理人さんの顔は真っ赤になっている。
「あ、あの、すみません!」富山が地面に頭をこすりつけるように謝る。「すぐに片付けます!本当に申し訳ありません!」
「こ、浄化大成功!管理人さんという守護霊が現れました!」石川が強がって言うが、声は完全に震えている。
「守護霊じゃありません!バードウォッチングしてただけです!」
第四幕 第二の心霊スポット『幽霊が出る古い橋』(老人に塩まき事件)
一つ目のスポットで大目玉を食らった三人は、気を取り直して川の向こうの古い橋へ向かった。しかし足取りは重く、誰もが後ろを振り返りながら歩いている。
「こ、今度は気をつけよう」富山の声が震えている。
「だ、大丈夫大丈夫!今度は誰もいないよ!きっと!」
石川がそう言った瞬間、橋の上に白い影が見えた。朝霧の中でゆらゆらと揺れている。
「うわぁぁぁ!本当に幽霊が!」千葉が石川の後ろに隠れる。
「やっぱり出るのよ!」富山が半泣きになる。
三人は震えながらも、使命感に燃えて塩袋を握りしめる。
「み、みんな!今こそ塩の出番よ!」
「そ、そうだ!塩があれば大丈夫!」
三人は震えながら橋に近づく。白い影はゆらゆらと動いている。
「せーの!」
「浄化ー!」
三人が一斉に塩を撒く。しかし朝の風に煽られて、塩は白い影に直撃した。
「うわぁぁぁ!何じゃこりゃぁぁぁ!」
白い影が叫んだ。人間の声だった。
よく見ると、それは白いレインコートを着たおじいさんで、橋の上で釣りをしていたのだった。塩まみれになって、目をパチパチさせている。
「あ、あの...おじいさん?」石川が恐る恐る声をかける。
「おう、わしじゃ。君たち、何でわしに塩撒くんじゃ?」
おじいさんは意外にも怒っていない。むしろ困惑している。
「し、失礼しました!」富山が飛び出して謝る。「幽霊だと思って!」
「幽霊?わしが?」おじいさんがけらけら笑う。「まぁ、確かに年寄りじゃから幽霊と変わらんかもしれんが!」
千葉がおずおずと尋ねる。
「あの、ここって心霊スポットじゃ...?」
「心霊スポット?ここが?」おじいさんがさらに笑う。「ワシは毎日ここで釣りしとるが、幽霊なんて見たことないぞ?強いて言えば、ワシが一番古い住人じゃな!」
「え?でもネットには...」
「あぁ、それワシの孫が面白半分で書いたやつだな。『じいちゃんが毎日橋にいて怖い』って」
三人が顔を見合わせる。
「おじいちゃんが心霊現象の正体だったんですね!」千葉が納得する。
「失礼な孫じゃ!でも君たち面白いな。塩で幽霊退治とは!」
おじいさんに塩を払ってもらいながら、結局一緒に釣りを楽しむことになった。魚が一匹釣れて、石川はそれを「浄化の証」と言い張った。
「これで二箇所目も浄化完了!」
「完了って言うか、誤解が解けただけよね...」富山がため息をつく。
第五幕 第三の心霊スポット『夜中にうめき声が聞こえる倉庫』(ヨガとの遭遇)
最後のスポット、管理棟裏の倉庫にやってきた三人。ここまで来ると、恐怖よりも疲労の方が勝ってきている。
「今度こそ本物の心霊スポットかも」富山がドキドキしながら呟く。しかしもう半ば諦めモードだ。
「だ、大丈夫!塩があれば怖くない!」石川が塩袋を握りしめるが、手汗でグチャグチャになている。
倉庫に近づくと、確かに中から「うぅ〜...あぁ〜...」という声が聞こえてくる。三人の背筋がゾクッとする。
「う、うわ!本当に聞こえる!」千葉が石川の後ろに隠れる。
「こ、これは本物かも...」富山も震える。
「よ、よし!一気に塩を撒いて浄化だ!」
石川が震える手で倉庫のドアに近づく。心臓の鼓動が聞こえそうなほど緊張している。
「せーの!」
ドアを勢いよく開けて塩を撒こうとした瞬間...
「ハァ〜ヒィ〜フゥ〜ヘェ〜ホォ〜」
中から聞こえてきたのは、深い呼吸音だった。そして薄暗い倉庫の中で、ヨガマットの上でポーズを取る女性のシルエットが見えた。
「うわぁぁぁぁ!」
三人が抱き合って震え上がる。
「あ、あの、すみません!」
振り返った女性は、キャンプ場の受付にいる事務員さんだった。ヨガウェアを着て、汗をかいている。
「あら、皆さん。私、休憩時間にここでヨガしてるんです。涼しくて静かで...って、なんで塩持ってるんですか?」
石川が必死に事情を説明すると、事務員さんが大笑いした。
「私のヨガの呼吸音が心霊現象って思われてたんですね!確かに深い呼吸音は不気味かも!『うぅ〜あぁ〜』って聞こえますよね!」
「そうだったんですね...」千葉がガックリ肩を落とす。
「でも塩で浄化って面白いアイデアですね!私も一緒にやってみましょうか?」
事務員さんも加わって、倉庫に塩を撒く儀式を行う。なんだかバカバカしくて、みんなで大笑いしてしまった。
第六幕 帰りの車で不穏な出来事
夕方、テントを片付けて車に荷物を積み込む三人。心霊スポット巡りは結局、全部勘違いで終わったが、なんだかんだで楽しい一日だった。
「結局、心霊スポットは全部勘違いだったね」富山がほっとした表情で運転席に座る。
「でも楽しかったよ!」千葉が後部座席から顔を出す。「管理人さんとも、おじいちゃんとも、事務員さんとも友達になれたし!」
「そうそう!これぞグレートなキャンプ!」石川が助手席でガッツポーズ。「塩まきのおかげで、キャンプ場に平和が戻ったんだ!」
「平和って、最初から平和だったでしょ!」
富山がエンジンをかけようとした瞬間、ラジオが勝手に点いた。
『...この地域では古くから、塩を撒くと霊が怒ると言われています...』
「え?」
三人が振り返ると、ラジオのボリュームつまみがゆっくりと右に回っていく。
『特に、聖域とされる場所に無断で塩を撒くと...』
「な、なにこれ?」千葉の声が震える。
富山が慌ててラジオの電源を切ろうとするが、スイッチを押しても切れない。それどころか、音量がどんどん上がっていく。
『霊たちの怒りを買い、七日間祟られると...』
「やめてよぉ〜!」
石川がラジオを叩くが、まったく効果がない。
突然、車のエアコンが勝手に最強風力で回り始める。冷たい風が車内に吹き荒れて、三人の髪がバサバサと舞う。
「寒い寒い寒い!」
富山が必死にエアコンのスイッチを切ろうとするが、やはり効かない。
その時、リアミラーに映った千葉の顔が青ざめている。
「あ、あの...後ろ見て...」
二人が振り返ると、後部座席に白い塩袋が浮いている。中の塩がサラサラと音を立てて、勝手に出てきている。
「うわぁぁぁぁぁ!」
三人が抱き合って震える中、塩は車内にパラパラと降り注いだ。
「これって...」
「まさか...」
「本当に祟られた?」
ラジオの音声が続く。
『ただし、これらはすべて迷信であり、科学的根拠はありません...』
突然、すべての異常現象が止まった。ラジオも切れ、エアコンも止まり、塩袋も座席に落ちた。
車内に静寂が戻る。
「...な、なんだったの今の?」富山が震え声で呟く。
石川が恐る恐るラジオを触ってみる。今度は普通に操作できる。
「も、もしかして、車の故障?」
千葉が後部座席を確認すると、塩袋に小さな穴が開いていて、そこから塩がこぼれていた。
「あ、袋に穴が開いてる!車の振動で塩がこぼれたんだ!」
「エアコンとラジオは...偶然の故障?」
三人が顔を見合わせる。
「そ、そうよ!きっと偶然よ!心霊現象なんてあるわけないじゃない!」富山が自分に言い聞かせるように言う。
「そ、そうだそうだ!科学的に説明できるよ!」石川も同意する。
しかし、車を発進させようとした時、カーナビの画面に文字が表示された。
『ま た 来 て ね』
三人の顔が真っ青になる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
富山がアクセルを踏み込んで、キャンプ場から猛スピードで逃げ出した。
後部座席で千葉が呟く。
「あの...カーナビの文字、子供の落書きっぽくない?」
「え?」
よく見ると、画面に貼られたシールだった。きっと前の持ち主の子供が貼ったものだろう。
「...また勘違い?」
「みたいね...」
三人がほっと一息ついた時、石川がぽつりと呟いた。
「でも、今度はもうちょっと調べてからにしようか...」
「絶対よ!」富山と千葉の声がハモった。
こうして、石川たちの48回目のグレートなキャンプは、最後まで騒動に満ちた一日となったのだった。
そして車の中で、三人は密かに思っていた。
(もしかして、本当に何かいたのかも...)
しかし、それを口に出す勇気は、誰にもなかったのである。
〜完〜
『俺達のグレートなキャンプ48 ドキュメンタリー!心霊スポットに塩をばら撒いていけ!』 海山純平 @umiyama117
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