ギャルと、雨女と、時々あかりん
緋色 刹那
💃☔️
突然の雨。傘は持ってきていない。
駅で足止めされていると、
「なぐもっち、アメちゃん食べる?」
見知らぬギャルから、不意打ちにアメを差し出された。雨雲が一気に晴れそうな、弾けんばかりの笑顔で。
包装紙にはツインテールの可愛いらしいキャラクターがプリントされている。いちご味だそうだ。
……この人、どうして私のニックネーム知っているんだろう? 怖い。
「せっかくですけど、お気持ちだけで結構ですから」
「遠慮すんなし! 今日、誕生日っしょ?」
「え」
確かにそうだけど。あれ? 知り合い?
いやいや、ないない。ギャルに知り合いなんていない。
「なんで、私の誕生日知って……」
「あーしには全部お見通しだから! ぶっちゃけ、ついったーで見た!」
「こわ」
知らないギャルに垢バレしてるとか怖すぎる。このギャル、本当に何者?
「ちな、早くアメちゃん食べた方がいいよ? もうそろ雨女っちが通るから」
「雨女っち?」
「この雨を降らせてる元凶。最近、彼ピと別れて、リアルに傷心なんだってー。それで雨降らせるとか、まぢヤバくない? あーし、今日に限って折りたたみ忘れてきたんだけど。髪うねるし、つらたん」
「それとアメを食べることに、何の関係があるんです?」
「そのアメ、某男の娘アイドルとコラボった商品なんだけどぉ、そのアイドルのパワーがアメにもこめられてて、雨女を遠ざけるんだって! さすがあかりん」
最近のアイドルってすごいな。妖怪まで遠ざけるのか。
「あ、さつきちのメロン味もあるよ。シークレットは後方腕組みオタクのスポドリ味」
「その、こーほーうでくみオタクっていうのもアイドルなんですか?」
「ううん、これはあかりんとさつきちのファン。よーするに、あーし達ってこと!」
雨足が強くなってきた。
大雨の中、この世の終わりのような顔をした女が長い髪を振り乱し、ずぶ濡れで駅に向かってくる。着ているTシャツには「雨女」とあった。
「まさか、あの人が雨女だとか言わないですよね?」
「そのまさかっしょ」
「からかってます?」
「嘘松だと思うなら、見てろし。雨女の気に当てられた人間がどーなるか」
傘を差した会社員が、雨女とすれ違う。
直後、会社員は全身の力が抜けたように傘を離す。そして雨女と同じ、この世の終わりのような顔で、彼女の後に続いた。
同様に、雨女とすれ違った人間が一人、また一人と加わる。雨女が駅に着く頃には、さながらゾンビの大群のようになっていた。確かに、あれは異常だ。
思わず見入っていると、雨女と目が合った。
「……」
「ほら、早く!」
雨女は私の顔をジッと見つめ、ゆっくり近づいてくる。ギャルも慌てた様子で、私を急かす。
私は包装紙をやぶり、アメを口へ放り込んだ。包装紙のアイドルと同じ形の、赤いアメ。いちご味特有の甘酸っぱい風味が、口いっぱいに広がる。
その瞬間、雨で落ち込んでいた気持ちが一気に晴れた。爽快すぎて、頭の中でライブが始まる。サイリウムで赤く染まった会場のステージで、包装紙のアイドルがにっこりと笑った。
「なぐも社長! お誕生日、おめでとうございますっ! Have a nice day♪」
「はばないすでぇぇぇい!!!」
無意識に叫ぶ。目と鼻の先まで迫っていた雨女がビクッと震えた。
「え……オタク、怖い」
「怖くないから! ほれ、アメちゃん」
「ぎゃぁぁぁッ! あかりん最高ー!」
ギャルが雨女の口へ、いちご味のアメをねじ込む。雨女は悲鳴を上げつつ、昇天した。
あれだけ降っていた雨が上がり、雲間から太陽が顔を出す。
雨女に取り憑かれていた人々は「あかりん?」「あかりんって?」「俺はさつきち派」と、不思議そうに首を傾げ、それぞれ去っていった。
「じゃーねー、なぐもっち! Have a nice day♪」
「は、はばないすでい……」
ギャルも笑顔で、改札を通る。結局、何者だったんだ、あのギャルは。
「さっきのアイドル、あかりんっていったっけ。CD、出てるのかな」
私はCDショップを探し、駅を出た。
ギャルと、雨女と、時々あかりん 緋色 刹那 @kodiacbear
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