友人の彼女の友人が元カノだった。

柊なのは

友人の彼女の友人が元カノだった。

「お願い頼む。いるだけでいいから」


(いるだけって……)


 放課後。宝生蓮斗ほうしょうれんとは、家に帰って早く新刊の漫画を読みたかった。けれど、友人の高木隆たかぎりゅうに引き止められ、そして意味のわからない誘いを受けた。


 誘いは好きな人と初めて一緒に遊びに行くから付いてきてほしいというもの。


「それ……2人きりがいいだろ。俺がいたら邪魔なだけだ」


 会話に困るから、雰囲気が悪くなったら嫌だからいてほしいと思っているかもしれないが、俺がいたらもっと会話に困るし、雰囲気が悪くなる。てか、彼氏の友人がいるとか彼女さん、普通に嫌がるだろ。


「いや、デートとかそんなんじゃないから大丈夫だって。野々亜も友達連れてくるって言ってたから」

「野々亜って、彼女の南野々亜みなみののあさんだっけ?」


 他校の生徒で一度も会ったことないが、隆から何度も聞いた名前なのですぐに彼女の名前だとわかった。


「あぁ。だからさ来てくれよ。女子2人に俺1人は居づらいからさ」


 隆はそう言って両手を合わせて俺にお願いしてくる。


(行きたくないなぁ……)


 隆の彼女も彼女の友人とも初対面だし、楽しく食事ができる未来が見えない。絶対、気まずいに決まってる。


「そういや蓮斗、この前、俺が人気店のケーキ屋に並んだ時、借りは返すって言ってたよな?」

「言ったな」

「助けと思って来てほしいんだ」

「…………わかったよ」

「ありがとな」


 本当は行きたくない。けどまぁ、主役でも強制的に話さなければならないわけでもないし何も話さず大人しく近くにいるだけにしよう。いるだけでいいって言ってたし。


 隆の彼女の南さん達とは現地集合らしく、俺たちは学校を出ると集合場所であるショッピングモール、ではなく1番密室で気まずい状況になりそうなカラオケに行く。


(初めてで行く場所がカラオケって……)


 初めてならショッピングモールとかじゃないのかと思うが、まぁ、隆と南さんが行きたいところがカラオケなら……。


「あっ、いた。野々亜、お待たせ」


 隆は手を挙げて名前を呼ぶと先に来ていたセミロングの髪でリボンをつけた南さんはこちらに気付き手を振った。


「隆くん! 全然待ってないよ~」

「そらなら良かった」


(仲良さそうだな……俺も……)

  

 過去、自分も好きな人とこうして待ち合わせをしていたことを思い出していると南さんの後ろにいた女子と目が合った。


 黒髪のロングヘアに綺麗な瞳。スタイル抜群でクールな雰囲気のある彼女は宵谷七海よいたにななみ


 2年前、中学2年まで付き合っていた元カノだ。中学を卒業してから一度も会っていなかったので、会うのは久しぶりだ。


「あっ、紹介するよ。友達の宝生蓮斗」

「宝生くん、いつも隆くんから聞いてるよ。私は南野々亜。で、この子は友達の宵谷七海。私はななみんって呼んでる」


(ななみん……)


 チラッと南さんの隣にいる七海を見ると彼女は顔を赤くしていた。


「ちょっと野々亜。人前でななみん呼びは恥ずかしい………」

「あっ、ごめんごめん。七海ちゃんの照れてる姿、可愛い~」

「照れてないから」

 

 南さんに若干からかわれてる七海は俺への視線に気付くと見ないでよと言いたげな表情で睨んできた。


「じゃ、さっそく歌おっか」

「だな」


 南さんと会って思ったが、やっぱり俺、いらなくない?と思ってしまう。予想していたより南さん、場を明るくさせるタイプだし、2人でも3人でも気まずい空気にはならない気がする。


 受付ですべきことを終えると指定された部屋へと移動し、着くと隆と南さんは隣同士に座ったので俺と七海は隣同士に座ることになった。


「じゃ、さっそく何歌う?」

「やっぱりあれだろ」

「だねー」


 俺には全くわからないが隆と南さんは歌いたい曲があるそうだ。


「俺、飲み物取ってくる」

「オッケー。先に歌ってるね」


 南さんはそう言ってマイクを持つ。七海はというと歌う気はないらしく鞄から本を取り出していた。


(マイペースすぎる……何で来たんだ……)


 カラオケの最中に本読んでたら何でこいつ来たんだった思われて雰囲気悪化しそうだけど。


 けどまぁ、七海も俺と同じで無理やり来させられていたとしたらメインは2人で、自分には関係ないし雰囲気とかどうでもいいと思ってるんだろうな。


 曲が流れ始め、部屋から出るとドリンクバーのあるところへ。


 コップを手に取ると隣から人の気配がして、隣を見るとそこには七海がいた。


(気配殺して来たのか……?)


 じっと見ていると七海はコーヒーをコップに入れ終えるとこちらを見た。


「どうして来たの?」 

「……えっ?(俺の台詞でもあるんだけど……)」

「はぁ……来てほしいって言われて来たけど、どうみても私……私と蓮斗は邪魔者だと思わない?」

「邪魔者……そう、だな……俺もそう思う。初めて遊ぶって聞いたし俺らがいるのは違うかと」

「そうよね、違うよね」


 彼女はそう言って前を向き、俺は氷を入れてコーラを入れる。ギリギリまで入れると七海と一緒に部屋へ戻る。


 部屋の前まで着くと中からは音が聞こえてきていて、七海はドアノブに手を置くが、なぜかドアを開けない。


「どうした?」


 何かあったのかと心配になり後ろから声をかけると七海は後ろを振り返った。


「このまま2人で抜け出さない?」

「…………えっ? 抜け出す?」

「うん、抜け出す。あの2人なら大丈夫でしょ、私たちがいなくても」

「……そう、だな。けど、鞄が中に……」

「そこは私が何とかするから蓮斗はここで待ってて」


 そう言って七海は俺から満面の笑みを浮かべて部屋へと入っていく。


 変わってないな。素直になれないタイプで、七海の笑顔は眩しくて……。


「お待たせ、蓮斗。じゃあ、私たちは私たちで別の部屋で歌おっか」

「抜け出すってあの部屋から抜け出すだけでカラオケから抜け出すわけじゃないんだ」

「私も歌いたかったし」

「歌いたかった? さっきは本読もうとしてたのに?」

「私、みんなの前では緊張して楽しく歌えないから。蓮斗だけなら大丈夫……。あっ、私、部屋空いてるか聞いてくるね」


 七海はそう言うと受付に向かい、彼女の後を付いていく。


(カラオケか……)


 付き合っていた頃、一度だけ行ったことがあるけど楽しかった。たくさんの友達と行くよりもずっと。


「蓮斗、空いてるって」

「そっか、良かった」

「…………じゃあ、2人でお願いします」




***




 空いている部屋へ入り、俺と七海は交互に歌い、歌い終えると七海は着ていたジャケットを脱いだ。


「あっつ~、久しぶりに歌った~。蓮斗、最高だったね」

「あぁ、そうだな」


 別れて一言も話さなかったのに七海は過去のことは全く気にしていないようでまるで付き合っていた時に戻ったようだ。


「蓮斗、コーラ好きだよね」

「うん、好きだよ。七海は……ブラック飲めるのか?」

「飲めるよ。ほら……」


 七海はそう言ってコーヒーを飲むと眉間にシワを寄せた。


「ミルク入れたら?」

「ん……入れる。飲めると思ったのに……」


 ぷくぅ~と頬を膨らませながら彼女は持ってきていたミルクをコーヒーに入れた。


「蓮斗、可愛い彼女はできた?」

「可愛いって……彼女いたら今ここにいないから」

「いないんだ。なら恋人いない仲間」

「嬉しくない仲間だな、それ」

「…………蓮斗といるとやっぱり楽しい」

「俺も」


 俺は今でも七海のことが好きだ。けれど、好きの言葉が出てこない。


「また会いたいって言いたいけど、私、蓮斗といたらまた駄目になる」


 七海は立ち上がりジャケットを羽織ると鞄を持った。


「じゃあ、また会えたら」

「あぁ……会えたら」

 





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