未来の分岐点

@traumerei-

第1話 隣国の内的侵略

21XX年――今日も働かねばならない。私が”生きるため”に……何のために生きているのだろうか――


ここでは奴隷階級として、働かされている。

「何をやっている! もっと早く動け」と言って

鞭を振り回す男がいる。

怖い……何かをやらかせば次は自分が標的になる。できるだけ目立たず生きるしかない。


今日も長い一日が始まる。


「おい、聞いたか」

隣で一緒に働いている人に話しかけられる。

「100年前のこの国はこのような奴隷階級などなかったらしいぞ。お前もよく知っているあの爺さんに聞いたんだ」

時々私らのことを見に来てくれ(監視役だろうが)、隠れて食事を少し分けてくる爺さんがいる。


どうでもいい……必要なのは今をどう生きるかだ


続けて話しかけられる。

「今でこそこの国は経済停滞国として名をはせているが、昔は相当に裕福だったらしい。技術も発展していて、衣食住に困ることはなかったんだと、今と全然違うよな。なんでこういうことになったんだか、本当に意味わかんねー」


そんなこと聞いたってどうしようもないだろ……


「ははっ、確かに。だって逃げれる気がしないもんな。ここ島国だし」


もう私は行く。また遅れて、折檻され拷問されるのは嫌だ。


「……ああ、そうだな。じゃあ、俺も行くわ。違う場所だけどな」

そう言って、去っていった。



今日も働いて、明日になって働いて、働いて、働いて、働いて……”折檻”されていた。



「おい……お前あいつと親しかったんだろ。監視役からあいつが逃げる前にお前と話しているところを目撃したと証言があった。さあ、話せ」


私は、知らない……


「そうか、やれ」

その瞬間、一枚、小指の爪をはがされた。


「お前がその隠し事いつまで続くか、見ものだな」


だから知らない……


「おい、もう遠慮なくやれ。お前が平気そうに見えても、冷や汗垂らして、おびえているのが手に取るようにわかる」


騒ぎ立てたら余計ひどくするくせに……


「はあ、あたりまえなことを言うな。お前の階級は奴隷、いつ死んでもかまわないんだからな。これでもお前をまだ医療室に入れてないだけましだ」


医療室では、上流階級が延命することを目的に新鮮な臓器を今でも必要としている。


爪がどんどん剝がされていく。

「指の爪は終わったな。次は足か、それとも……


にっこり歯を見せて笑う。


……一本ずつ壊して最後に――」

ノックの音がした。

「教官、入ってもよろしいでしょうか」


「ええー、今すごくいいところなのに。こいつをどう絶望に落とそうか考えてたのに……まあ、入っていいよ」


「失礼します……報告します。A153番をダム近辺で発見。即時処理をいたしました。調べたところ、内通者はいないと結論づけられました」


「こいつはー?」


「関係ないと思われます」


「そんなのわかんないじゃーん」

椅子の背もたれによりかかる。


「テトラ軍司令による判断です」


「……なら仕方ないかー。後であいつに恨まれるのも嫌だし……君良かったねー。公明正大で有名なテトラ様による采配で解放でーす」


……


「えー、感謝の言葉が聞こえないんだけどー。こいつ殺してもいい?」


「いくら教官でも、だめです。重要な資源ですから」


ありがとうございます……


「はあ……君は奴隷セクターまでの運搬よろしく。早くいって、こいつ臭いから。一緒にいたくない」


「はっ」

敬礼のポーズが見えた。


「お前、さっさと私についてこい」

私は、足を引きずりながら出ていった。



――また働くことが始まる、働いて、働いて、働いて、まるで”永遠”に続くかのように――



今日は珍しく爺さんがいた。心なしかさらに老け込んだように見える。

話しかけに行った。もちろん飯のためだ。


……こんにちは、お久しぶりですね


「おお、お前さんか。今日も持ってきたぞ。ほれ」


……ありがとうございます


「本当に久しぶりじゃの」

爺さんは、私の手を見て、目を一瞬だけ丸くした。

「これは……そうか」


ただただ爺さんは何も変わらず見ていた、いやどこか遠い目をしていた。


――いつもなら、軽く言葉を話すだけで終わるが……今日は……



どうして……どうして……私たちはこうなのでしょうか



どうしても言葉が止まらなかった。枯れていたと思っていた涙が出た。

「……いきなりどうしたんじゃ」

爺さんは戸惑ったように言った。



逃げた彼から100年前は”奴隷階級”などなく、豊かな国であったと聞きました。なぜこうなったんでしょうか。私は、怒るにも怒れない。先人たちの作った歴史すら知らないのだから……だからこそ私は知りたいのです。今、私がこうなっている”現状の理由”を……



「……知っても意味がないとしてもか?」


はい


「わかった、話そう。これは100年前の話、わしがまだ生まれる前の話じゃ――



某国 20XX年


世界は新たな段階へと進んでいた。

先進国と呼ばれる国では、多様性、公平性、平等性が重視されつつあった。経済も円熟され、全体というよりは個人主義を重視されようとしていた。


発展がいまだ未熟な地域では子供の出生率自体が地域としての活力につながることもあってか、人口は爆発的に増え、逆に先進国のような国では個人でも生きていけるためか、なかなか出生率が上がるどころか下がっていた。そのため将来的に必要となるのが労働力であった。


そこで目を付けたのが、ほかの国からくる労働者だ。自分たちの国は人がいない。それなら人口が多いほかの国から補おうとするのは明白であった。某国政府はこの政策を促進させようと躍起になっていた。


「この国はほかの先進国などと比べて、多様性が遅れている。ほかの国を見習うべきだ。そうすることでほかの国へアピールすることができる」

世界的にも理想を描くことに意識が向いている現在、民衆への反応も悪くなかった。


だが、この政策には穴があった。まず某国では、ほかの国で定められているようなスパイを防止する術として不完全であり、情報が簡単に盗み出せ、他国から干渉しやすい下地があった。


それもあり、政策を一気に進めたのも良くなかったのだろうか。

いつの間にかに、某国はアイデンティティに一律性がある隣の民族へのいいように作り変わっていった。


某国の企業売買、土地売買などによって急激に某国民の上層部でのたち変わりが激しくなった。

ある企業では、スキャンダルがあったが、裏では糸を引いていた何者かがおり、弱体化された。また広く開いている土地には買い占め、新たな商業を始めた。それで新たな文化が違う土地が生まれた。多文化共生か統合か、どちらにせようまくいくためには、私たちの意識だけではなくあちら側の意識も必要であった。


政策によって、隣国の労働者が某国の国民の1割に達そうとしているとき、ついに行動を始めた。


「私たちは経済、国の中心にも多くに関与している。だから参政権をよこせ」……と


某国民は揺れた。ある者は、「あちらの国では侵略を考えてる」という意見や「だが、もしいなくなってしまったのなら今ある豊かな国がなくなるのでは」という今では愚かな発想……いやある一定の人々には利益がある。某国の一部の上層部では隣国での権益においしい思いをしていた。


選挙でその意見を決めた。結果は、認める。多数であった。これで政治に全員が参加することで素晴らしいものになると確信していたのだ。


……そこから地獄が始まった……


完全に某国民である利益がどんどん吸われていく制度を作っていった。隣国は狡猾に、金、女(男も)様々な手を使って、政治家を掌握し、影響力が高くなっていた。


治安悪化したのはいうまでもない。そのような制度によって重税、福祉の限界――国民は貧しくなった。どこかかしらでも殺人、強姦、それにヒトの泣き声、銃声が聞こえていた。


後は考えなくてもわかるだろう。さらに政府は他国から労働者を引き入れ、国民の力をそいでいった。最終的にはこのような奴隷制度を作られるまでに至ったということだ。



――なんでこうなってしまったんじゃろうな……わしも当時は愚かにも多様性は素晴らしいものだと考えていたのじゃがな。その時は年齢が足りなくて選挙には行けんかったが、もし投票できるなら、わしも愚かなほうじゃったじゃろうな。でも確かに経済の面で見たら八方塞がりであったのは確かだったんじゃ」


そうか……でもなんで爺さんと俺も同じ某国民なのに待遇に差があるんだ。


「わしは、遠い血筋に隣国の血筋が入っておったからの。……もしかすると、それすらも考えてたのかもしれんな。相当昔から、スパイが入っていたと聞いておる。それで奴隷制度をなすときに、ある程度の秩序を保つために、国民をさらに分断させたのじゃろう」


……


「わしがご飯を持ってくるのも、罪滅ぼしの意味も含んでおった」


……そうか


……


……


「おい、もう休憩の時間は終わりだ。早く働け」

爺さんではない監視役がやってくる。


……爺さん、またな


「……すまない」

爺さんは顔をうつ向かせていた。



――また俺は働く――






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