第3話 戦争の兆し

勇者死亡の話はすぐに広まった

これにすぐ反応した国が1つある



—————————————————————



現在の魔王領は北の大地にある。

 黒い雪の降る極寒の地、ここに攻め入る国はまず無い。

 勇者以外には。

 あれは例外だった、世界の害悪を正さんとする信念に基づき魔王の首を取りに来ていた。


 魔王領の直下、ガルフスター王国。北の大地にありながら、巧みな政治的手腕と魔石の輸出によって狡猾に立ち回っている。

 海にも面しており、海運による物流にも影響を持つ。


 魔石は全ての魔道具の動力源であり、今の戦争には欠かせない戦略物質である。

 それの産出、輸出は世界全体の4割を占める。


(さて、まずは王国とそれに滞在する諸国どもの連合軍だろう。個として絶対的な強者である魔物であるが群として人類の右に出るものはいない。)


墓はその後だろう、とため息をつく


魔王は玉座に座る自分の影に命を下した

(ラガーを呼んでこい)

—————————————————————


ガルフスター王国


「勇者死亡ね…」


 ガルフスター王国、国王ヘンドリー•ラエサル•グレイリッド•ガルフスター。恰幅のいい体格で腹は出ているが政治手腕は大陸随一である。

 海にも面しており、海運による物流にも影響を持つ。

 その証拠に彼が国王の座についた時敵対したものは一人を除き全員事故死した。

 彼は魔王の出した勇者死亡の声明を受け緊急会議を開いていた


「もともと気に入らなかったのだよ勇者は。

その力で国家間の均衡はめちゃくちゃにするわ帝国が支援するからと物を言うこともできん。

死んでくれてよかったがな私は。」


「しかしそのお陰で帝国と戦争にならなかったのは事実。悪いとこだけではありますまい。

 そして今は魔王の対処に関する場ですぞ。少しは慎みを持たれてはいかがかな国王陛下。」

 

 グランベル宰相、彼が唯一事故死しなかったものである。死を回避した上にあろうことが国王に一番近い宰相という立場を掴み取ったある意味の異常者だ。また家は公爵家にあり国王と対等の立場に立てる数少ない人間でもある。



「なら、どうするというのだな」


「まずは出方を見ましょう。勇者討伐の声明を出すくらいです。今後必ず何かしらのアクションがある。何かするのはそれからです」


 いくつかの宰相派の大臣が、首を縦に振る


「甘くないかね。声明を出したからなんなのだ。現状魔王領に一番近い国はここだ。ならば諸国と同盟でも組んで早々に魔王を討伐するべきであろう。国民も勇者死亡を受け混乱している。我々が率先して皆を安心させるべきではないかね、それが為政者として役目であろうよ」


「これで虎の尾を踏んだらどうするおつもりですか!国が滅びますよ!」


「だから諸国と同盟を組むと言っているのだ。話を聞いていなかったのかね。そうだな、帝国にも兵を要請しよう。討伐隊に参加できると知れば喜んで貸してくれるであろう。これで奴らに貸しができる。奴らとの交渉を優位に進められるぞ」


「流石は国王陛下未来まで見据えている!」

「これでこそ王国である!」

「戦争だ!魔王を討伐するのだ」


「「「「戦争だ!!!!」」」」


会議は熱気を帯びっていく


「くっ、この国がどうなるかお分かりでしょうね。滅びますよ、兵も街も民も!」


「それは有り得んよ。滅ぶのは魔王の方だからな」


「愚かな!あなたは何も見えていない!!」


「静かにせぬかグランベル殿」

「戦争はすでに決定された」

「今更反対などいうでない」


 グランベルは失望していた。もう自分にでいる事はない、あとは滅びる祖国を眺めるだけなのだと。

 相手を見誤り、自分を過大評価する国に。



「では兵の編成を急ごう、あの勇者だ、大軍を出したに違いない。魔王軍が疲弊している間が勝機である。あぁ、そうだ帝国にも手紙を送らねばな」



ガルフスターの戦争は決定された。魔王に魔の手が伸びようとしていた。



—————————————————————


「来たか、ラガー。お前には何もかも頼りすぎだ」


幹部ラガー、頭にヤギのツノを生やし、モノクロメガネをかけた女系の悪魔。

魔王の第一秘書官という肩書を持つ。


「動けるものが少ないのですから仕方ありませんよ。勇者に多く討たれましたからね。彼は強すぎます」

「せめてアーティが生きていればな…惜しいのを無くした」


魔王は目を伏せて空に呟く。

アーティは第二秘書であった。長くおろした赤毛とそばかすが特徴の悪魔。

彼女は王城に侵入した勇者によって討ち取られた。


「彼女のおかげで侵入に気づけたのです、無駄死にではなかった。王よ、昔話をしに来たわけではありませんでしょ?」


魔王は頭を切り替え本題に入る


「そうであったな。影からの報告で王国に動きがある。おそらく攻め込んでくるだろう」


「少し早いですね、疲弊している今が勝機だと思ったんでしょう。兵の編成を急がせます」


 ラガーは顎に手を当てながら頭の中で予定を立てる。編成、兵站、指揮官、戦地、戦術。どこが適地で誰が最適か、彼女の強さはその頭にある。


「それには及ばんよラガー、軍は動かさない」


「それはどういうおつもりでありますか。王国は帝国ほどではないにせよ強国です。油断は禁物ですよ」


 思わず語気が強くなる


「言葉が足りなかった。謝罪するラガー、すまなかった。戦わないわけではない、だが軍は動かさない。王国は周辺諸国と組んでこちらの何倍という量で攻めてくるだろう。長引けば帝国が介入しさらに面倒くさいことになる。なので一撃で決めよう」


「いえ、私も熱くなってしました。具体的には?」


「陸海空をそれぞれ一名ずつに任せる。切り札を切ることになるが世界に我らの脅威を知らしめるのだ」


「なるほど、短期決戦ならば消耗は少なく復興にリソースが割けます。そして大軍を相手どれる切り札となると…」


 ラガーは口ににひるな笑みを浮かべて王国の行方を思い浮かべる


「蝸牛、ベルフェゴール。大鳥マモン。白鯨リヴァイアサン」


「油断はしません。予備部隊も作りますが…王国は終わりですね」


 ラガーは確信してそう呟いた

 巨大な港を持つ王国は海からもくるだろう陸も諸国と、あるいは帝国とも来るだろう。だが全て土に還し、海の藻屑になるだけだ。


「大鳥はいいですが蝸牛と白鯨は起こさないといけません、ここ数千年は寝てばかりですからね」


「蝸牛は起こしてある、この話も通している。あとは白鯨を任せる」


「起きますかね」

「起きねばセイレーンが苦労するな…」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王は勝った あき @08010526

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ