第3話 #推されたい


「マジで今日の盛れ度、過去イチじゃない?」


放課後のカフェ、制服のままスマホを構える**結菜(ゆいな)**の声が弾む。


「はいチーズー!……って、もう古いか、今の子は『321はい!』だっけ?」


「何その微妙な世代ギャップ」


向かいの席で笑っているのは、親友の葵(あおい)。


結菜は校内でも明るくて目立つタイプ。夢は「フォロワー1万人のインフルエンサー」。一方の葵はSNSにはそこまで執着はないが、結菜に付き合って一緒に写真を撮っていた。


「てかさ、バズりたくない? 今って顔より“空気感”が大事らしいよ」


「空気感?」


「そう、"なんかいい"みたいな。だからさ、後ろの景色とか加工も大事なの」


 


その日も結菜は何枚も写真を撮っては加工し、ハッシュタグをつけて投稿した。


#制服コーデ

#放課後カフェ部

#推されたい女子高生


 


帰り道。スマホの通知がバンバン鳴る。


「え、やば。めっちゃいいね増えてる」


フォロワーも急増中。再生数も10万超え。


「え、バズってる!?てか何が刺さったんだろ…?」


 


次の日。教室でも「結菜ちゃんってバズってた子?」と話しかけられる。


「え〜やばくない?ついに来たかも、私の時代!」


結菜は天にも昇る気持ちだった。


 


けれど、葵は気になっていた。

コメント欄にちらほら混じる、変なリプライ。


「この子、まだ気づいてないのかな…」

「この構図、またあの角度か」

「笑ってるのが一人だけって気づくと寒気する」


「何これ…誰が書いてんの、こんな……」


気味が悪くなった葵は、結菜のInstagramをこっそり見直す。

写真を拡大して確認していく。


──その時だった。


ある投稿写真、背景の窓ガラスに「誰か」が映っていた。

スーツ姿の長身の男。

顔は写っていない。ただ、毎回同じ位置に、背後に、そこに「いる」。


 


次の写真、次の投稿──すべてに、"それ"はいた。


 


「これ、いつ撮ったの?」


葵が結菜に聞いても、結菜は「あれ? 覚えてないなー」と笑うばかり。


「だってこれ、私のスマホじゃない。てか、このアカウント……ログインしてないんだけど」


「え?」


「私が投稿してるんじゃないよ」


 


画面を見つめる葵の手が震える。


ログイン元のIPをたどると、そこには“使われていない端末”の表示が一つ。


その機種名は、結菜のスマホの「ひとつ前」に使っていた、壊れたはずの端末だった。


 


そして、通知が一つ。

「新しい投稿がアップされました」


タイトルは「#推されたい 友達」。

投稿された写真は──


葵の後ろ姿。

カフェの席に座る彼女を、真後ろから、真夜中に、誰かが撮っていた。

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『ヒトという檻』 @ti-ya

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