私達の先生
「テメー誰だよ‼てか何でそんな遠くに居るんだよ‼」
中です。不良の言う通り、小林先生と思しき人影は一向にコチラに近づいてくる気配はありません。その理由は何となく分かりますが。
「嫌です‼アナタみたいな不良は何をするか分かりませんから‼とにかく私の生徒から離れて下さい‼」
この状況においても君子危うきに近寄らずの精神の先生。ここまで来ると尊敬の域です。
「ゴチャゴチャうるせえんだよ‼もういい‼テメーが先公だか何だか知らねぇが、コイツ等から金を巻き上げてやる‼」
ギロリと私達を睨む不良達。このままではカツアゲされるのは明白です。私は必死に叫びました。
「助けて‼小林先生‼」
すると、その声に呼応する様に、小林先生と思しき影がコチラに向かってタッタタタ‼と走り込んできました。近づいて来るとやはり小林先生なことが分かり、その必死の形相は私達でもちょっと怖いです。
「だから‼私の生徒に手を出すなって言ってんでしょうが‼」
そこまで言うと先生は走り幅跳びの様に飛び上がりました。そのまま凄い跳躍で叫んでいた不良のところまで飛んで行き、慌てふためく不良に目掛けて右足を突き出します。
「シュワ‼」
”ガン‼”
右足で不良の顔面に飛び蹴りをかます小林先生。その姿は絵になります。
「が、がぁあ……」
叫んでいた不良は変な声を上げてドン‼と仰向けに倒れました。倒れた姿を見ると白目を剥いていますし、鼻からは鼻血も噴き出しています。
不良を蹴った後、クルリと縦に一回転した小林先生は、スタッと地面に着地して、今度は二人の不良を睨め付けます。不良の二人は明らかに怯えている様ですが虚勢を張る元気はまだ残っていました。
「て、てめー‼やりやがったな‼」
「ぶ、ぶっ殺……」
一人の不良がその言葉を言い終わる前に、小林先生は素早く動いて、ガッと二人の不良の首を右手と左手で掴み、そのままグイッと持ち上げました。不良達の足が宙に浮いていたので、小林先生が凄い力持ちだということが判明しました。
「は、離せぇ‼」
二人の不良はジタバタしましたが、小林先生の手はビクともしません。そうして不良達を睨め付けながら、小林先生はドスの効いた声でこう言いました。
「良いですか、あそこで伸びてる不良を連れて帰りなさい。あとこのことを教育委員会とかにチクったら、今度は首の骨を折りに行きますからそのつもりで、良いですか?」
『……は、はい』
不良達は命の危険を感じたのか、二人揃って元気の無い返事をしました。
こうして不良二人は気絶した不良を担いで帰り、私達は事なきを得ました。
「はぁ~、怖かったぁ……あの子達、学校まで乗り込んで来ませんよね。そうなれば私は社会的に抹殺されるかも……超怖いんですけど」
高校生が去ってから怯え始める小林先生。やはり自分の保身のことを考えてしまうのが小林先生らしいですね。
「先生ありがとうございます」
私がそうお礼を言うと、小林先生はようやくこちらを向ていくれました。そして小林先生は二歩下がり、怯えた表情のまま私達にこう言いました。
「べ、別に私は職務を全うしただけです。生徒を守るのが先生の仕事ですから、それよりも学校が終わったらすぐに帰らないと駄目じゃないですか、たまたま私が通りかかったから良かったようなものを、こ、今度から守りなさい……いや言い過ぎました、守ったらどうでしょうか?」
やはり小林先生は強く言うことに抵抗があるらしく、この状況においても言う言葉に非常に気を付けています。可愛らしいですね。
「先生‼あのライダーキックカッコ良かったです‼」
発子ちゃんがそう言うと、先生は真顔になって否定を始めました。
「あれはライダーキックではありません、400文キックです。私の尊敬する先生が使うキックです。以後間違えないようにお願いします」
どうやら小林先生にも譲れない物があるらしいですね。
小林先生は保身を大事にするけど、実は私達のことを一番大事に思ってくれている先生だということが分かりました。私達はこの先生の元でスクスクと成長していきたいと思います。
「ちょ、アナタ達、あんまり近づいて来ないで下さい……ひぃっ」
自分の生徒を恐れる先生 タヌキング @kibamusi
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