第5話 彼は勝利を掴み取る
長かった…。ここまで来るのに百近く死に続けた。だがようやく掴んだ大津波から皆を守る方法を。
「教授! 今すぐ戻ってきてください!!」
無線から助手の声が聴こえてくる。私は今噴火直前の火山の前に来ていた。
もちろん大津波の原因となった無人島の火山の前だ。防護服腰なのに熱が伝わり、汗がダラダラと出てくる。
後もう少しで噴火する。既にこの無人島付近には避難勧告が出ていた。
「それは無理だ。誰かがこの穴に入り装置を起動しなければならない」
「そんなもの死刑囚にでもやらせればいいんですよ!!! ……貴方に…死んでほしくない」
「それじゃあ細かい調整ができない。私が行くのが最適解だ」
私は火山の中で一番奥まで入ることができる穴の中へと潜っていく。
長いループ期間で私はとうとう火山の噴火の原因を突き止めていた。
そして噴火を止める装置も作成済み。だがこの装置には大きな問題があった。
誰かが火山の直ぐ側で装置を起動するのだが、装置の起動時に防護服を貫通する毒ガスを出してしまう。
……防ぐ方法は現状存在しない。
「助手君。最後の頼み。聞いてくれるかい」
「…………はい」
渋々といった様子だがようやく諦めてくれたようだ。
私は今までの全てを話す。今まで何度もループし続け、大津波の対策を練っていたことを。
「っとまあこんな事があったんだ。嘘だと思うかもしれないが本当のことだ」
「……俺は、信じますよ」
助手の力強い返答に涙が出そうになる。初めて信じられた。信じてくれた。
…もう後悔はない。死ぬ覚悟はできている。
「…ありがとう。それでお願いなんだけどね。私の研究室の金庫。あの中に私の遺書がある。内容は津波の恐ろしさやその対策を纏めたものだ。私が死んだ後、世に公開してほしい。暗証番号は202507だ」
「分かりました。……教授。お疲れ様でした」
「ああ。……お疲れ様。ありがとう」
その言葉を最後に助手の通信が途絶える。穴の深部に到達したのだ。
後はこの装置を起動するだけ。今までの思い出がフラッシュバックする。
多くの絶望を味わった。何度も挫けて泣き続け、それでもようやくここまで辿り着くことができた。
そして最後に浮かぶのは…存在しない娘の顔だった。
「私は……俺は!!! 成し遂げたぞおおおお!!!」
とある無人島にある火山の噴火は止められた。一人の教授の犠牲のおかげで。
助手が出した教授の本は飛ぶように売れた。
まるで実際に起こったようなリアリティがあり、民衆に津波の恐怖と危険性を認識させてくれるものだった。
教授の本に登場していた架空の大津波。
2025年の7月、大津波は起きなかった。
彼は抗い続ける この身尽きるその時まで テマキズシ @temakizushi
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