第15話「第一章・終幕:再構築の証明」

 黒槍がわずかに傾く。

 その瞬間、ヴァイスの姿が掻き消えた。


「っ──!」


 反射的に剣を横薙ぎに構えた。火花と衝撃が腕を痺れさせる。槍の石突が、目にも止まらぬ速さで俺の脇腹を狙っていた。


「悪くはない。だが遅い」


 槍先が翻る。風圧が皮膚を裂き、背後の壁が爆ぜる。速度も、間合いも、完全に支配されていた。


(……速さで勝てる相手じゃない)


 一手受けるたびに、筋肉が悲鳴を上げる。それでも退かない。退いた瞬間、ティナが危険に晒されるからだ。


「クロウお兄さん、二歩後ろ! 次、右から来る!」


 ティナの声が飛ぶ。

 その一瞬だけ、ヴァイスの目がわずかに細められた。仲間の声を戦いに織り込む──その戦い方を、彼は試している。


「ほう……守るつもりか」


 槍が大きく引かれ、地面を貫いた。石畳が弾け飛び、粉塵が視界を奪う。


(見えない……!)


 粉塵の奥から、殺気が迫る。

 次の瞬間、槍が頭上から振り下ろされ──


 ――外れた。


 ヴァイスの目が、僅かに見開かれる。


(……来たか)


 俺の中で、何かがひっくり返る感覚。

 《確率干渉》が発動したのだ。

 “当たるはずだった攻撃”が、ほんのわずかな瓦礫の崩れで軌道を逸らされた。


「この一瞬……もらった!」


 俺は踏み込み、ヴァイスの槍柄を斜めに打ち払う。衝撃で彼の体勢が崩れる。その隙に喉元へ剣を突きつけ──止めた。


「……悪くない」


 ヴァイスは小さく笑みを漏らし、槍を引いた。


「その力、偶然か必然か……いずれにせよ、戦場で生き残る資質はある」


 そして、懐から封印付きの推薦状を取り出す。


「《リビルド》──俺が推薦してやる。ただし、忘れるな。強者の世界は、立ち止まった瞬間に終わる」


 その言葉には、戦いの中でしか知り得ない重みがあった。


「……わかってる。俺たちは止まらない」


 ティナが駆け寄ってきて、心底ほっとしたように笑った。


「やったね、クロウお兄さん!」


 その日、ギルド《リビルド》の看板が初めて掲げられた。

 まだ小さな始まりだが──この一歩が、すべてを変える。

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無能と追放されたけど、“スキル進化”で全職業を極めた俺は、辺境で最強のギルドを作ることにした 天城リク @amagi_riku

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