第弐話 魔物と妖
「…っ!はぁっ!!」
森の中、鋭い物が空気を切り裂く音と共にガコンッと言う大きな音が響き渡る。
十歳に満たない
的に当たるたび、衝撃が空気を震わせる。
暫く続けた後、
「ぁ〜疲れた、…だいぶ慣れて来たな。」
伸びながら呟いた独り言に、返事する声が一つ。
「お疲れ兄さん。はい、タオル。」
「あぁ、レンカ。ありがとう。」
声の主は彼、『タケラ』の実妹である『レンカ』。彼らは同時に農民の子供として生を受けた双子であり、前世から名前を受け継いだ転生者だ。
受け取ったタオルで汗を拭いていると、レンカが声を掛けた。
「兄さん、もう慣れた?魔力。」
レンカの言う魔力とは、二人が転生した世界の最も一般的な力である。この世界のそこら中に存在し、その魔力を変換する事で魔法と言う力を行使することができる。便利なため、様々な場面で使われている。
「ま〜そこそこだな。正直魔力
「まぁ前世の兄さんは割とおかしい身体の造りしてたからね。同じ感覚だと難しいよね。」
「まぁな〜。魔力で無理矢理動かしてるだけだし、違和感はあるな。」
その場で跳ねて調子を確かめながらそう言う。魔力を身体に流してから跳ねると、数倍高く跳んだ。
衝撃を吸収しながら着地すると、レンカが感心した様にタケラを見ていた。
「凄いねぇ。前より跳んでない?」
「んなわけないだろ。前世の方が跳べてたわ。」
「ほんとにおかしいんだから…。」
レンカが
暫く会議した後、そろそろ夜になるからと家に帰ることにした。
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「ただいま〜!」
「ただいまー。」
ぼろぼろな家の扉を開けて入る。
かなり古い見た目をしているのは、昔の民家を今も修理しながら使っているからだ。
対照的な挨拶と共に入ってきた二人に、反応する声もまた二つあった。
「あぁ、おかえり。」
「おかえりなさい二人とも。また遊んでたの?元気だねぇ。」
若い声。
彼らは今世でのタケラとレンカの両親だ。赤髪の男性が父親のケイン、緑髪の女性が母親のイナで、二人で農業をして生活している。
ケインとイナは二人が転生者である事を知らず、イナの発言は鍛錬しているのはただ遊びに行っているだけだと思っている故だ。
ちなみに、レンカは二人に特に懐いている。
「うん、二人で遊んでたの。」
「遊ぶのはいいけど、奥の森は危険だから行っちゃだめよ?」
「危険?」
「魔物が沢山居るの。」
「魔物?」
魔物と言う言葉にタケラが反応する。数年この世界で生きて来たが、魔物と言う存在についてあまり詳しくは無い。
この機会に聞いてしまおうと、知らないフリをして話を聞く。
「魔物はそうねぇ…詳しい事は私にも分からないけど、魔力がいっぱい集まってる所から生まれるんだったかしら?」
「あ〜、そんな感じだったかもな。生まれる過程なんて平民にはなんの関係も無いから忘れてたよ。」
イナの話にケインも乗っかる。
ケインも言った様に、平民は教養の面が全くと言っていい程発展していない。日々の生活の為に仕事を優先した結果、文字の読み書きがまともに出来ない事もザラにあるらしい。
高度な教育を受けられるのは名のある家系か、一般人から貴族になった者くらいである。
平民である二人が魔物について知らなくても仕方ないだろう。
「ふぅん。魔物って強いの?」
「それは個体によるのかな?いつも畑とかに出てくる猪の魔物はそんなに強く無いのよねぇ。」
「俺も知ってるのだと、
「何それ怖い。倒せたの?」
「いや、石龍は滅ぼした街に居座ってて、死霊王は冥界に居て手出し出来ないとかなんとか。」
一区切り話したところで二人がふっと息をついた。そしてイナがレンカの頭を撫でながら呟く。
「まぁ私達には関係ない話だけどねぇ。そんなのに出会ったら何も出来ないし。そんな奴も居るから、森には近づいちゃだめよって話。さ、ご飯にしましょうか!」
話を切り上げて夕食の準備を始める。
表面上は落ち着いていながらも、タケラの心の中では興味が渦巻いていた。
❖❖❖❖❖❖❖
「兄さん、さっきの話どう思う?」
夕食後、二人は部屋で話していた。
関係無いが、まだ数年しか生きていない子供の為部屋は同じだ。
「そうだなぁ、別に戦闘狂って訳では無いけど…戦ってみたいかもな。魔物。」
「まぁ兄さんなら余裕でしょ。」
「くははっ、それはモノによるだろ。さっきの話みたいな奴らは流石に今じゃ勝てないな。」
テキパキと、会話の片手間に寝る準備をする。平民なので特に準備するものは無いのだが。
「どうする?魔物、戦う?」
「明日行ってみるか。どのくらい通じるのか分からないから慎重に、だな。」
敷いた布団に転がりながらタケラが言う。同じく隣に布団を敷いたレンカも飛び込んで来る。
「…魔物ってなんなんだろうね。妖…とは違うよね。」
「ま〜予想だが、魔力から生まれた生き物だろうな。妖と違うのは、怨念の類では無いこととかか?」
「魔力と妖力は違うのかな。前世だと
「あれは妖力とか言う人の悪意を力に変えた物だからな。結果は同じでも自然から発生する魔力とは根本から違う。ほら、祓魔師の奴ら性格悪い奴とか多いだろ?」
「…そうだね。何回か衝突もしたし。」
レンカが思い出したくない様に頭を抱える。前世でも外国では宗教による争いがあったため、
その中で何度か本気の殺し合いもあったのだが、結果的に和解して親友となった人も居た。
「実際分からないことだらけだけど、魔力は確実に俺らを強くしてくれる。これを使いこなせれば、アイツにも…。」
タケラの頭には、翠青色の女の姿があった。この世界に転生して数年、二人はあの日の事を一度たりとも忘れた事はない。
レンカが悔しそうに唇を噛む。
「明日は森だな、もう寝るか。」
「…うん、そうだね。私も強くならなきゃなぁ。」
「レンカは…違う意味で強いな?」
「普通に強くなりたいんですぅ。」
「そしたら俺の存在意義がなくなるから辞めてくれ。」
「無理。」
それだけ言うとレンカはモゾモゾと布団に潜っていった。タケラはそれを見送ってから、自分も布団に潜って眠りについた。
妖斬の兄妹、異世界へ転生する ゆーれい @unknown0325
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