第5話

魔道具を使用した後、視界が暗転した。

目を開けると、懐かしき母校に居た。

目の前には順位表。

その順位を見れば、彼女の名前が一番高い位置にあり、次に我が名があった。

そして、目の前にその順位表を見詰める彼女。


「今回も君に負けてしまったな」

「次も私が勝ちます!」

「いや、いや、次こそは君に勝つつもりだよ」


戻って来た!!

私は沸き立つ歓喜を隠しつつ、彼女の聡明な瞳を見詰める。

ある日、彼女は落ち込んでいた。

聞けば婚約者から貰った大事なペンダントが奪われたという。

ああ、やはりかと思った。

彼女は全てを奪われ嘆きながら・・・

今度は必ず彼女を救ってみせるという思いで彼女のに言葉を紡ぐ。


「奪えない物もあるさ」

「え?」


前回は彼女のみで商会の出資をした。

それではチューズ伯爵家に奪われてしまう事を私は知っている。

今回は共同出資者という事で私の名を並べさせてもらうこととした。

そして、契約書に一文を付け加える。

これで今度は彼女から奪う事は出来ないだろう。

少しだけ私の我儘を通すこととした。


「共同経営者となるのだからお互い名前で呼び合おう!」


彼女は何の躊躇いも無く同意してくれた。

歓喜して叫ばなかった私の自制心を褒めてやりたい。


「では宜しく頼む、エンレイ嬢」

「此方こそ宜しくお願い致します。ランスロット様」


卒業を迎える少し前、今回も婚約解消事件は起こった。

前回は卒業後だったが、今回は私の暗躍で少し変わったのかもしれない。

今回こそはエンレイ嬢を助けると意気込みつつ、帝国へ誘った。

彼女は母国に何の未練も無い様に私の提案を受けて帝国へと渡った。

帝国へ到着する前に私の本当の身分を明かすとエンレイ嬢は驚き、『殿下』などと他人行儀な敬称を入れるので、いつもの様に接してくれるようにね願った。

聡明なエンレイ嬢は商会の運営の傍ら、私の仕事なども手伝ってくれた。

何時も何処でも二人で行動していたような気がする。

1年後、エンレイ嬢にプロポーズし、婚約期間を1年として早々に彼女を我が物とした。


「エンレイ」

「何ですか?」

「愛しているよ」

「ふふふふふ~私もです」


微笑む彼女は世界一美しく、愛おしい。

私は思いのたけを込めて語る。


「ここは奪われない」


『かしいフレーズね』と彼女は言った。

その笑顔が眩しい。

そして、私は胸に手を当て彼女に囁いた。


「私のここは君に奪われたがな」


彼女は一瞬驚いた様に目を丸くしていたが、意を理解すると、顔を真っ赤にして『私もですよ』と小声で囁いた。

彼女には時を遡った事は伝える気は無い。

悲しい出来事など彼女には必要ない。

彼女には何時までも幸せに笑っていて欲しい。


「私のここはもう誰にも奪えない」


私はそう囁き、彼女を強く抱きしめて、唇を奪う。


~Fin~


お題:時戻し

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奪えないもの 生虎 @221t2

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