一人で戦うほど強い勇者は周りを曇らせる
城之内
一人で戦う程強い勇者
人と魔が幾度も争う歴史の中で、人類の救世主たる『勇者』の出来は未来を占う重要な要素だ。
だからこそ、現代に生まれた子供達は幸せだ。
何故なら今代の勇者、レノス・アークシルバは史上最強と謳われる勇者なのだから。
ただ唯一の欠点をあげるとするなら、それは彼が優しすぎた事だろう。
「ゆ、勇者様ッ、我々も戦います‼︎」
「……いや、騎士団長。手出しは無用。あの程度、俺一人で十分だ」
「……ッ!? で、ですが……!」
騎士団長が見つめる先には、数千を超える闇の軍勢が進軍していた。
軍の先頭にいるのは漆黒の
全身鎧を纏っており、手には漆黒の大剣を握っている。見るからに指揮官といった風貌だ。
騎士団長は額から冷や汗を流しながら、ふらりと一人前に出た銀髪の勇者の背を呼び止める。
「あ、相手は魔王軍四天王、無双のバラウスですッ、いかに勇者様といえどもお一人では……!」
「二度、言わせないでくれ。俺一人で倒せる。大丈夫だ」
告げた瞬間、勇者は加速して風になった。
騎士団長は目を見張る。
勇者が光り輝く聖剣を振り下ろすと、まとめて魔物が数十匹吹き飛ぶ。
騎士団からは歓声が上がった。流石は歴代最強の勇者だと。
有象無象の魔物達を騎士団の方に一匹たりとも通さず、更に勇者は魔王軍四天王の一体である牛頭の巨人と一進一退の攻防を繰り広げている。
他勢に無勢でありながら、その銀の閃光は消えない。
どれだけその身が傷つこうと、血を流そうと、勇者は一人で立ち向かう。
「……また勇者様は……我々を誰一人として傷つけさせないために……」
騎士団長は瞳を潤ませた。
今代の勇者はいつも一人で戦う。
たった一人で恐ろしい魔の軍勢と渡り合う。
「ま、守られてばかりで良いのですか、団長!? このままでは勇者様といえども……」
生真面目な副官に問い詰められるが、団長は必死の表情で敵を殲滅する勇者の背中を眺めて首を左右に振った。
「……勇者様の矜持なのだ。一人の犠牲も許さないという。甘い理想をあのお方だけが諦めずに叶えようとしている。誰一人として傷ついてほしくない。傷つくのは、自分だけで良い。あのお方は常にそう考えているのだッ‼︎」
その高潔すぎる姿に騎士達は涙した。
やがて、勇者の聖剣が
指揮官の討伐に魔物達は撤退を余儀なくされる。
引いていく魔物達に反して、勝利に湧く騎士団。
しかし次の瞬間には悲鳴が轟く。
たった一人で魔の軍勢を退けた勇者が、血を吐きながら倒れてしまったのだ。
「――レノス様、いい加減にして下さいっ」
仲間の一人である聖女セライナが涙目でレノスに回復魔法をかけている。
法衣を着た黒髪タレ目の美少女は唇を噛み、漏れ出しそうな感情を必死に抑えている。
対して勇者レノスはいつもの無表情で何を考えているのか分からない。
回復魔法によって、盛大に裂けていた脇腹の傷が治っていく。
しかし、流した血までは戻らない。血だらけの勇者を見て、聖女の瞳からポロポロと透明な雫が流れ落ちる。
「どうして一人で行ってしまわれるのですか!? こんな戦い方を続けていたら……いつか貴方様は……」
美少女の泣き顔に勇者は気まずそうに視線を逸らした。
「……転移魔法で、僕たち全員を戦場に連れて行けるはずだろ。そんなに仲間が信用ならないかい?」
聖女に続いて、茶髪の青年、剣聖アルザも口を開いた。
彼は苛立ったように前髪を掻き上げながら不満を溢す。
いつも勇者は救援要請を送ってきた国や都市に一人で向かう。
勇者を追いかけ仲間達が現場に着くと、既に魔の軍勢は退けられている。
無傷の都市や民に反して、重傷の勇者の姿をいつも見る羽目になる。
「……ん。もう足手まといにならない。フィラルカ達、強くなった」
勇者パーティ三人目の仲間。
兎耳を頭部から生やした青髪の美少女、武闘家のフィラルカが力強く宣言した。
「だからレノス。もうやめて、貴方のそんな姿、見たくない……フィラルカ達と一緒に戦お」
彼女も目を潤ませ、勇者の手を自分の両手でそっと包み込む。
三人の様子を順に見つめる当の本人たる勇者。
銀髪の少年、レノスは無表情を維持しながら内心頭を抱えていた。
(いや、仕方ないんだよッ、毎度この空気、気まずすぎるんだけど! それもこれも全部神様のせいだよ、マジで魔王以上に討伐したいんだけど、あのハゲッ!)
勇者は自らの左目に魔力を流して、自身の身体を眺める。
その瞬間、文字列が視界に表示された。
レノス・アークシルバ
[レベル]:45
[ジョブ]:孤独の勇者
[ジョブ効果]:一人で戦う場合、身体能力と魔力が100倍になる。ただし二人の場合、25%ダウン。三人の場合、50%ダウン。四人の場合は75%ダウン。それ以上だと99%ダウン。
聖剣を唯一扱う事ができる人類。
[加護]
【水の精霊】:加護レベル3(9764/10000)
・水属性魔法が使える。水の中でも呼吸ができる。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は魔法が使えなくなる。
【炎の精霊】加護レベル3(56/10000)
・火属性魔法が使える。熱に耐性ができて、火傷を負わなくなる。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は加護が一時的に消失する。
【氷の精霊】加護レベル2(407/1000)
・氷属性魔法が使える。寒さに耐性ができて、凍傷を負わなくなる。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は加護が一時的に消失する。
【風の精霊】加護レベル4(24008/100000)
・風属性魔法が使える。一定時間、空中に浮く事ができる。時間は加護レベルに依存。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は加護が一時的に消失する。
【光の精霊】加護レベル3(6011/10000)
・光属性魔法が使える。左目が全てを見通す特別な眼――精霊眼になる。暗闇でもはっきりと物体を認識できる。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は加護が一時的に消失する。
【時の精霊】加護レベル2(9/1000)
・時空間属性魔法が使える。ジョブ効果により、複数人数で戦う時は加護が一時的に消失する。
(こんなステータスでどないすればええねん!)
もし仲間たち全員と力を合わせて戦ったらクソ雑魚なめくじになっちゃうし、一人で戦ったら皆に泣かれちゃうし。
頑なに一人で戦ってたら、なんか皆を傷つけさせないために戦ってるんだみたいに勘違いされるし。
好きで一人で戦っているわけじゃないから。
もう勇者辞めたいけど、辞めようとしたら毎晩神様が夢に出てきて引き止めてくるし。土下座までしてくるし。
果たして一人で魔王を倒せるのか。
勇者レノスは苦悩しながら、これからも一人で戦い続ける。
周りの人達を曇らせながら。
一人で戦うほど強い勇者は周りを曇らせる 城之内 @jounouti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます