荒れた海より凪いだ海
八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子)
いつまでも永遠に続けよ、凪いだ海
湿り気を帯びた幾重にも、重なり雲に気を揉んで、双眼鏡で海を見る。
我が艦隊の陣容は決して万全とは言い難く、幾ら情報を集めとて、戦略、戦術、時の運、全て揃いてごろうじろう。
荒波は我の味方か敵なるか、飛沫の味は我が血潮に似たるよし。荒波空を天翔る直掩機の練度にも我が腕っぷし通ずるや。
南洋に窯が吠えては駆け抜けて、珊瑚の海の美しさ、感極まりて涙する。男泣きぞと揶揄わず、人の心はこれにあり、しからば登る戦闘旗、夢や幻と涙捨て、鬼神となりし我が身よし。
猛々しく吠えたる砲に、ひっそり放つは魚雷なり、敵機の影を水面に見たり、懐抱えた爆弾を撃たすまいぞと射撃する。当たりて堕ちゆく敵機よりパイロットの敬礼に、武人としての誇りより、返礼するのはやむなしか。
戦終わりて帰投する、されど我が艦傷深く、復旧作業はままならず、艦長殿の言葉にて離艦準備を進めゆく、カッター降ろして乗り込みて、崩れた艦橋見上げれば、敬礼姿の人影に、無心のままに返礼し、号令掛かりて離れれば、艦にて眠る戦友に後ろ髪を引かれてゆく。艦に残りし艦長殿が、皆を連れてゆくだろう。
珊瑚礁には日が戻り、輝く景色に落涙し、泣くな男と叱りし若士官、目元潤みて拳を握り、唇噛んだ耐え姿、凛々しき海軍士官なり。
戦に敗れし後の世に、生き抜くことこそ使命とて、友の分までなにくそと、働き働き身を削る。そんな我が身を気遣う手、我が身を包みて諭すれば、掴みて離さず波間かな。
夫婦となりて働きて、息子と娘を育てたり、孫に囲まれ年月に、成長したる孫娘、艦に乗りたる士官なり、我も乗りたる港より、孫の勇姿を見上げつつ、戦とならぬこと祈る。
我が海軍は失えど、海の守りは引き継がれ、誇りを胸に抱いては、艦は海を渡りゆく。海の守りがあればこそ、攻めたる気持ちを揺るぎさせ、白刃の上の平和より謳歌すること素晴らしき。
国家は人の集まりで、人は意識の集まりで、争う気持ちは常にあり、平和平和と唱えては殴られ負けることあれば、独裁者の亡霊が顕現すること気をつけよ。
守るとは叩かれぬこと、守るとは侮られぬこと、守るとは誇り高くあること、守るとは人としてあること。
荒れた海より凪いだ海、荒れた海より凪いだ海。
荒れた海より凪いだ海 八坂卯野 (旧鈴ノ木 鈴ノ子) @suzunokisuzunoki
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