少女剣士パルメの復讐
藍谷奏太
少女剣士パルメの復讐
「九四。九五。九六……」
握る木剣に汗が染み込み、持ち手の柄が湿っていた。わたしこと少女剣士パルメは、今日も剣の素振りをしていた。一振りごとに、感触とフォームを確かめるように、わたしは慎重に木剣をふりおろした。
「九七。九八。九九。一〇〇!」
日課の素振り一〇〇回を振り終えると、達成感から身体中の力が抜けた。思わず木剣を投げ出して、わたしはその場にへたり込み、息を切らした。
「はぁはぁはぁ……。これくらいでバテてたら冒険者には成れないよね……」
そう、わたしの夢は冒険者になることだ。小さな頃から憧れていた、英雄ウーナのようになりたくて、わたしは村の女門兵のメディさんから剣の手ほどきを受けている。なんでもメディさんの一族は、英雄ウーナの仲間の血を引いているらしく、メディさん自身も元凄腕の冒険者だったらしい。今日も稽古をつけてもらう予定だったが、なんでも急用ができたらしくて、ここには来れないらしい。
いまでも村のために頑張っているメディさんに比べて、わたしときたら、たった一〇〇回剣を振ったくらいでばててしまう。こんなことでは、一流の冒険者には程遠い。全身の倦怠感を振り払い、追加でもう一〇〇回を振ろうかと迷っていると、見たこともない黒髪の少女に話しかけられた。
「すまぬ。そこの銀髪の女子よ」
「え、あっ……」
銀髪の女子ってわたしのことだよね。でもいきなり話しかけられて、心臓の動悸が激しい。何せ、わたしは大の人見知りで、知らない人から話しかけられるのが、あまり得意ではないからだ。しかも、その少女をよく見ると、綺麗な黒髪をセンター分けにしており、黒い魔術師のドレスを着ている。なんだか格好良いと感じてしまうような絶世の美少女だ。かくいうわたしだって、美しい銀髪に透き通る碧眼を持った美少女なのだが、いかんせん小柄で肉付きが悪くどこか野暮ったい。この少女も体格は似たようなものだが、わたしと違い、どことなく気品のようなものを感じる。絶対にお貴族様か何かだよと萎縮していると、向こうから急接近してきた。
「そなたのことを言っている! 答えぬか!」
「ひゃ、ひゃい。すみません……」 この少女の声は、とてつもなく威圧的だ。それに気圧されて、思わず返事をしてしまった。黒髪黒ドレスの少女は、ふぅとため息を吐いたあと、何故かわたしに謝罪した。
「少し語勢を強め過ぎたな。すまぬ」
「あ、いえ、お気になさらずに……」
なんか思ったよりも良い人だ。黒髪黒ローブの少女は、謝罪の後に再びわたしに尋ねた。
「ところで、そなたはこの村の魔剣の在処を知っているか?」
魔剣、そういうことねと納得して、わたしは答えた。
「あ、え、えっと。魔剣なら村の祭壇にあります。でも、誰も抜けないので行っても無駄だと思いますよ?」
そう、この村の魔剣は誰にも抜けない。抜くと絶大な魔力が付与されるという伝説があるが、そんなものは嘘っぱちだと思う。結局のところ、抜けた人がいないということは、抜けないようにできているのだ。おそらく村の観光名所となるように、遥か昔に設置されたのだろう。つまり、この黒髪センター分けの少女も、このチェイン村の村長たちのカモにされているというわけだ。よって絶対に抜けないよ
うにできていることをわたしなりの言葉で教えたつまりだが、理解できなかったのか、黒髪の少女ははっきりと宣言した。
「必ず抜ける。だから案内してよいぞ」
「あ、はい……」
必ず抜けるとか、この子は本当にいいカモにされている。きっと説得しても無駄だろうし、道案内くらいならしてあげてもいいと思った。わたしはちょっとどきどきしながらも、再び黒髪黒ドレス少女に語りかけた。
「え、えっと。わかりました。では案内しますね。」
「うむ!」
そういうえば自己紹介がまだだったということを思い出し、わたしは黒髪黒ドレスの少女に振り返りながら語りかけた。
「あの、自己紹介がまだでしたよね。わたしはパルメっていいます。あなたのお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
なるべく丁寧に名乗ると、黒髪黒ドレスの少女は冷たくさっぱりと自己紹介した。「我の名はエーデナ。魔剣士エーデナだ」
「エーデナさん……。覚えました。これからよろしくお願いしますね!」
「ああ……」
見た目通りかなりクールな人のようだ。挨拶もどことなく素っ気ない。魔剣の祭壇へ向かって歩いていると、途中で幼馴染のルティアを見かけた。今日も青く長い髪をツーサイドアップにしており、赤いたれ目が特徴的でどことなく子犬っぽい女の子だ。今日の彼女は青いミニスカートローブに、お気に入りのウッドスタッフを背中にぶら下げた装いをしている。話しかけようか迷っていると、向こうからこちらの様子に気が付いて話しかけてくれた。
「やあ。パルメ。散歩かい?」
「こんにちは。ルティア。実はね。またあの魔剣に挑戦する人を案内しているところなんだ」
「ああ。なるほどね……」
どうやらルティアも、またカモにされる人が現れたということを理解したようだ。しばらくじっとわたしの隣にいるエーデナさんを眺めると、うんと納得したように頷いた。
「よし。それならボクも一緒に行くよ!」
「うん。わたしは別にいいけど……。エーデナさんは構いませんか?」
わたしが隣で興味なさそうにうつむいているエーデナさんに語りかけると、彼女はクールに答えた。
「別に構わぬ」
「そうですか。なら一緒に行こっか!」
「やった。それじゃあ、魔剣の祭壇までよろしくお願いしますね。えっと……」
ルティアが名前を言いよどんでいると、エーデナさんはまた素っ気なく言葉を返した。
「エーデナだ……」
「あ、はい。よろしくお願いしますエーデナさん。ボクはルティアっていいます」
「ああ。よろしく頼む……」
あまりにも素っ気ないので、ルティアは思わずため息を吐いて、わたしの方を見て肩をすぼめた。わたしは苦笑して、この珍妙な三人組は魔剣の祭壇に向かって歩き出した。
☆☆☆
魔剣の祭壇は村の北側に祀られており、観光名所として誰でも立ち入り可能だ。何せあの魔剣は抜けないようにできている。つまり泥棒の心配もないというわけだ。北に向けて歩き、武器屋の前を通り過ぎたところで、女門兵のメディさんを見かけた。わたしは人見知りを発揮して、話しかけるか迷っていたが、ルティアがそれとなく空気を察したのか、わたしのかわりに声かけしてくれた。
「メディさぁぁん!」
ルティアが手を振ると、メディさんはすぐに振り返った。その表情はまばゆい笑顔に満ちている。茶髪ボブの地味な女性だが、その見た目とは裏腹に、剣術に関しては凄腕だ。メディさんはルティアの隣にわたしが居ることに気が付き、さらに笑顔が輝いた。
「あら。ルティアに、パルメじゃない! 今日はふたりでデートかしら?」
メディさんがからかうと、わたしは顔が熱くなるのを感じてうつむいた。別にルティアとわたしは親友同士であってそういう間柄じゃない。同性同士が恋愛をするのはこの国では珍しいことではないが、それでもそういう風に茶化されるとなんだか照れてしまう。メディさんのデリカシーの欠片もない言葉に憤りを感じたのか、ルティアは必死になって言い返した。
「もう! からかわないでよ! 今日はそういうのじゃなくて、旅人さんを例の魔剣のところまで案内してるだけさ!」
話しが変わったのでわたしが顔を上げると、いまがどういう状況か察したメディさんは、やれやれと両手を翳したあと、わたしの隣にいるエーデナさんに近づき忠告した。
「旅人さん。悪いこと言わないからあんまり期待しないほうがいいわよ。あの魔剣は観光客を集う目的で作られたもので、あらかじめ抜けないようにできているのよ。でもとても美しい魔剣だから、観光ついでに一目見ておくくらいに留めておくことをおすすめするわ!」
こんな簡単に魔剣のからくりを話してもいいのかと、ちょっとハラハラしたが、エーデナさんは意に介したふうもなく、冷たい声音で反論した。
「ふっ。愚か者め。あの魔剣は選ばれし者。つまり我にしか抜けんのだ。そこいらの凡俗がわかったような口を聞くものではない」
あまりにも上から目線な言い方のため、かちんときたのか、メディさんは声を荒げた。
「ちょっとあんたね。人が親切で言ってやっているのに、その言い方ってないんじゃない!」 メディさんの怒鳴り声も、エーデナさんは無視して、わたしに呼びかけた。
「……。先を急ぐぞ」
現地村の門兵に対して、あまりにも無礼な態度なため、メディさんはいまにも掴みかかりそうになっていたので、ルティアが両手でそれを制す。わたしも師匠を馬鹿にされて、ちょっとむかついたので、エーデナさんに物申した。
「あ、あの。エーデナさん。ちょっとその態度はあんまりじゃないでしょうか? そ、その、メディさん
だってエーデナさんのためを思って言ってくれたんですよ。なのに、そんな冷たい言い方はないと思います!」
大人しいわたしが自分に意見したのかおかしかったのか、エーデナさんは悪者っぽく高笑いした。
「ふふふ。ふふふふふ。ふっはっはっはっはっはっは! 小娘が言いよるわ! いいから我を黙って魔剣のところまで案内するがいい! そこで貴様は地獄という物の味を知ることになるだろう!」
悪者っぽく高笑いするが、言っている意味がよくわからない。この人やっぱり少し頭がおかしいようだ。わたしがルティアやメディさんの方を見ると、ふたりとも肩をすぼめて呆れていた。まあ。きっと魔剣のところまで案内するだけ案内して、どうやっても抜けないと知ればきっと大人しく諦めるだろう。あとでこの人が赤っ恥を掻くであろう姿が浮かんできて、わたしも少し呆れてしまった。しょせんはただの子供だ。きっとこの子も英雄か何かに憧れているだけなのだろう。そう割り切り、わたしはエーデナさんにこう言った。
「わかりましたよ。そこまで言うなら魔剣を抜く姿を見せてくださいね。それじゃあ、行こっか。ルティア!」
「仕方ないな。わかったよ。それじゃあ、エーデナさんはボクについてきてください」
エーデナさんは素っ気なく「うむ」とだけ口にした。
わたしもルティアのあとに続いてから、振り返ってメディさんに手を振った。
「それじゃあ。わたしたちは行きます。メディさん。また今度、剣の稽古をつけてくださいね?」
「わかったわ。それじゃあ、ふたりとも気をつけて行くのよ!」
「はい。行ってきます!」
わたしたちはメディさんに手を振ると、彼女も手を振り返してくれた。少し時間を食ったが、武器屋を無事に通り過ぎ、珍しく強く風が吹いたので、スカートの裾を押さえた。
「きゃあ!」
思わず声をあげてしまったが、他のふたりも同じようにスカートの裾を押さえながら無言で歩いている。なんだか自分だけ黄色い声を出してしまって恥ずかしい気分だ。それにしてもいつもなら穏やかな風が吹くのに、どうしてこんな突然強風が吹きだしたのだろう。何故かわからないけど、なんとなく嫌な予感がする。わたしたちはそのまま強風にさらされながらも必死に歩いて、無事に北の祭壇の手前までたどり着いた。そこには漆黒刀が台座に突き刺さっている。その美しい黒剣が飾られている祭壇にわたしは手を向けた。
「着きましたよ。ここが魔剣の祭壇です。さあ。エーデナさん。魔剣を抜いてみてください」
きっと抜けませんけどねと心の中でつぶやいたのは内緒だ。エーデナさんはいつになくハイテンションで台座まで進んだ。
「ふふふ。ふっふっふっふ。ふっはっはっはっはっはっはっはっは! 時は満ちた! ついに我は魔剣の力を宿し、愚かなる人間どもを打ち滅ぼせるのだ! ふふふふ。ふっはっはっはっはっはっは!」
狂喜乱舞するエーデナさんを見てわたしは少し引いてしまった。隣を見やるとルティアも「何か言っているし」とじっとりとした目で呆れ果てている。わたしたちが若干馬鹿にしていることも気にせずに、エーデナさんは魔剣へと手を伸ばした。どうせ抜けないだろうと高を括っていたが、エーデナさんが柄を掴んだ瞬間に、黒い稲光がほとばしったので、思わず悲鳴をあげた。
「きゃあ!」
「え、ええ! これって一体どういうこと!?」
黒い稲光とともに、なんとエーデナさんは魔剣を抜き放った。その瞬間、黒い稲妻がエーデナさんの身体を包み込んだ。
「おお! なんと言うことだ! まさか魔剣の力が、伝説の魔女王の力が、これほどのものとは!」
エーデナさんはまるで狂気に満ちたような表情で興奮していた。その様子はまるで魔女が絶大な魔力を習得し、世界に反乱を起こす前兆のような、そんな雰囲気を漂わせている。まさか物語でしか語られていなかった破壊を司る魔女王が目の前に現れたのだ。
「う、うそだろ! こんなことありえない……」
恐怖で無言化しているわたしと違い、ルティアは逆にパニックになっているようだ。わたしたちは固まって一歩たりとも歩くことができない。それを嘲るように眺めたエーデナさんはわたしたちにこう告げた。
「ふふふ。礼を言うぞ。人間の幼子らよ。特別だ。ここまで案内してくれたそなたたちだけは見逃してやる。そこで恐怖に震えながら、そなたらの村が滅びゆくさまを見ているがいい!」
ただの少女とは思えない圧倒的な威圧感。そのオーラからわたしは気が付いてしまった。そうか。そもそもこの少女は人ですらなかった。つまり魔族だったのだ。だから人間では決して抜くことができない魔剣を抜くことができた。きっとこの魔剣の力は本当の物であり、ただの観光名産品ではなかったということだ。そして、魔剣の力を得た彼女のその目的は、わたしたちが最も恐れるものだった。わたしは勇気を振り絞り叫び声をあげた。
「やめて。村の人たちには手を出さないで!」
ゆっくりと歩くエーデナさんの前に、わたしは手持ちの木剣を構えて立ちふさがった。エーデナさんは滑稽な物でも見たかのように嗜虐的に笑った。
「あっはっはっはっは。この我に立ち向かうか! いいだろう。己がいかに愚かで力なき童であるか、その身をもって知るがいい!」
「……! はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
わたしは叫びながら全神経を集中させて、身体に魔力を纏った。この世界を構成する元素であるマナを体内で合成したエネルギーがこの魔力だ。この魔力を身に纏えば格段に身体能力を向上させることができる。わたしの魔力は師匠のメディさんほどではないが、そこそこ高いはずだ。でも、目の前の魔女王はそれを馬鹿にするように嘲笑った。
「あっはっはっはっはっはっは! その程度の子供騙しの魔力で我に立ち向かうか! 本当にそなたは愚かな娘よのう!」
何が可笑しいのか、くつくつと笑う魔女王エーデナに、自身が何年もかけて師と共に練り上げた努力の結晶を馬鹿にされたのが悔しくて、わたしは震えて涙を流しながら怒号をあげた。
「わ、わたしの修行の成果を馬鹿にするな! てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
わたしは全力を以てして魔女王エーデナに斬りかかった。しかし、それはたった一振りの横薙ぎによって終了させられた。圧倒的な魔力の風圧に剣の身体も弾き飛ばされ、祭壇の壁にいきおいよく背中をぶつけた。
「がはぁっ!」
あまりの痛みに涙が流れ出る。わたしはその場にうずくまり、魔女王エーデナを怯えながら見つめた。すると、魔女王はまた馬鹿にしたように笑って、こう指摘した。
「ふっはっはっはっは。修行の成果と言ったな、小娘よ。しかし、人の身であり子供であるそなたがやっていた修行など大方初歩的なものばかりだろう。たかだか基礎ができたというだけで修行の成果を馬鹿にするなどとほざくとは笑わせてくれる! そのような戯言はせめて達人レベルの修行を終えてから言え! いまの貴様のやっている修行などしょせん子供の遊びだということを弁えよ! そして、力無き小娘である己の境遇を嘆き。愛する故郷が滅びゆく様をじっくりと眺めているがいい!」
わたしはさせまいと思って、ルティアに助けに視線を送った。しかし、ルティアはただただ恐怖で動くことすら敵わず、声を出すことすらできないようだ。ダメだ。このままではこの魔女王に村を本当に滅ばされてしまう。
しかし、だからと言って、あの圧倒的な力に恐れをなしたわたしなんかにできることなど一つたりともない。わたしは魔女王エーデナの言う通り、本当にただの無力な子供であることを思い知り、唇を噛みしめながら、涙を流した。その姿を見た魔女王はわたしへの興味を失くして、祭壇からゆっくりと歩を進めた。
「や、やめて……」
わたしの言葉を無視して、魔女王はさらに歩を進めて、とうとう祭壇の外へと出て行ってしまった。
「お願い……。やめて……」
わたしが声をかすれさせながら願うように呟いた。しかし、その願いは虚しく、数秒後に発生した大声によって、わたしの命より大切なものの終わりを宣告された。
「我は魔女王エーデナ! 深淵なる闇の混沌よ。我へその絶大なる力を与えよ! そして、愚かなる人間共に滅びの鉄槌を!」
その謳い文句が終わったあと、壮絶な破壊音と地響きが鳴った。祭壇の壁は崩れて、その前の空間は何もなかったかのように荒地と化していた。そうたった今を以てしてチェインの村は魔女王エーデナの魔力によって消滅されてしまったのだ。
「ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
わたしはあまりの無残な光景に打ちのめされて、その場にうずくまったまま顔を両手で覆って涙を流した。どうしてこうなった。何故わたしの村が滅んだ。そうだ。わたしがあの女を、魔女王を魔剣の祭壇まで案内したからだ。観光目的で来た客だと勘違いして、村に魔族を招き入れてしまったのだ。
これはわたしの罪だ。よってわたしはどうしてもあの女への復讐を果たす責任がある。そう思考が過った途端、わたしは空の上に飛んでいる魔女王へ視線を移して、思いっきり睨みつけた。魔女王はこちらに興味も示さずに高笑いしていた。
「あっはっはっはっはっは! やったぞ! 遂に我は愚かな人間共を皆殺しにする力を手に入れたのだ! これで、ついに、我の念願を果たすことができる! 愚かな人間どもを駆逐することができるのだ! あっはっはっはっはっはっはっは!」
あの女はこの村だけじゃなく人間という種族自体を根絶やしにしようと企んでいる。どんな恨みがあるか分からないが、だからといって人間を根絶やしにしていいわけがない。いや、させてはならない。わたしの村のような惨い犠牲者をこれ以上増やしてはならないのだ。わたしは何がなんでもこの女を倒してやる。絶対に。わたしはそう誓い魔女王を睨み続けると、彼女は笑い終わり冷静な態度でぼやいた。
「さて。この村も用済みだな。いよいよ次の祭壇で人間を絶滅するための儀式を行わなければ。あと邪魔なあの女を始末することも考えねばならんな……」
何やら独りでぶつぶつとぼやきながら、一通り思考の整理がついたのか、村から視線を北の方へと移した。
「そろそろ行くか……」
そう冷たく吐き捨てて、魔女王は空を飛んで遥か北の方角へと飛んでいった。 魔女王がいなくなったあと、緊張感は解かれて、わたしはすぐにルティアのほうへとむかった。
「ルティア。大丈夫?」
「…………」
しかし、どんなにわたしが気遣おうとも、この村の惨状を見たルティアの瞳は輝きを失っていた。そして、壊れたように俯いている。無理もない。こんな状況に見舞われたら誰だってそうなる。でも、それでもわたしはそんな彼女にあまりにも無謀で無責任な言葉を投げかけた。
「聞いて。ルティア。わたしは何がなんでもあの魔女王エーデナを倒すよ。そして、家族やメディさんや村の人たちの仇を討つ!」
「…………っ!?」
わたしの言葉に驚いたルティアは目を見開いた。しかし、その瞳には光が全く灯っていない。彼女はわたしが正気の沙汰ではないと思っていることだろう。正直に言うと、自分も正気ではないことに気が付いている。きっとあの村の崩壊を目にした途端、どこか壊れてしまったに違いない。それでもわたしは、諦めて絶望に明け暮れるよりかは、戦う決断をした。胸には復讐の炎が、人類を救うという希望の光がわたしを強く奮い立たせ光輝かせた。そして、目の前の絶望に心を支配された親友に、わたしは先ほどの言葉の続きを口にした。
「それにあの女は生かしておいてはいけないと思う。さっきの口ぶりからすると、あいつはきっと人間を恨んでいる。人間という種族自体を滅ぼそうとしているんだ。だから、何がなんでも誰かがあの女を倒さなきゃならない。つまりこれは人類の存続を賭けた戦いなんだ!」
そして、わたしは絶望の中でもなお光を見出そうとして、彼女にこう誓いを立てた。
「だからわたしはルティアとすべての人たちに誓うよ。このわたしが絶対に魔女王エーデナを倒す! だから……。だからたったいまより臆病で人見知りな少女パルメは死んだ。今日からわたしは人類を救う剣士パルメとして生まれ変わりエーデナを討伐する。だから、君もわたしと来てよ! 一緒に魔女王エーデナを倒して世界を救おう! 村人や家族の無念を晴らそう!」
わたしはルティアに手をさし伸ばした。すると、彼女の瞳に光が戻り、強い眼差しでわたしを見返して、この手をとった。
「わかったよ……。君がそこまで言うなら、ボクもパルメと一緒に魔女王エーデナを倒す!」
やはりルティアの心も死んでなんかいなかった。むしろ絶望から這い上がり希望を見出そうとしている。そうだ。こんなところで終わっていいはずがない。わたしは涙が溢れそうになりながらも、彼女の決意を汲み取って、力強くこう言った。
「ルティア。今日からわたしたちはふたりでひとりだよ。いつか必ずふたり一緒に魔女王を倒そうね。必ず、必ず……」
我慢の限界だった。どんなに強がっても子供であるわたしたちにこの状況は残酷過ぎた。ついに涙腺が崩壊し、わたしの瞳からはたくさんの滴が滴り落ちた。それを見たルティアも同じように泣き出した。
「ああ……。絶対に、絶対に倒そう、父さんの母さんのメディさんたちの仇を討とう……。うう……。父さん。母さん。あぁぁ、うあああああああああああああああ!!」
その後はふたり抱き合いながら子供らしく泣きじゃくった。その胸に誓った復讐の炎を滾らせながら。
☆☆☆
数年後。
わたしは魔女王エーデナを倒した。倒したと言っても多くの仲間の力を借りてなんとか倒すことに成功したのだ。それもかなり苦戦したギリギリで、決死の戦いだった。
わたしは仇を討ってから、ルティナとルームシェアをして生活している。それもわりと同性同士の恋のような関係に発展しており、毎日ルティナとイチャイチャして過ごしているのだ。
そう天国という名の死後の楽園の家宅にて。
少女剣士パルメの復讐 藍谷奏太 @aitani
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