第2話

僕の話をしよう。


僕の名前は藤岡蓮。

僕の母は日本人で父はドイツとカナダのハーフ。

英語圏でも呼びやすいように「REN」と名付けられた。


両親とは血が繋がっていない。

それは物心つく頃から母である、真子に教えて貰っていた。真子は保育士として園に勤務している保育士。僕が主人公の絵本を作り、僕という人間についてよく教えてくれていた。真子の務める保育園に一緒に登園し、真子と一緒に帰る。真子は元々正社員で働いていたが、クラス担任をすると十分な僕との時間が取れないからと、僕が通うようになってからはパートとして働いていた。


父であるニコラスは、高校の英語教師。自由人なニックは派遣社員として働いていたが、真子との結婚を機に正社員として働き出したらしい。

僕が小学校にあがる頃には、日常会話を英語にして少しでも楽しく勉強を、と色々工夫してくれていた。ニックは日本が好きで16歳から日本で暮らし、真子と結婚したことにより日本国籍を取得し、ずーっと日本で暮らすつもりらしい。時々よく分からない寺や神社へ行く程の日本マニアだ。真子の事もこっちが恥ずかしくなるくらい「可愛い」だの「愛してる」だの愛でている。真子は普通の日本人って顔立ちで特に可愛いわけでもないが、ニックにとっては最高らしい。


そんなとんでも夫婦に育てられた僕は、大きな反抗期もなくすくすくと成長していた。


真子は施設育ち、ニックは両親の離婚でどちらとも祖父母はおらず、基本的に両親と3人の時間を過ごすことが当たり前だった。しかし、僕が10歳の頃に弟の凛「RIN」が生まれた。2人の子どもらしく、栗色の髪に真っ黒な目のハーフらしい顔立ちの男の子だ。初めて凛を見た時、殺してやりたい気持ちになった。僕の平和を脅かす、新たな生命体を目の前に、初めて抱く負の感情。凛を大切そうに抱く真子を憎いとさえ思った。しかし2人はそんな僕を見捨てず、常に寄り添い気づけば弟も僕を慕ってついて歩いてくるようになった。


休みの日には多忙な両親に代わり、ご飯を用意したり、2人で公園へ出掛けたり。僕の世界が真子とニック以外の誰かを受け入れた初めての瞬間だった。


そしてこの春、僕は高校へ進学し凛は年長になった。真子はこの数年で趣味で書いていた絵本がヒットし、保育士をやめて絵本作家になっていた。ニックも務めていた高校の系列の大学から声が掛かり、教授として大学へ通う日々。忙しい両親に変わって自然と凛の世話をやくようになっていった。


「にぃに!」


保育園へのお迎えも、真子の務めていた園だったので園長先生に許可をもらい僕が行っている。


「ただいま」


築20年くらいの比較的綺麗な中古物件を購入したのは昨年。真子の絵本作家としての仕事が軌道に乗り始めた頃だ。


「おかえり!蓮、凛のお迎えありがとう」


前髪をかきあげ、部屋着の真子がへろへろになって出迎える。


「園長先生が真子の事心配してたよ。ちゃんと母できてるのかーって」


「あぁ...。蓮の時と子育ての力具合が違うってこの前も言われたなぁ」


僕は溺愛されて育った自覚があるくらい、周りの大人に大切に育てられた。真子はもちろん、保育園の先生方は僕の事情を知ってる分、寂しくないようにとプレゼントをくれたり、一人でお残りになった時も真子の仕事が終わるまで遊び相手になってもらったりととても世話になった。


「凛だってまだ6歳なんだからちゃんと親やりなさいねって言ってたよ。」


制服を、脱ぎハンガーへ。

動きやすい服に着替えながらも傍らで凛への着替えの、声掛けと手助けを忘れない。


「だって、つい蓮がしっかりしちゃった分甘えちゃうって言うか。もう凛は2人目だしついつい…ねぇ」


目の下にくまを作りながら仕事をする真子。

僕が小さい頃は、仕事で無理をすることはほとんどなかったから最近の真子を見てると心配になる。


「まぁ、僕もできることはやるけど、絵本(仕事)もほどほどにしてよね。倒れるよ?」


洗濯物をまとめて、洗い物をだし流れるように凛を洗面所へ誘導する。その後ろ姿を真子は愛おしそうに見つめる。


「蓮。あなた、本当に部活入らなくていいの?私が頼っちゃってるのが悪いんだけどさ。やりたいことがあったらやりなよ?」


高一の4月。まだ部活を決めかねている人もいる中、僕はどの部活動にも入るつもりはなかった。


「いや、いい。やっぱりピアノだけで」


3歳の頃、真子に教えられ始めたピアノ。

保育士だった真子はそれなりに弾くことが出来ていたので基礎を教わり、その後は近所のピアノ教室へ通っていた。コンクールに発表会。人前で弾くことは程よい緊張感と高揚感で快感だった。


「部活やるとピアノの時間減るし、今年はちゃんとコンクールにも出たいから部活はやらない。指、怪我したくないし。」


「...そっか。蓮が決めてそうしたいなら私は応援するからさ!なんでも言いなよ。相談のるからね。」


「うん。」



帰る家があり、やりたいことが出来て、可愛い弟には頼りにされて。僕は幸せだった。

そう―――

幸せ、だったのだ。



そんな僕の物語を聞いて欲しい。


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星空と沈まぬ太陽 @ryuya0110ruka

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