恐るべき天国税金の果て
ちびまるフォイ
初回で経験済みの地獄
「お弁当温めますか?」
「いえ、けっこうです」
「お会計、10万円になります」
「はいはい、じゅうま……十万円!?」
財布を落としそうになった。
「コンビニ弁当ですよ!? 値札500円じゃないですか!!」
「ええ。でも税金があるので」
「消費税でここまで釣り上がらないでしょう!?」
「天国税です」
「はあ!? そんなの知らない!?」
結局お弁当は変えず、廃棄された弁当を受け取る形になった。
「なんなんだよ天国税って……」
久しぶりにテレビをつけると答えはあった。
どうやらつい最近、天国への納税がはじまったらしい。
「現在、天国がさまざまな要因で費用が増えています。
このままでは天国が運営できずに崩壊します。
そこで、これより天国税を導入し、
今世を生きる人には納税をしてもらいます」
「天国への……税金……?」
大昔に設計された天国はバブリーそのもの。
さまざまな娯楽スポットが立ち並ぶ楽園になっていた。
しかし近年、天国逝きの人口増加に対して天国でのスタッフ不足。
管理費の増加などの影響で運営も厳しくなっている。
天国がもし崩壊してしまったら、
天国に住んでいる人やこれから天国に行く人の希望が絶たれる。
そのための天国税という。
「まあ……それならしょうがないか」
なんとか納得できるようにしていたが、
次の給料日に問題はおきた。
「はい給料」
「きゅ、給料……50円!?」
「天国税を差し引くとこんなもんだ」
「いやいやいや!! これじゃ生活できませんよ!」
「そういわれても……。会社としてはこれが限界なんだよ」
「50円じゃ駄菓子しか買えませんよ!」
「天国税で駄菓子も50円じゃ買えないがな」
「死ぬわ!!」
あまりに暴力的な税率。これじゃ生活できない。
家賃、電気代、ガス代、水道代、ケータイ通信料。
それらすべてに天国税が上乗せされ、すでに借金必須。
こうなったらやることはひとつ。
「ちょっとお暇をいただきます!!!」
会社を休むと、プラカードを持って政治の本拠地へと向かった。
「天国税、はんたーーい!」
「これ以上、現世をくるしめるなーー!」
現地には自分と同じ考えの人がたくさん集まっていた。
天国税に苦しめられて生活が立ち行かなくなった人たち。
彼らと肩を並べると必死に反対コールを続ける。
「天国税をやめろーー!」
すると、あまりの大騒ぎに大統領がやってきた。
「君たち、近所の迷惑だから騒ぐのはやめてください」
「だったら天国税を廃止しろ!!
おかげで俺達は生活できなくなってるんだぞ!」
「それはできません」
「なんでだ!!」
「天国が崩壊するとどうなるかわからないんですか。
行くアテのなくなった人たちはみんな地獄に落ちるんですよ」
「知ったことか!!」
「今も天国で暮らす、この現代を造ってくれた先祖や偉人。
それらをひとしく地獄送りにするなんてできないでしょう」
「うるさーーい! 俺達は今、自分たちが楽になりたいんだ!!」
平行線の議論にガマンできなくなり、大統領へ飛びかかった。
すぐさま控えていた狙撃手が迷わず引き金を引く。
飛んできた銃弾は自分の眉間を貫いた。
「大統領! 無事ですか!?」
「ああ」
それが最後に聞いた言葉だった。
無事じゃなかったのは自分だけだった。
・
・
・
次に目を覚ますと、そこは閻魔庁。
書類仕事まっただなかの閻魔様の目の前に立っていた。
「これから貴様の審判をくだす。黙って聞いておけ」
「現世であれだけ苦しい思いをしたのだから、
俺はさすがに天国行きでしょう?」
「貴様の現世での人生を切り抜き動画で見たが、
お前はまちがいなく地獄行きだな」
「はあ!? 切り抜きじゃなくフルで見てくださいよ!!」
「大統領に襲いかかったじゃないか。
そんなやつは間違いなく地獄行きだ」
「ひどすぎる!! あの世でも救いはないんですか!」
「罪人ごときがずうずうしいぞ」
閻魔様は手元のボタンを押した。
自分の足元の床が抜けて地獄へとまっしぐら。
チューブ滑り台の果てにたどり着いたのは地獄。
ぐらぐら湯だつ釜茹でや、殺傷能力高そうな針山。
絵巻物で見た地獄の光景がそこにあった。
「グフフフ。地獄へようこそ、罪人。私は地獄案内人」
「ああうそだ……」
「ここでは命乞いも何も通じない。
貴様はここで地獄の苦行に味わってもらう」
後ろに見える恐ろしげな地獄スポットの数々に言葉も出ない。
「あの……お、俺はどの地獄に入れられるんですか。
これが地獄の初回なので、あんまりキツいのは……」
「罪人ごときの要望をこっちが受け取るとでも?
貴様にはこの地獄でもっとも苦しい場所にあてがわれる」
「そんなにひどい判定なんですか!?」
「大統領に襲いかかったのはそれだけの罪だ」
「そんな……」
「覚悟するがいい」
地獄案内人に慈悲はない。
自分はすでに決められた地獄で拷問を受けるのだろう。
「それで……俺はどの地獄に……?」
尋ねる自分の顔を見て、地獄案内人は悪そうな笑顔をしてみせた。
「聞いて驚け」
案内人はその先にある地獄史上もっとも辛く苦しい地獄を示した。
「貴様が送られるのは"増税地獄"だ。
報酬を得てもすべて奪われる喪失を繰り返す地獄。
まともな精神じゃいられなくなるだろうな!!」
ビクビクしていた気持ちがスッと引っ込んだ。
「あっ、それならもう経験したんで平気っす」
恐るべき天国税金の果て ちびまるフォイ @firestorage
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