【リライト】「心新たに、よい年を」三門兵装様

【作品タイトル】『心新たに、よい年を』

【作者】三門兵装

【作品URL】https://kakuyomu.jp/my/works/16818093091306554131

【リライト者コメント】

 姉妹ふたりのゆったりした空気がとても良かったので、そこにフォーカスして組み立ててみました。

 文字数が倍近くなってるのは、ご愛嬌として頂ければ……。

 二人の仲の良さが伝わっていればいいなあと思います。


==▼以下、リライト文。============


 コタツムリがおる……。

 帰宅するなり、リビングで発見した新種の生物を、私はそう命名した。


 おかえりー。

 除夜の鐘が遠くに鳴り響く中、くだんのコタツムリはそんな風に言葉を発した。

 たしか私がその鐘をかせてもらう為に、お寺に向かって家を出たのがつい一時間前。その頃は妹と呼んでいた気がするその新生物は、その下半身をこたつに食べられながら、上半身ではもぐもぐとみかんを食べていた。


 はぁ……。

 呆れたように溜息をついた私だが、そのやたら気持ちよさそうにだらだらしているその生態をよほど羨ましく思っていたのだろう。コタツムリは私の顔を見て、にや〜っと笑った。


 はい、どーぞ。

 そんな言葉と共に開かれた、こたつ布団という名の口に、私はためらわず下半身を差し出した。ぱくりと食われると、冷えきった体をそれは暖かく出迎えてくれて、私もあっという間に仲間コタツムリになった。

 

 はい、おねーちゃんも食べる?

 いつの間にかスマホを置いてテレビを見つめていた妹は、わざわざみかんの皮を剝いてくれた。


 さんきゅ。

 きゅっと甘いそれを口に入れて、二匹目のコタツムリもテレビに視線を向ける。

 わちゃわちゃと明るく点滅する画面からは、外で鳴り響くのと同じ、ごーんという音が聞こえてきた。

 刻一刻と、一年が終わりを告げようとしていた。


 あー、今年が終わるっていう感じがしないなぁ。

 コタツムリAがぼやいた。


 あっという間だったなあ。

 体が温もるにつれ消えかけていた理性を食い止め、コタツムリBは回らない頭で終わりが近づく今年を振り返った。


 去年は大変そうだったもんね、おねーちゃん。

 うん、もったいないことした、私。


 思い返せば、去年の今頃は受験生だった。

 こんな感じの年の瀬にさえ、考えていたのは翌日の模試の事。

 その後のお楽しみ、毎年恒例の初詣も見送った。

 寝る前に二階のベッドから捧げた新年の抱負さえ、数か月しか効力のない直近の合格だったっけ。


 でも後半は楽しかったのよ。

 そう、そんな前半の鬱屈を吹き飛ばすぐらいには、内容の濃い8か月でもあった。


 今まで以上に友達の輪も広がって、だけど新しい環境に手いっぱいで。新たな学びに、今まで通りにはいかなくなって。

 部活にももっと本腰を入れたいし、新しい趣味を探すために一歩を踏み出したり、ちょっと前からやっていたFPSのゲームにもようやくはまりだしたりもした。


 来年は、何をしようかな。

 何か欲しいものとかあんの?

 んー、そうねぇ。


 時間が欲しい、自分を変えたい。

 周りにももっと気を使いたいし、もっと好きに貪欲でいたい。


 煩悩まみれやん。

 煩悩まみれ、幸せよ?

 わかる。


 ごーん……。

 外ではまだ、除夜の鐘が鳴っている。

 除夜の鐘は煩悩を払うために撞くそうだが、少なくともこの二匹のコタツムリの煩悩には、どうやら効果がないらしい。


 うーん、何か来年に願うことか。

 ぼんやりした意識を何とか繋いで、ちらり、時計を見る。


 あれ、もうこんな時間?

 新年まで、残り一分。

 過去じゃない現実いまをじっと見つめてみたら、びっくり、もうこんな時間だった。


 はじまるよ、カウントダウン。

 妹が呟いた。


 もう、この年ともおさらばか。

 人が決めた一年という区切りに時の境目はなくとも、心を変えるには十分な区切りだろう。


 あぁ、楽しかったなぁ。

 あんなに燃えていた自分ももう、一年前になるんだ。


 ――残り30秒。


 そう思うと、この一年は長かったのか、短かったのか。

 悔いも、未練もたっぷりあるけど、無情にも時は進んでいく。


 ――残り20秒。


 はい、おかわり。

 ありがと。

 剥かれたみかんをひょいと食べる。

 さっきより、ちょっぴり酸っぱい気がした。


 ――残り10秒。

 

 テレビの中で有名人たちが、そしてきっとその奥にいるたくさんの人が、この年を締めるカウントダウンを始める。

 

 さぁ。


 ――残り5秒。


「新しい年」に、会いに行こう。



 5



 4



 3


 


 2



 


 1





「あけましておめでとー!」

 ばんざーい、と手を広げて、妹は嬉しそうに笑った。


「ん、おめでと」

 それを見て、私はコタツムリの布団を脱ぎ捨て立ち上がる。


「そういやさっきお寺で甘酒貰ってきてたんだった。あんたも飲む?」

「お、飲む飲む!」


 明るくてあったかい妹の笑顔。

 コタツの温もりは消えてしまったけれど、私にはやっぱり、その暖かさのほうが心地よい。


「よし、決まりね」

 キッチンに向かう足すがら、リビングを振り返る。リビングルームから見える白い壁紙を通して誰も知らない闇を見る。

 鐘を撞いた帰り道に見た、澄んだ星空。

 その向こう側に向けて、手のひらを合わせる。


 神様、とりあえずはみんなの幸せを。

 そしてこの暖かさが途切れることのありませんように。

 

 やっと決まった、今年の願いをそこに載せて。


 今年の抱負は「家族みんな、幸せに」


 一家安泰、どうかよい年が訪れますように。

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【風雅ありす様自主企画用】みんなでリライトしよう♬ ムスカリウサギ @Melancholic_doe

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