「黒炎の血」

@Adolfo

1 覚醒

シーン1:大学のある日 — 別の時代の残響

夕暮れの太陽がメキシコシティの大学の壁をオレンジ色に染めていた。学生たちは教室や図書館の間を急ぎ足で歩いているが、イツコアトル・レイエスはその日常の喧騒から切り離されたようだった。彼の足取りは確かだが、心は何世紀も前へと旅していた。


木陰の下を歩きながら、彼は一瞬目を閉じた。すると突然、視界が鮮明になった。煙と火薬の臭いが漂う戦場、古い武器の激しい音。彼は過去の自分、伝説の戦士ツィラカツィンがスペインの侵略者に立ち向かう姿を見た。鼓動が激しくなり、怒りと正義の熱い感情が彼を包み込んだ。


だがその幻影の中で、優しい声が彼の思考を遮った。


――「イツコアトル、大丈夫? ぼんやりしてるみたいだよ。」


隣に座ったのは、メキシコの伝統に情熱を持つ同級生のマリナリ・クルス。彼女の瞳は理解と共感で輝いていた。


――「説明するのは難しいけど…まるで魂の一部が別の時代に囚われているみたいなんだ。」


マリナリは隣に座り、古いコーディックスを差し出した。


――「祖母は、先祖の霊は死なずに時を超えて話すって言ってたよ。たぶん、あなたはその架け橋なの。」


シーン2:血の呼び声 — 体育館での訓練

その日の夕方、大学の体育館でイツコアトルは激しくトレーニングを始めた。攻防の動きはまるで見えない師に導かれているかのように流れる。彼の体は、この人生で学んだことのない技術を覚えているかのようだった。


サンドバッグを叩く乾いた音が静寂を破り、息遣いが深く一定になる。


そこへ、妹のルナ・モラレスが入ってきて驚いた表情を浮かべた。


――「そんなにエネルギーがあったなんて知らなかったよ!」


彼は笑みを浮かべながら答えた。


――「これはただの運動じゃない。備えなんだ。大きなことが起きる気がする。」


ルナは近づいてタオルを差し出した。


――「じゃあ、あなたがサムライになるってこと? まあ…できるのはあなただけだけどね。」


二人は笑い合ったが、その笑いの裏には重い責任があった。


シーン3:全てを変えるチャンス — 交換留学の通知

その夜、イツコアトルがノートパソコンの画面を見ると、交換留学の合格通知が光っていた。


彼の指先はメッセージを読みながら震えた。


――「日本、侍と戦士の国。これはただの夢じゃない…使命だ。」


彼はマリナリの言葉とツィラカツィンの力を思い出した。


――「これが、俺の歴史を取り戻す第一歩だ。」


シーン4:遺産の重み — 就寝前の思索

寝る前に、イツコアトルは真っ暗な天井を見つめていた。黒き炎の復讐心が彼の内側で燃え盛っている。征服の記憶、不正義、そして滅ぼされた自分の民族の姿。


両親や妹、友人たち、そして知らず知らずに過去の重荷を背負っている人々を思い出した。


決意を込めて静かに呟いた。


――「俺は自分のためだけじゃない。声なき者たちのために戦う。俺の命は、過去と未来を繋ぐ架け橋だ。」

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