貴方の幸せの為ならば
缶詰めの精霊王
第1話
私たちは幸せだった。あんな事が起こらなければ……
私の名前は
私には彼氏がいる、とっても優しい彼
困った人をいち早く見つけは助け、ある時には捨て猫を拾い里親が見つかるまでお世話したり、私が作ったボロボロの黄色いハンカチをずっと大切に使ってくれたり
そんな彼が私の最大の自慢だ。
今日だって彼と会う約束をしている
この先を曲がればつく……と、そのときスマホからメッセージの着信音が聞こえた
ポケットからスマホを取り出し、誰からのメッセージかを見ると。待ち合わせをしている彼氏の
何かあったのだろかと心配になり、急いで読むと『ごめん、幸。ちょっと待ち合わせの時間に間に合わなくなった。本当にごめん!!』と書かれていた。
良かった事故でもあったかと思ったじゃないとほっとし、すぐさま『了解! でも、あんまり待たせちゃうと帰るよ〜』と、いつもの冗談をいれて返信
倖希が来るまでの間暇だから音楽を聴くためにポケットからイヤホンを取り出し、耳につけて音楽を聴く。曲を聴きながらも、大好きな彼を想いながら塀に背をつけて待っている
ある程度時間が経ち、音楽に浸っていた
ふと顔をあげてみると、こっちに走って向かってくる彼が大きく手を振っているのが見えた。だから、私も彼に手を振りかえした
だが、彼の顔の様子がおかしい。焦っているような感じがする。そして、口が動いている。なにを言っているのか聞こえないのでイヤホンを外した――その瞬間彼が何を伝えたかったのかがわかった
だって暴走してるトラックが私に向かって猛スピードで走ってくる。トラックの運転手も、必死にクラクションを鳴らしているのがここからでも見えるし聞こえる。私死ぬんだなって思った。それと同時に、彼とのたくさんの思い出が涙と共に溢れ出て、まだ生きたいという感情もでてくる
ここから先の記憶は無い、でも死んだことに変わりはないだろう。だって、視界が真っ暗だから。
あれ? でもなんか、声が聞こえる。誰かがわたしを呼んでいる声。
声が聞こえるところに向かって走り続けた。その先には一つの明かりがある。その光に触れてみると、視界
が明るくなった
そう私は生きていて、目を開けていたのだ
目の前には母が居る事に気づいて、我に返った。
「私死んだんじゃ……」
「何を言ってるのよ、貴女は倖希さんに助けられて軽傷で済んだのよ! 本当によかったわ」
母が目に涙を浮かべながら、説明してくれた。
倖希が、私を庇って代わりに轢かれた事、そしてこの病院で入院していることを。
私はひと目でもいいから彼に会いたくて、母に病室ま
で案内してもらい、部屋に入ることにした。
でも、そこに居た彼は私を見ると頭を抱え苦しみだした。私は急いで彼に近寄り、大丈夫? まってね、今医者を呼ぶから、と言いながら背をさすった。
医者が急いで来てくれたが、私を病室から追い出した。
なぜ? と疑問はあるけども、彼の痛みを和らげるのが大事だったので、私はドアの前で彼が落ち着くのを待った。
何時間経ったのだろうか。実際には2、3分だろうけど、私にはそれ以上に感じる。
やっと医者が出てきた、彼とまた話せる。そう思ったのもつかの間、医者からこう告げられた
「倖希さんは、
私は何も言えない。足にも力が入らずそのまま座り込んでしまった。
いまは、誰とも話したくない。顔を合わせたくない……ただ、1人の時間が欲しい。
足に無理やり力を入れ、「誰も、来ないで!」とさけび自分の病室に戻った。
あの時、私がイヤホンをつけてなかったら、クラクションの音が聞こえて、逃げれたのかもしれない。
あの時、わたしが彼を迎えに行ってたら助かった。
病室にもどり、過去の私を責め続けていた。
もう、起きたことなんだから、責め続けても意味ないのに……
意味の無い事の自覚はあるが、やはり辞められない。
だって、大切な人との思い出を自分だけしか覚えてないのが、こんなに辛いのだから。
私は決意した……彼のために、彼と合わないために、彼との思い出を封印し、彼の世界から消えるということを
家族は私のこの思いを聞いて、最初は反対していた。でも、私の強い意志を感じたのか最後には『貴女の人生だしね』って言ってくれた。
本当はね、私ずっと彼の世界で生き続けたい。でも、彼が苦しむくらいなら、私を一生忘れたっていい。
最後くらいは話したかったけどね。
この想いを胸に潜めちょっとずつ、ちょっとずつ彼から離れていった。
通っていた大学を辞めたり、県を出たり。
時には彼に会いたいと思うこともあった。でも、それは無理。わかっていてもやっぱり会いたい……
あれから何年も経っているのだから、私の事を完全に忘れているだろうから、ちょっとだけ、本当にほんの少しだけ彼が私を見ても平気だろう。彼を見るのはこれで最後。
最後か……泣けてくる。遠くに離れて、彼への想いも封印したはずなのに。やっぱり、好きな人との想いは消せないんだなと実感する。
戻ってきたんだ、彼との思い出の場所に。
ここでよくピクニックしたな、あ、あっちの木の下で座った時に、上から虫が降ってきたっけ。
記憶が蘇り、くすくすと笑った。でも、涙も溢れ出てくる。
やっぱり寂しいな。彼が居ないと。
「えーっと、大丈夫ですか?」
誰かの声が聞こえた……
「ご迷惑でなければ、このハンカチで涙拭いてください。」
彼の声だ……そう、私が心から愛した彼の優しい声。誰でも助けてしまう、お人好しな彼。
でも、彼は私の事を覚えてないのだから、私は素知らぬ素振りをする。
「昔の事を思い出して、涙が出ただけです。気遣いありがとうございます。」と言い。お辞儀をした
彼は何かを察したのか、それともただの気まぐれか、静かに隣に居てくれた
顔が見れたし声が聞けた、それだけでも嬉しいのに……
何も喋らず、ただ静かな時間が過ぎた。
「パパぁ~」
その声が聞こえ、静かな時間が消え去った。
「遅かったね~パパは1番に着いたぞぉ」
「パパが早すぎるんだもん! 私遅くないもん!」
「パパったら、早すぎ。ほら ちゃんも怒ってるじゃないの」
私は一瞬にして理解した、彼の奥さんと娘さん、新しい家族だと。幸せに生きているんだね。良かったよ
でも、一刻も彼から離れないと……私泣いちゃうもの。私も彼と幸せになりたかったと。
「あの、私そろそろ行きますね。ハンカチありがとうございました。」そう言ってハンカチを返そうとした、そしたら彼は
「そのハンカチあげますよ。また、涙が出たら大変でしょ? それに、なんだか遠い昔、あなたに似た人からハンカチを貰ったような記憶があるんです。その方が、『黄色いハンカチはね、幸せを願うって意味が込められている』と、言ったんです。ちょうどこのハンカチも黄色いですし、幸せになってと言う意味も込めて。」
あの言葉、覚えていたんだね。嬉しいような、悲しいような。何にも言えない感情が込み上げる
「本当にありがとうございます。じゃあ、もらっていきますね。また、どこかで会えたらご馳走しますね。では、さようなら。」もう、一生会えない彼への最後の別れの言葉だ。
最後だ、最後なんだ。もう、新しい家庭も築いている。もしかすると、私の事を思い出していて、私の事をもう一度愛してくれるって期待してた。
馬鹿だな私……彼には彼の人生があるのに。
私は、これから新しい人生を歩めるのだろうか……でも、彼が言ってくれた、『幸せになって』と。
そうだよ! 私も幸せにならないと。今から恋をして、家族になって、子供も沢山出来て……
でも、最後のわがままを言わせて。今日だけは、貴方の事を想わせて。
今までの想いが、涙になって出てくる。止めようとしても止まらない。最後には笑って『新しい幸せをみつけるね! ありがとう』と言えた。もう充分だ
月日が流れ、私の寿命も尽きる時がきた。
私には素敵な旦那さんができ、子供が4人生まれ、孫もいる
幸せだ、本当に幸せだ。あの時、彼が幸せになってと言ってくれたから前に進めた。
だから、言わせて……
『次は貴方と一緒に幸せになりたい』
END
貴方の幸せの為ならば 缶詰めの精霊王 @kanzumenoseireiou
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