VRMMOトップランカーだけどVR酔いがひどい
鴎
***
「来たわ! 伝説のプレイヤー、SAKAMOTOよ」
「本当にかけつけてくれたのか」
デスゲームと化したVRMMORPG『グラフテッド・オーシャン』。
ここで死んだ者は現実でも死を迎えることになる。
ゲームオーバーと同時にヘッドディスプレイに流れる映像が人間の大脳新皮質を破壊してしまうとかなんとか。詳しいことはよく知らない。
とにかく、俺はこのデスゲームに巻き込まれ、このゲームを終わらせるために戦っているプレイヤーの一人だ。
「こいつがこのエリアのボスか」
俺は戦場に降り立ち、目の前の敵を睨む。
巨大な4本腕の魔人。シヴァ、それがこの『轟雷の平原』のボスのようだ。
「あなたが来てくれたならもう安心ね」
「頼むぜSAKAMOTO」
なんのひねりもない、俺の苗字をアルファベットにしただけのプレイヤーネームが叫ばれる。
ここにいる人間は3人。このエリアの攻略に挑んでいたが困難だったのだろう。だから俺に救援要請が来た。
俺は、このゲームでは5000人の参加者の中で上位に君臨するトップランカーだ。武器は双剣。相手に張り付き、嵐のような斬撃を浴びせ続けることから『嵐のSAKAMOTO』と呼ばれている。なんのひねりもない異名であり、正直あんまり気に入っていない。
俺は色んなゲームでそれなりの結果を残してきたゲーマーだった。
今回初めてVRMMOに挑み、初めてのVRMMOがデスゲームになるという悲劇に巻き込まれたわけだが。
「3分だな」
俺は言う。
「出たか、SAKAMOTOの時間宣言」
「宣言した時間以上に生き残れたエネミーはいないって聞くわ」
宣言と同時に俺はボスエネミーに斬りかかる。
ボスエネミーはふざけた挙動で4本の腕を振るってくる。
クリアさせる気がないとしか思えない挙動。デスゲームだから当たり前だが。死にゲーであれば何回も試行してクリアできるのかもしれないが、残念ながらこのゲームは一度死んだらお仕舞だ。ただ一度の戦闘でモーションを読みとり、その隙に攻撃を入れ続けるしかない。
「す、すごい。初めて戦うはずだが」
「まるで攻撃が当たっていない」
俺は30秒ほどでこのエネミーの基本動作を読み取った。動きはすさまじいが、どうやら所詮エリアボス。モーションのバリエーションはそこまで多くはない。
俺は、その隙間に回避で体をねじ込み、連撃を浴びせ続ける。
「本当に嵐みたいだ」
「人間の動きなのか」
3人は黙って俺を見守っていた。
手伝わないのかと言う者も居るのかもしれないが、俺はその方がありがたい。俺のみがターゲットならエネミーの挙動は一定だ。その方が戦いやすいのだ。
それに、俺はなんとしても3分で勝負を終わらせなければならないのだ。
「順調にHPが減っていくぞ」
「このまま行けば....あっ!」
叫ぶ女性、それもそのはずだ。シヴァの体から轟雷が放たれる。
「形態変化だ!」
「エリアボス程度が!?」
第二形態に変化したシヴァ。これはまずい。勝てないからじゃない。このままだと3分以内に終わらないかもしれない。
俺はバフアイテムを使い攻撃力を上げる。
シヴァはすさまじい雷撃を放ちながら攻撃してくる。
しかし、俺はひたすらインレンジで戦う。形態変化で攻撃範囲が広がったようだがこの戦法なら関係ない。
俺はひたすら双剣を振るう。
早く、早く、早く倒さなくては。
「う....」
ふいに眩暈が俺を襲った。
「なんだ!? SAKAMOTOの動きが」
「まずい、大技が!!!」
一瞬体勢を崩した俺にシヴァの大技、雷で作った槍が迫る。
しかし、俺は一瞬で体を転身し、それをかわした。そして、その喉元に深々と刃を当てた。
致命攻撃だ。
「決まった!!!」
それから俺はシヴァの上半身から足元まで嵐のように刃を振るい、全身を細切れにした。
そして、シヴァのHPは尽きたのだった。
「すごい!! ありがとうSAKAMOTO!!!」
「ああ、なんとか3分で終わった」
それから俺はゆっくりと腰を下ろした。
「なんだ?」
「知らないのか? SAKAMOTOは戦闘後はこうして瞑想に入るんだ」
「生で見れるなんて」
「ああ、しばらくここでこうしている。あんたらは報酬でも取ってギルドに帰るんだな」
そう言って俺は目を閉じる。
彼らは何か騒ぎながら礼を言い、去っていく。
そして、俺は、
「お、おぇっ、おおぉ.....」
激しい吐き気に襲われていた。
なぜなのか。それは、VR酔いになっているからだった。
「やっぱりきつい.....」
俺はゲームは得意であり、このVRMMOでも実力を示すことが出来ている。
しかし、大問題があった。俺は激しくVR酔いをする体質だったのだ。
制限時間を宣言するなんてかっこつけているが、要するにあれが俺の活動限界なだけである。
しょうもないウルトラマンみたいなものだ。3分を超えると俺は激しく気分が悪くなり、まるで戦えたものじゃないのである。
なので、俺はいつも3分以内に蹴りをつけるように心がけている。
体力の多い相手だとかなりきついがなんとかやっている。
「ああ、気持ち悪い....」
俺は目を閉じて酔いが醒めるのを待っている。
瞑想なんかじゃない。気分が悪いから休んでいるだけなのだ。
だが、なんかみんなが『伝説』とか言って持ち上げるから今更『VR酔いするだけです』とは言えない空気なのである。
だから、颯爽と現れて3分で相手を倒すミステリアスなトップランカーみたいな扱いになっているのである。
「ちょっとましになってきたかな」
10分ほど目を閉じると酔いはだいぶ醒めてきた。
最初は歩き回るだけで吐きそうになっていたが、今は戦闘以外ならなんとかなる。
俺は街に帰ることにする。
「なんとか、なんとかして早くこのゲームから抜け出さないと」
とにかく地獄だった。
デスゲームとか以前に地獄だった。
ずっと気分の悪さと戦わなくてはならないのだから。
俺はこのデスゲームを終わらせる。
こんな酔ってどうしようもない地獄見たいな時間を早く終わらせなくてはならないのだ。
VRMMOトップランカーだけどVR酔いがひどい 鴎 @kamome008
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます