彼女は

白川津 中々

◾️

彼女は女の匂いをさせていた。

いつも見る講義、席は決まって一番前の三列目。今日こそは話しかけようと、勇気を振り絞り「おはよう」と声かけると、有象無象に返す内容と同じ、「おはよう」で完結する。

もっと僕を見てほしいのに、声を聞いてほしいのに、彼女はあらぬ方向を見て、声を出す。それが堪らなく、耐え難く、僕は彼女と話したいという記憶ができあがっただけで終わる。それだけだ。


例えば今日、彼女を無理やり酒の席に誘い、男女の関係となったらどうなるだろう。彼女にって、僕は特別になれるだろうか。なるかもしれない。一歩踏み出す勇気が、人生を変えるかもしれないのだ。


けれど、僕は踏み出せなかった。


注文した酒が、重なっていく。

そのグラスの数だけ、僕自身の意識が、薄らいでいった。


彼女は何処だろう。

居場所も姿も、分からないままでいる。

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彼女は 白川津 中々 @taka1212384

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