第3話 能力者の追いかけっこ
「ねえ、あんた、そんなワルなことしてたら良くないことが起きるかもよ」
私は窃盗犯が降り立ったビルの屋上に降り、窃盗犯に向かって声をかける。急な声に驚いたのか、盗んだバックを地面に落し、尻餅をついた。
「ひえ! 君、どこから出て来た! 君も瞬間移動が使えるのか?」
「いや、たまたま宙に居ただけだよ。そんで、あんたは盗みをするほどお金に困ってんの? 超力者なんだから、研究に協力すればそれなりにお金もらえるじゃん。もしかして知らない感じ?」
「……そんな実験モルモットのような扱いが嫌で拒否したんだ。君はそうじゃないみたいだね」
「そりゃ、能力の事教えてくれるし、お金も稼げるしでデメリット感じなかったし。なにより――」
私は会話の隙を見計らってイコエネルギーの糸を飛ばし、盗まれたバックを付け、自分の方へと縮ませて引き寄せた。一瞬の出来事で窃盗犯は何も反応出来ていなかった。
「息を吸うように能力使えるからこんな芸当も出来るってこと!」
「ひ、卑怯だ!」
「いやいや卑怯も何もないでしょ。そっちは窃盗してんだし。真っ当に生きた方が良いと思うよ。じゃあね!」
私はバックを抱え、ビルの屋上から飛び降りた。落ちる途中でサイコエネルギーの糸、サイコスレッドで空中飛翔を始めてその場から離れた。
「どうしてもやらなきゃダメなんだ! 逃がさないよ!」
テレポートから逃げるのは至難の業なのはこの世界の常識だ。瞬間移動を繰り返し、私の進行方向に何度も姿を現して手を伸ばしてくる。いくら急旋回をして進行方向を分からないようにしようとしても、挽回速度が速くてなかなか撒けない。
「テレポートからは逃げられない。こんな常識、色々と知ってる君なら分かってることでしょ。諦めなよ!」
「確かに、能力だけの力比べなら、テレポートには勝てないかもね。でも、それなら私は環境も使わせてもらう!」
私はあらかじめ向かっていたある場所に向かって一気に飛ぶ。窃盗犯も意図を理解したのか、叫びながら全力で止めに来る。テレポートの網をかいくぐり、私は大声をあげた。
「警察官さん、助けて! 怪しい男の人に追われてます!」
交番に向かって直線距離を最速で飛翔する。私に気づき、状況を瞬時に理解した警察官が交番のドアを開け、私を迎え入れてくれた。中に飛び込んだ私はすぐに外を見るが、すでに窃盗犯の気配はその場からは消えていた。
闇に照らされる光の世界に飛び込んで 後藤 悠慈 @yuji4633
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