OMNIBUS 心もよう

鈴木 優

第1話

    OMNIBUS 心もよう

                鈴木 優

            

『優の場合』

 

 人生は選択の連続だ。だが、その選択が正しかったのかどうかは、後になって初めて分かる。

 高校生の初め、北海道の空の下で過ごした日々は穏やかだった。だが、心の奥では何かが燻っていた。

 「このままでいいのか?」という問いが、いつも頭の片隅にあった。

 夢を追いかけ、一か八か前に進むか?

 葛藤を抱えながら、東京へと足を踏み入れた。

 

 出会い、別れ、そして挫折 どんどん想像していたものから"はぐれていく"自分がいた

 

 ある夜、駅のホームで立ち尽くしていた。目の前を行き交う人々は、それぞれの目的地へと向かっていた。だが、自分はどこへ向かうべきなのか分からなかった。夢を追うことは、孤独と隣り合わせだった。


 それでも、言葉を紡ぐことで、自分自身を見つめ直すことができた。過去の記憶、出会いと別れ、憧れと挫折。

 葛藤は消えない。だが、それがあるからこそ、前へ進めるのかもしれない。

  

  

 

『叔母 豊子の場合』


 人の人生は、自分が思うよりも誰かの心に刻まれているものだ。私はただ、家族のひとりとして過ごしていただけだった。でも、あの子にとっては少し違っていたのかもしれない。

 姉の子――あの子はよく私の家に遊びに来た。母親が忙しいのは分かっていたし、寂しい時もあっただろう。何も聞かずに、ただストーブをつけ、あの子が好きなココアを出すのが私なりのやり方だった。

 あの子は、冷たい手にコップをとり、フーフー冷ましながら口に注いでいる姿は、今でも思い出す

 

 人は、言葉をかけるよりもそばにいることが大事な時がある。

『優、それを飲んだら家に帰るんだよ』

 

  そして時が経ち、あの子が東京へ行った事を聞いた

 時々、忘れた頃に手紙が届く。

 『元気ですか?』

 なんて、短い文だったけど、それで十分だった。遠くにいても、気持ちはちゃんと伝わるものだ。


 今も時々思い出す。ストーブの前で編み物をしていた時間、寒い冬の日にココアを飲んでいたあの子 

 優にとって、私の家が少しでも居心地の良い場所だったのなら、それだけで十分だ。

 私はただ、そばにいただけ。でも、それが誰かの人生の一部になるのなら、それも悪くないと思う。

 

 歳を重ね、旦那を亡くし、一人でいる事が多くなってきた

 時々思い出す

 あの健気な笑顔、小さな手 ココアを冷ましながらフーフーしている口

『あ〜私に男の子がいれば』

 ただ元気でいてさえいてくれていれば、それだけでいい

 ---


 

『姉 純子の場合』


 幼い頃、優は私の影のようだった。


 夏の日差しの下で、私の真似をして走り回り、風のように笑っていた。


 それがいつからか、優は違う世界に惹かれ始めた。


 度々、バイクで出かけ、そのまま何日も帰らない日が続く事も

 暫くして高校も辞めてしまったのを両親の話しで知った

 

 ある日の夕食時、優は何事もない様子で帰って来た それも普通に 

 

 私をはじめ、両親も『アイツ』に対しては、心配という気持ちからは、程遠くなっていたのも事実だった

 その風景を見ながら唐突に語っている

 『俺、東京に行くから』

 そう告げられたとき、私は驚かなかった。ただ、胸の奥が少し軋む音を立てた。

『そっか』

 それ以上の言葉は出てこなかった。


 出発の日、玄関を出て行く弟の姿を二階の窓から見ていた


 背中はまっすぐで、迷いがないように見えた。

 もう私の背中を追いかけていた幼い姿ではなかった

 でも、私は知っている。

 優は不安を抱えながら、それでも進むことを選んだのだと思う

 車が走り去る音の中で、私は初めて、静かに呟いた

『元気で頑張れ』と




 最後に

 

 人生において、様々な出会いや、思いがあるように、時として自分が思っていた事とは違う感情を知る時も有ります

 時を重ね、経験を積み『あの時』の本当の気持ちを知った時、優しさも生まれるかも

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

OMNIBUS 心もよう 鈴木 優 @Katsumi1209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る