第6話
5.
革命軍の本陣内で大きな爆炎が上がる。その様子を遠方から双眼鏡で眺める騎馬の一群がいた。彼らの名前は通称義勇軍第101騎兵隊。しかしその正体は大ルッシャ連邦の諜報機関である内務省人民委員会直轄の非合法工作部隊、第68特別ユニットである。
双眼鏡の中では地獄が広がっていた。破片の直撃を受け激痛にのたうち回る革命軍の兵士たち。呆然とする革命軍主席。そしてピクリとも動かなくなった北方連合情報部の工作部隊員と思しき者たち。本来であれば不幸な事故に見せかけて王女もろともにひき潰すつもりであったが、手間が省けたなと双眼鏡を覗いていた大佐は考える。そしてそのままぐるりと見渡し、ポツンと王女のものと思しき手首が落ちているのを発見する。
「それにしても、哀れなものだな。」
そうぽつりとつぶやく大佐。それは、長らくこうした非合法工作活動に従事してきた大佐にしては珍しい感情の発露だった。後ろに控えていた副官も、沈鬱そうな顔でうなずくといった。
「は……。そうするしかなかったとはいえ、敵ながら実に見事な突撃でした。ですが、友軍の損害も甚大です……。これは後始末が大変ですな」
と。よく見ると握りしめられた副官の両手が小刻みに震えている。何せ、革命軍に参加した有力貴族のほとんどが討ちとられ、南方商業都市同盟からの義勇軍はほぼ壊滅、北方連合からの「義勇軍」も3分の1強を失う大損害だ。政治的なごたごたは免れまい。本国からの譴責を恐れているのかもしれない。そして、連邦においてはこの場合の譴責とは死を意味する。
大佐はそうだな、といって副官を下がらせる。そして副官の背中が見えなくなったところで手近な岩に腰掛けタバコを取り出し、深々と吸い込む。
実のところ、実働部隊の指揮官に過ぎない副官には知らされていないが、この件で自分たちが譴責される可能性はない。なぜなら、本国にとってこの結果は織り込み済みのことだから。王国の豊富な資源と冬にも凍らぬ不凍港を求める連邦にとって、王国を弱体化させるという目的を果たした革命軍は既に価値を失っていた。そして連邦が王国に侵攻すれば必ずや破壊工作に現れるであろう北方連合の工作部隊や、遠征が可能な南方都市同盟軍というのは目障りであった。だからこそ、王女と彼らでつぶしあわせたのだ。その予想される進撃路に革命軍の有力貴族や、南方商業都市同盟、北方連合の義勇兵を配置して。分析された王女の能力からして、必ずや部隊をまとめ上げ、少なからずの打撃を与えてくれるだろうと期待して。
その点王女は期待以上の働きをしてくれた、と大佐は思う。
だからこそ哀れにも思うのだ。
分析された王女の性格からして、善良で、それなり以上に優秀。最期の突撃がいかに無謀であるか理解できなかったはずがない。民を道ずれにすることにはそれなりの葛藤があっただろう。だがそうせざるを得なかった。民と、自身の尊厳を守るためには。連邦の期待どおりに。
哀れなものだと頭をゆるゆるとふる。
それに、と苦笑する。王女は気づいていただろうか。この革命自体連邦の関与によるものだと。
きっかけは王女の政策。上級官吏に対する平民層の門戸開放と、民を弾圧する貴族の排除だ。その発想自体は悪くない。大佐はそう確信している。何せ、大佐の属する連邦自体、革命によって貴族の圧政を廃し、従来の平民階級を取り立てることで圧倒的な成長を遂げた国家なのだ。その政策の有効性は他の列強よりもよく知っている。それと同時に、そうした政策がいかに貴族をはじめとする既得権益層に嫌われるものなのかというものをも知っていた。そこを大佐とその部下たちはついた。
手始めに、門戸開放について貴族たちにこれらの政策は貴族の先祖代々の権利を侵害するものと吹き込んだ。さらに、平民層の取り立てによって職にあぶれた貴族の次男三男たちに、このままだと国家が薄汚い平民どもによって取って代わられると騒ぎ立てた。そして圧政を敷く貴族の排除については王室による貴族の統治権への不当な干渉だと説いた。また恣意的な処罰の可能性があると危機感をあおった。そして貴族の王政に対する不満不信が高まり、隔意が叛意となった時、すべての準備は終わっていた。
まずは王国内の適当な男を前王の庶子として擁立。そして内応した貴族に王女の命と称して大増税をかけさせる。さらに、王直轄軍に扮させた傭兵団に村々を襲わせた。民衆の間に王政への憎悪が高まるまでそう時間はかからなかった。
後は満を期して用意した庶子と義勇軍を登場させるのみ。民衆はこぞって革命軍を救世主と賛美する。貴族はかねてからの約束通り革命軍へと続々と降った。これを取り締まるべき憲兵隊は動かない。なぜなら憲兵隊の管理職は軒並み貴族が占めているのだから。彼らによって貴族の不服従の報告は握りつぶされ、直訴しようとするものはその者こそ反逆者として処罰された。
王室が異常に気付いて直轄軍を派遣してももう遅い。勝負ははじめから決まっていた。
つまるところ王女には致命的に運が足りていなかったのだ。大佐はそう考えながら煙を吐き出す。
もし、連邦の手がここまで長くなければ。もし連邦の介入を教えてくれるような、大貴族の友人が王女にいれば、王女は――幸せに生き、幸せに死ねただろう。でも、そうはならなかった、ならなかったのだ。だから――この話はここでおしまいなのだ。
「悪く思うなよ。これも戦争だ。」
大佐はそうつぶやくとタバコを投げ捨て立ち上がる。これから王国には苦難の時が訪れるだろう。だが、祖国がそれを望み給うたのだ。大佐はもう決して振り返らなかった。
その背中を、無数の屍だけがじっと見つめていた。
TSして王女になった僕が、華々しい戦死を遂げるまで 間川 レイ @tsuyomasu0418
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