第14話「ギルド戦線、始動」

 自由都市バルトラム。


 王都の規律が届かぬこの街は、追放者と強者、そして“無法”の希望に満ちている。


 俺とティナが立ち上げたギルド《リビルド》は、ようやく登録が通ったばかり。まだ看板すら掲げられていない無名ギルドだ。だが、ここから始まる。


 崩れた旧塔の出来事──あの瞬間、確かに俺の中で何かが変わった。


 未来は固定じゃない。たとえ“確率”の壁があったとしても、それを超えていく手段はある。

 俺は、それを手に入れた。


 ──《確率干渉》。

 それは一度きりの奇跡を引き寄せるスキル。

 だが奇跡は、使われるまで“備え”でしかない。


「……さて、ここからどう動くか、だな」


 バルトラムにあるギルド認可制度は、王都と違いかなり“現実的”だ。依頼達成数も重要だが、何より評価を決定づけるのは「強者からの推薦」。特に、Aランク以上の冒険者からの信頼は、圧倒的な信用に繋がる。


 だが、そんな存在にそう簡単に会えるはず──


「クロウお兄さん……あれって、もしかして……!」


 ティナが小声で呟き、通りの向こうを指差した。


 ──槍を背負った黒衣の男が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


「……ああ、間違いない。《黒槍のヴァイス》だ」


 この街で知らぬ者はいないAランク冒険者。かつて王国軍の精鋭部隊に所属していたが、ある事件をきっかけに脱退し、今はどのギルドにも属さない孤高の実力者。


 その彼が、無名の俺たちの前で立ち止まり、言葉を発する。


「《リビルド》の代表は──お前か」


「そうだ。クロウだ」


 ヴァイスは少しだけ目を細める。品定めするような視線。だがそこには、明確な興味がある。


「旧塔の件……聞いた。お前が崩したのか?」


「……ああ。崩したのは結果だが、中で起きたことは全部、俺たちが処理した」


「ならば、それを証明しろ」


 彼は背負っていた黒槍を地に突き立てた。その瞬間、舗装された石畳が砕け、周囲に鈍い音が響き渡る。


「この場で、俺と一戦交えろ。勝てとは言わん。だが──逃げた時点で、話は終わりだ」


 周囲の冒険者たちがざわつく。


 有名な実力者が、無名の新参者に“腕試し”を挑んでいる。

 これは試練だ。否、チャンスでもある。


 ティナが俺を見上げ、不安そうに唇を噛んだ。


 俺は静かに剣を抜く。


「望むところだ。俺たち《リビルド》は、強さから逃げない」


 ギルドとは、信頼だ。

 信頼とは、力で築くものだ。

 俺のスキルが“進化”するなら、ギルドもまた──成長するものだ。


「俺たちの“始まり”を、この一撃に込める!」

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